癒着胎盤の原因と治療法は?帝王切開をした人は注意?子宮摘出?

癒着胎盤は、本来ならば出産直後に排出される胎盤が子宮からスムーズに剥がれない疾患です。分娩時に大量に出血し、妊婦さんが死亡するリスクもあります。発症頻度はごくまれですが、帝王切開の経験がある前置胎盤の妊婦さんは発症率が高まります。万が一に備えて、癒着胎盤の原因と治療法について心に留めておきましょう。

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この記事の監修

杉山 太朗
産婦人科医
杉山 太朗

目次

  1. 癒着胎盤とは
  2. 癒着胎盤の原因は?帝王切開だとなりやすい?
  3. 癒着胎盤はいつわかる?
  4. 癒着胎盤はどんなリスクがある?
  5. 前置胎盤の癒着胎盤は治る?
  6. 癒着胎盤を剥離する治療法は?子宮を摘出する?
  7. 癒着胎盤の産後はどうなる?
  8. 万が一に備えて癒着胎盤を知っておこう
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癒着胎盤とは

胎盤が子宮と癒着する

お腹の赤ちゃんが育つために、命綱の役割を果たしている胎盤。赤ちゃんが無事に生まれて役割を終えると、赤ちゃんとほぼ同時か、赤ちゃんの後を追うように自然に排出されるのが正常です。ところが、胎盤が子宮と癒着してしまい、出産後も子宮から剥がれないことがあります。これを「癒着胎盤」と言います。

胎盤は通常、絨毛(じゅうもう)という細かい根のようなものを母体の基底脱落膜(きていだつらくまく)という粘膜にくっつけて、胎児に栄養と酸素を供給しています。出産すると、この脱落膜は子宮壁からぺろっと剥がれて、胎盤とともに排泄されます。しかし、基底脱落膜が発育不良だったり、欠損していたりすると、絨毛が子宮筋層にまで侵入して付着し、癒着胎盤になってしまうのです。

癒着胎盤の発症頻度はまれなものの、分娩後に胎盤を剥がそうとすると大量出血するなど、非常に危険な疾患です。

癒着胎盤の分類

癒着胎盤は、胎盤の子宮筋層への侵入の程度によって、以下の3つに分類されます。

□楔入胎盤(せつにゅうたいばん)
絨毛が子宮筋層の表面と癒着しています。

□嵌入胎盤(かんにゅうたいばん)
絨毛が子宮筋層内に侵入しています。

□穿通胎盤(せんつうたいばん)
絨毛が子宮筋層を貫通し、子宮漿膜面(しきゅうしょうまくめん)にまでおよんでいます。子宮と隣接する膀胱にまで絨毛が侵入することもあります。

癒着胎盤の原因は?帝王切開だとなりやすい?

癒着胎盤は、さまざまな原因で、胎盤がくっつくための基底脱落膜の発育不全や欠損が起こることで発症します。その原因のひとつにあげられるのが、胎盤が子宮口を覆うように付着してしまう「前置胎盤(ぜんちたいばん)」です。子宮下部は脱落膜の形成が悪いことから、前置胎盤と癒着胎盤は合併しやく、その割合は前置胎盤の妊婦さんの5~10%といわれています。

前置胎盤は帝王切開の経験があると発症しやすくなります。帝王切開の手術痕は子宮下部にでき、脱落膜が欠損しやすいのですが、その部分に受精卵が着床して胎盤が付着すると、前置胎盤になると同時に、絨毛が子宮の筋層内に侵入するリスクが高まります。

前置胎盤と癒着胎盤の合併率は、帝王切開を経験した回数が多いほど増加します。前置胎盤の妊婦さんが癒着胎盤を合併する確率は、帝王切開の経験がない場合は3%、経験回数が1回は11%、2回は39%です。

癒着胎盤の原因としては、前置胎盤や帝王切開のほか、以下のものも考えられます。

□人工妊娠中絶の経験がある
□子宮内膜炎など子宮内膜の損傷や炎症がある
□子宮筋腫の手術など、子宮の手術を経験したことがある
□経産婦
□高齢出産
□多胎妊娠
□喫煙習慣

癒着胎盤の発症頻度は全妊娠の0.01~0.02%とされていましたが、近年、高齢出産や不妊治療の増加でリスク因子を持つ妊婦さんが増えたことで、0.04%に達したとの報告もあります。

癒着胎盤はいつわかる?

