常位胎盤早期剥離のリスクは?症状・発症率・治療法は?防げる?

妊娠中期以降に気をつけたい病気に「常位胎盤早期剥離」があります。子宮の壁から胎盤が剥がれる病気で、最悪の場合、母児の命を奪ってしまいます。常位胎盤早期剥離は早期に発見し、一刻も早く治療を行うことが重要です。ここでは、常位胎盤早期剥離の症状や母児へのリスク、治療法のほか、予防のために気をつけたいことを解説します。

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この記事の監修

藤東 淳也
産婦人科医
藤東 淳也

目次

  1. 常位胎盤早期剥離とは
  2. 常位胎盤早期剥離の原因
  3. 常位胎盤早期剥離の症状
  4. 常位胎盤早期剥離の母児へのリスクと死亡率
  5. 常位胎盤早期剥離の診断方法
  6. 常位胎盤早期剥離の治療法
  7. 常位胎盤早期剥離を防ぐには?
  8. 妊娠後期は腹痛や出血に敏感になって
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常位胎盤早期剥離とは

お腹の中の胎盤は、胎児に栄養や酸素を届ける働きがあり、胎児の発育に必要不可欠なものです。通常は、出産後15~30分程度で子宮の壁から自然に剥がれて外に排出されます。しかし、何らかの原因で、妊娠中期以降にお腹の中に胎児がいる状態で胎盤が剥がれてしまうことがあり、これを「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」と言います。発症の確率は妊娠全体の0.5~1.3%と低いですが、母体と胎児に大きなリスクがある病気です。

常位胎盤早期剥離になると、子宮の壁から大量に出血し、胎盤と子宮のあいだに「胎盤後血腫(たいばんこうけっしゅ)」という血の塊ができます。そのため、胎児への栄養や酸素の供給が止まるほか、母体は血液が固まりにくくなる「播種性(はしゅせい)血管内血液凝固症候群(DIC)」を起こしやすくなります。最悪の場合、母体と胎児の両方の命が奪われてしまいます。

常位胎盤早期剥離を発症しやすい時期は妊娠30~36週だといわれています。

常位胎盤早期剥離の原因

常位胎盤早期剥離は大変怖い病気であるにもかかわらず、その原因ははっきりとわかっていません。ただし、以下の項目に当てはまる場合、常位胎盤早期剥離を発症するリスクが高まると考えられており、注意が必要です。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に何らかの原因によって高血圧になることで、尿たんぱく、血管障害、臓器障害などを発症します。かつては「妊娠中毒症」と呼ばれていました。常位胎盤早期剥離の約半数は妊娠高血圧症候群が関連すると考えられています。

絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)

「絨毛膜羊膜炎」とは、胎児を包む絨毛膜(じゅうもうまく)と羊膜(ようまく)に細菌が感染して炎症を起こす病気です。炎症により、子宮が強く収縮すると、胎盤の付着部位が剥がれやすくなります。

胎児奇形・子宮内胎児発育遅延

胎児奇形は胎盤の構造異常を伴うことが多く、常位胎盤早期剥離のリスクが高まります。重症の子宮内胎児発育遅延は妊娠高血圧症候群との関わりが指摘されています。

過去に常位胎盤早期剥離になったことがある

常位胎盤早期剥離を一度発症すると、二人目以降に再発する確率は5~15%になるといわれています。

前期破水

前期破水とは、本陣痛が始まる前に起こる破水です。破水によって子宮内圧が急激に低下するため、子宮と胎盤のあいだにズレが生じて、胎盤の付着部分に血液が流入してしまいます。

交通事故などによる腹部への外的刺激

外的な衝撃を受けてしばらくしてから発症する場合があるため、外傷後、数時間は胎児心拍数モニタリングや症状の観察を行うことが重要です。

喫煙

胎盤血管が収縮し、血流が急激に弱まることで、胎盤が壊死してしまうと考えられます。

常位胎盤早期剥離の症状

常位胎盤早期剥離の症状は、胎盤が剥がれ落ちた程度や場所、進行度によって異なります。

重症の場合

重症になると、強い下腹部痛が継続して起こり、お腹が板のようにカチカチに硬くなるのが特徴です。不正出血がみられることもありますが、量は多くありません。しかし、お腹の中では大量に出血しており、急性貧血やチアノーゼといった症状があらわれることがあります。また、胎動は少なくなるか、完全になくなります。こうした症状がみられた場合、胎児死亡や母体の障害は避けられないことが多いです。

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軽症の場合

軽症の場合は自覚症状がほとんど出ず、胎児心拍数モニタリングや超音波検査でも異常が見つかりにくいため、早期発見が難しくなります。しかし、なかには、軽度の下腹部痛やお腹の張り、少量の不正出血といった症状が出る場合があります。これらは切迫早産と同様の症状のため、常位胎盤早期剥離と切迫早産のどちらによるものなのかを慎重に観察する必要があります。とくに、妊娠高血圧症候群といったリスク因子を持つ妊婦さんは、常位胎盤早期剥離の可能性を常に考慮しなければなりません。

