【産婦人科医監修】妊婦に危険なトキソプラズマ症とは?お腹の赤ちゃんを守るための注意点

トキソプラズマという寄生虫による感染症を知っていますか。赤ちゃんに重大な影響を与えかねないにもかかわらず、妊娠中の検査が義務化されておらず、あまり知られていないのが現状です。トキソプラズマ症は、知識を持って予防すれば感染を防ぐことができるとか。妊婦さんにぜひ知っておいてほしい、トキソプラズマ症について解説します。

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この記事の監修

藤東 淳也
産婦人科医
藤東 淳也

目次

  1. トキソプラズマ症とは
  2. 妊娠中の感染が危険である理由
  3. 赤ちゃんをトキソプラズマ症から守るために
  4. トキソプラズマ症に感染していないか検査する
  5. トキソプラズマ症から赤ちゃんを守ろう

トキソプラズマ症とは

原因

トキソプラズマ症とは、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)という寄生性原生生物(原虫)によって起こる動物由来感染症です。人間を含めた多くの哺乳類や鳥類に感染します。

ネコ科の動物は、トキソプラズマ症の主要な感染源と考えられます。ネコ科の動物が初めてトキソプラズマに感染すると、トキソプラズマはネコの体内で有性生殖を行い、原虫の生活環のひとつであるオーシストを形成します。そのオーシストがフンとともに排出されると、数日で成熟し、人への感染力を持つようになるのです。

症状

健康な人が感染した場合はほとんど症状が出ないか、出てもリンパ腺の腫れや発熱といった軽いインフルエンザのような症状のみで回復することがほとんどであり、生涯にわたって保虫者となります。免疫不全者が感染すると重篤な症状を引き起こすことがあるため、注意が必要です。

妊娠中の感染が危険である理由

妊娠中に初めてトキソプラズマに感染し、それが胎児に感染すると「先天性トキソプラズマ症」を発症する場合があります。死産や流産、無事に産まれてきても精神遅滞、視力障害、脳性麻痺などの重篤な症状をもたらすこともあります。日本の妊婦さんの抗体保有率(すでに感染している人)は2−10%なので、それ以外の9割以上の妊婦さんは妊娠中に初感染してしまう可能性があることになります。

妊娠中の初期感染の全てが胎児に感染するわけではありませんし、胎児に感染しても必ずしも先天性トキソプラズマ症を発症するわけではありません。
妊娠初期の初感染で、胎児が先天性トキソプラズマ症を発症する可能性は15%で、妊娠中期・後期に比べると低いですが、発症した場合の症状は重くなる傾向があります。妊娠中期・後期と進むにつれて感染と発症の確率は高くなりますが、症状は軽くおさまる傾向があります。

日本では、赤ちゃんに重い症状が出るケースは年間数件。ただし、この感染症が原因で死産や流産となり命を落とした胎児の数はカウントされていません。また軽度の場合、ある程度成長してから(人によっては成人してから)先天性トキソプラズマ症により視力に障害が出る場合もあるといいます。

赤ちゃんをトキソプラズマ症から守るために

トキソプラズマのヒトに対する感染は、生肉や加熱の不十分な食肉に含まれるシスト、ネコのフンや土壌などに含まれるオーシストを口から摂取することにより生じます。まぶたの裏側の粘膜(眼瞼結膜)からも感染しますが、空気感染や経皮感染はありません。

感染症予防の大前提は、感染経路をカットすること。そのためにできることを紹介します。

1.野菜はよく洗ってから食べる

畑の土壌には、猫のフンが近くになくても、雨などで拡散したトキソプラズマが潜んでいることがあります。野菜はとにかくよく洗って食べましょう。トキソプラズマのオーシストは70℃で10分間加熱すれば死滅するので、可能であれば加熱処理をしてから食べましょう。

2.ガーデニングの際は手袋をし、終わったら手を洗う

ガーデニングや野菜づくりなど土に触れる機会がある人は、作業の際に手袋をしましょう。土ホコリが舞って口に入る可能性もあるため、できればマスクも着用し、終わったら流水でしっかりと手を洗いましょう。

3.生肉や半生肉を食べない

妊娠中は子どもが生まれてからでは行きにくい焼肉やコース料理を食べに行くこともあるでしょう。しかし、レバ刺しやユッケ、鳥刺しなどの生肉や、レアステーキや生ハムなどの半生肉から感染するケースもあるため注意が必要です。

冷燻法で加工された食肉製品やフォアグラも妊娠中は避けたほうがよい食材です。妊娠期間はたったの9ヶ月間ですから、大好物であってもここはぐっとがまんしましょう。

ただし、こうした食材を食べたからといって必ずしも感染・発症するとは限りません。「コースで出た料理にフォアグラが含まれていた」など、食べた後に気づいて心配があるときは、医師に相談しましょう。

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4.ネコのフンには最大の注意を

ネコの体内で繁殖しフンとともに排出されたオーシストはとても強力なので、ネコのフンやトイレのそうじにはもっとも注意が必要です。

トキソプラズマが有性繁殖をするのは、初めて感染したネコの体内のみ。感染していない猫のフンはもちろん、感染してからかなり時間が経っているネコのフンは基本的に安全です。ただし目で見てわかるものではありませんし、外で遊びながら暮らしているネコがいつ感染するかはわかりませんよね。ネコを飼っている人は次のことに注意しましょう。

フンはとにかくただちに処理すること。フンとともに排出されたオーシストが繁殖可能な状態になるまでには1日以上かかります。ビニール袋に入れた場合は、袋の口をきっちりと縛る。作業の際にはもちろん手袋、マスク、メガネ着用。そして可能であれば、ネコのトイレのそうじは妊婦さん以外の人にお願いしましょう。

妊娠中や妊活中に新たなネコを飼うのは避けたほうがよいでしょう。ただし、ネコがオーシストを排出する期間は、初めて感染した後の数週間のみであり、生涯のうち1回限りです。トキソプラズマ症の予防のため、妊娠がわかってから現在飼っているネコを手放したり、隔離したりする必要はありません。

トキソプラズマ症に感染していないか検査する

妊娠の可能性があれば、抗体検査を受けましょう。現在、日本では約半数の施設でスクリーニング検査が行われています。

検査はトキソプラズマの抗体の有無を調べる血液検査です。妊娠時に抗体を持っていなければ、しっかり感染予防を行い、もし感染したかな?と疑われる機会があれば、もう一度検査して下さい。妊娠初期は毎月検査をするのも安心かもしれません。万が一感染しても、初期に発見されれば治療もより効果的です。

検査は義務ではないため健康保険の適用対象外ですが、1,000円~2,000円ほどで受けることができます。

トキソプラズマ症から赤ちゃんを守ろう

知識があれば予防できたはずの病気なのに、知識がなかったためにお腹の赤ちゃんに感染させてしまった。そのような悲しい後悔をしないためにも、きちんとした知識を持つことは重要です。予防の方法はいたってシンプルなので、妊娠中の人はもちろん、妊活中の人も感染予防を心がけましょう。

※この記事は2024年3月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。