前置胎盤だと診断された場合、エコー検査やMRIで癒着胎盤かどうかを調べます。癒着の程度が強い嵌入胎盤と穿通胎盤は、検査で分娩前に癒着胎盤を診断できる場合があります。ただし、癒着の程度が軽い楔入胎盤は、検査の段階で発見することが困難です。そのため、特に帝王切開を経験したことがある前置胎盤の妊婦さんでは、癒着胎盤の合併を常に考慮に入れる必要があります。

癒着胎盤の多くは分娩時に判明します。前置胎盤では、帝王切開時に手で胎盤を取り出す「胎盤用手剥離(たいばんようしゅはくり)」が困難か、あるいは用手剥離の際に大量出血がみられて初めて癒着胎盤と診断されます。自然分娩では、分娩後30分以上経過しても胎盤が排出されない場合、癒着胎盤が疑われます。

癒着胎盤はどんなリスクがある?

通常、分娩後に胎盤が剥がれると、子宮が収縮し、それに伴って血管が圧迫止血されるため、出血が少量で済みます。しかし、癒着胎盤の場合、絨毛が侵入する部分に血管が多く、胎盤が剥がれると大量に出血します。また、胎盤が子宮に残ることで子宮の収縮が妨げられ、出血が止まりにくくなってしまいます。

大出血により、出血性ショックのリスクが高まるほか、母体の血液内に悪影響のある物質が入り込んで血液が固まりにくくなる「DIC」という状態になる恐れがあります。最悪の場合、妊婦さんが死亡にいたるケースもあり、分娩前に出血に備えて万全の準備をしなければなりません。

前置胎盤の癒着胎盤は治る?

癒着胎盤は前置胎盤と合併するリスクが高いことがわかっています。そのため、妊娠中に前置胎盤と診断されると、癒着胎盤を合併しているのではないかと心配になってしまうかもしれません。

しかし、前置胎盤は、診断される妊娠週数が早いほど、最終的に前置胎盤でなくなる確率が高まります。なぜかというと、胎児の成長とともに子宮の頸部が伸びてお腹が広がり、胎盤の位置が改善される場合が多いからです。妊娠中期の早い時期に診断されたのであれば、前置胎盤が治る確率は高いので、あまり神経質になり過ぎないようにしてくださいね。

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癒着胎盤を剥離する治療法は?子宮を摘出する?

前置胎盤と診断され、癒着胎盤を合併していることが疑われる場合、妊娠37週末までに予定帝王切開を行います。帝王切開時には、胎盤が剥がれた部分から大出血することが予想されます。そのため、帝王切開をするまでの入院期間中に、大出血に備えて自分の血を輸血用にストックする「自己血貯血」をするほか、血流を遮断して出血量を減らす「総腸骨動脈バルーンカテーテル」などを準備します。

癒着胎盤を剥離(はくり)する治療法は、癒着の程度や出血の量によって異なりますが、最悪の場合、母体の救命のために子宮を全て摘出する可能性もあります。癒着の程度が軽い楔入胎盤ならば、分娩後、子宮腔内に手を入れて胎盤を取り出す「胎盤用手剥離」を試みます。しかし、胎盤を剥離した後に出血が止まらない場合や、出血量が多くて用手剥離が困難な嵌入胎盤・穿通胎盤では、子宮摘出術や動脈血流遮断を行うことになるでしょう。

一方、出血が多くなければ、胎盤を剥がさないでおいて、後日処置することもあります。

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癒着胎盤の産後はどうなる?

用手剝離を行う場合、胎盤を全て取り除こうとしても、どうしても胎盤片が残ってしまいますし、子宮に穴が開いてしまう「子宮穿孔(しきゅうせんこう)」の危険性があります。そのため、子宮温存を希望する患者に対しては、胎盤を全て剥がさず、産後に「経過観察しながら子宮内に残った胎盤(遺残胎盤)の自然排出を待つ」「抗がん剤で胎盤を壊死させる」といった処置をとります。

なお、遺残胎盤や楔入胎盤、部分的な嵌入胎盤であれば、胎盤の自然排出や消失が期待できますが、嵌入・穿通している全癒着胎盤では、自然排出はほぼ不可能です。

経過観察や抗がん剤による化学療法は、いずれも再出血や感染、DICを起こす可能性が高いことは考慮に入れなければなりません。

万が一に備えて癒着胎盤を知っておこう

癒着胎盤は予防が難しく、また分娩時に初めて判明することが多い疾患です。大量出血のリスクがあり、場合によっては母体の命に関わると聞くと、不安な気持ちが生まれてしまうのは無理もありません。しかし、癒着胎盤の発症頻度はごくまれですので、過剰に心配せず、落ち着いて日々を過ごしてください。

ただし、帝王切開の経験がある前置胎盤の妊婦さんは、癒着胎盤の発症のリスクが高くなります。万が一の場合に備えて、事前に医師から治療法などについて十分な説明を受けておきましょう。

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