常位胎盤早期剥離の母児へのリスクと死亡率

胎児へのリスクと死亡率

胎盤が子宮から剥がれると胎児に酸素と栄養が供給されなくなるため、出産後に脳性まひなどの後遺症が残りやすくなります。また、死産の確率も高く、重症の場合の死亡率は30~50%に上るといわれています。

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母体へのリスクと死亡率

胎盤が剥がれる際に生じる胎盤後血腫という血の塊が、さらに周囲の胎盤を剥がしてしまうようになると、胎児の命に危険があるのはもちろん、母体にも大量出血による「出血性ショック」のリスクが生じます。

また、胎盤が剥がれた部分から母体の血液内に悪影響のある物質が入り込むと、DICという血液が固まりにくくなる状態になる恐れがあります。 DICは出血性ショックを悪化させ、肝臓や腎臓に重度の障害を起こします。出血をコントロールできなくなった場合、子宮の摘出が必要になり、最悪の場合、母体死亡を引き起こします。重症例の母体の死亡率は1~2%です。

常位胎盤早期剥離の診断方法

常位胎盤早期剥離は、発症初期にははっきりとした症状がほとんど出ません。少量の不正出血や下腹部痛がみられることがありますが、いずれも妊娠後期に比較的多い症状ですので、自覚症状だけで常位胎盤早期剥離を発見することは困難です。

常位胎盤早期剥離が疑われる症状がある場合は、エコー検査と胎児心拍数モニタリング(CTG)を行い、総合的に判断します。エコー検査では胎盤後血腫がみられないか、胎盤後血腫の凝固により胎盤が分厚くなっていないかを調べます。CTGでは切迫早産との判別のため、「遅発一過性徐脈(ちはついっかせいじょみゃく)」という「子宮の収縮より遅れて赤ちゃんの心拍数が減少し、遅れて回復する」状態や「頻脈」がみられないかを確認します。

常位胎盤早期剥離の治療法

常位胎盤早期剥離は、非常に軽症でない限り、妊娠週数にかかわらず緊急に胎児をとり出さなければならず、緊急帝王切開になることが多いです。胎児が生存していても時間が経過するにつれて、障害が残る可能性が高くなるからです。すでに出産が始まっていたり、子宮口が全開になっていたりすれば、腟から吸引する方法をとることもあります。

出血性ショックやDICが見られる場合は、母体の安全を最優先に考えて、まずはこれらの治療を行います。胎児をとり出した後も子宮からの出血が止まらければ、母体の命を守るために子宮摘出術を行わなければならないことがあります。

お腹の中で胎児が死亡してしまった場合も、時間の経過とともにDICの発症リスクが高まるため、速やかに経腟分娩か帝王切開を行うと同時に、DICの予防・治療をします。


ごく軽度の常位胎盤早期剥離で、胎盤が正常に機能していて胎児の心拍数に異常がなければ、入院して安静にすることで自然分娩が可能です。

常位胎盤早期剥離を防ぐには?

妊婦健診をきちんと受ける

常位胎盤早期剥離は早期に発見することで軽症に抑えられることがあるため、妊婦健診をきちんと受けることが大切です。定期的にエコー検査や胎児心拍数モニタリングを行うことで、常位胎盤早期剥離の兆候をいち早く見つけられます。妊婦健診時以外でも、不正出血があったり、胎動が弱くなったりした場合は速やかに受診しましょう。また、下腹部をぶつけるなどしてお腹に刺激があった際も、目立った外傷がなくても軽く見ず、念のために受診したほうが良いでしょう。

妊娠高血圧症候群の予防

常位胎盤早期剥離は妊娠高血圧症候群によるものが多いとされています。妊娠高血圧症候群の原因は明らかになっていませんが、発症のリスクを低くするには、塩分を控えて栄養バランスのとれた食生活にする、適度に運動するなどして、規則正しい生活を送ることが重要だといわれています。

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禁煙

妊娠がわかった時点で禁煙しましょう。自分が吸うのと同様に、副流煙を吸うのも常位胎盤早期剥離のリスクを高めてしまいます。周囲の人にも配慮してもらいながら、受動喫煙をしないように気をつけてくださいね。

妊娠後期は腹痛や出血に敏感になって

常位胎盤早期剥離は出血や下腹部痛を伴うため、臨月に発症するとおしるしや陣痛だと勘違いしてしまうケースもあるようです。陣痛は痛みに強弱の波がありますが、常位胎盤早期剥離の場合、強烈な痛みが突然起こり、継続するのが特徴です。妊娠後期の腹痛や出血には敏感になり、「おかしいな」と思ったらすぐに受診しましょう。

常位胎盤早期剥離は、発症してから数時間で母児が死亡することもありうる怖い病気です。発症頻度は低いですが、万が一に備えて、常位胎盤早期剥離の症状やリスクを頭に入れておいてくださいね。

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