卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の症状、原因、治療法は?妊娠への影響も

卵巣過剰刺激症候群とは、不妊治療で使われる排卵誘発剤によって引き起こされる副作用のひとつで、卵巣周りに腹水がたまるといった症状を言います。ゴナドトロピン療法を行った場合、お腹が張ったり脱水のような症状を感じたりすることがあります。ここでは、卵巣過剰刺激症候群の原因や治療法、また妊娠への影響はあるのかどうかを紹介します。

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目次

  1. 卵巣過剰刺激症候群とは
  2. 卵巣過剰刺激症候群の症状は?
  3. 卵巣過剰刺激症候群が重症化すると
  4. 卵巣過剰刺激症候群の原因
  5. 卵巣過剰刺激症候群の診断
  6. 卵巣過剰刺激症候群の治療法
  7. 卵巣過剰刺激症候群になりやすい人は?
  8. 卵巣過剰刺激症候群になる確率
  9. 完治するには何日かかる?
  10. 卵巣過剰刺激症候群の妊娠への影響
  11. 卵巣過剰刺激症候群の予防法
  12. 早期発見で重症化を防ごう
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卵巣過剰刺激症候群とは

卵巣過剰刺激症候群(らんそうかじょうしげきしょうこうぐん)とは、不妊症の治療で使用される排卵誘発剤の影響で卵巣が腫れあがり、卵巣周りに水がたまる症状のことを指します。初期は卵巣周りのみ水がたまっている状態ですが、放っておくとたまった水がお腹全体に広がることになり、合併症を引きおこすことがある気を付けたい病気のひとつです。

医学用語では、卵巣過剰刺激症候群(Ovarian HyperStimulation Syndrome)と表記するめ、「OHSS」と略されることもあるでしょう。

不妊治療などの一環で排卵誘発剤を使用することにより、卵巣の中の細胞が過剰に刺激され多くの卵胞が育ちます。多くの卵胞が育つことにより卵巣が大きくふくらみ、卵巣の表面の血管から水分が放出されてお腹の中に腹水がたまってしまうのです。

さらに卵巣の腫れが原因で、身体にさまざまな症状が引きおこされることとなります。重症化すると血液の塊ができる血栓症がおこることがあり、早期発見が必要な病気のひとつです。

卵巣過剰刺激症候群の症状は?

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不妊治療中に排卵誘発剤を使用して、体調が悪くなったという方が多くいます。卵巣過剰刺激症候群の早期発見のためにも、次のような症状が出たら医師に相談が必要です。

お腹が張る

排卵誘発剤によって卵巣の中では多くの卵胞が育つことにより、卵巣が大きくふくらみます。卵巣がふくらむと卵巣の表面の血管から水分が排出されて、卵巣周りに腹水がたまりやすくなります。

卵巣周りに水がたまることから、常に下腹部が張っているような感覚や、お腹がふくれてきたと感た場合は、卵巣過剰刺激症候群を疑い医師に相談しましょう。

脱水のような症状

卵巣過剰刺激症候群の影響から水分がお腹にたまりやすくなるので、脱水症状を感じる場合があります。主な脱水の症状は以下の通りです。

・喉の渇き
・立ちくらみ
・ぼんやりする
・重苦しい
・食欲減退
・汗が出ない

喉の渇きや尿量が少ないと感じた場合は、身体に水分が不足している可能性があります。卵巣過剰刺激症候群が悪化していることが考えられるので、早めの受診が必要です。

吐き気

卵巣過剰刺激症候群は、お腹に水がたまる「腹水」が主な症状です。すると、お腹に水がたまることで内臓が圧迫され、吐き気がおこることがあります。

腹水により内臓が圧迫され続けると、日常的に吐き気を感じたり実際に嘔吐してしまったりすることがあります。お腹が張って、なおかつ吐き気がおこるのであれば、卵巣過剰刺激症候群の疑いがあるので医師への相談が必要です。

胃痛

腹水がたまることにより、内臓が圧迫されて胃痛がおこることがあります。ひどい場合は、横になって休んでも胃痛が治まらず、仕事を休んだり家事ができなかったりすることがあります。胃の痛みを感じたら、治療を行っている病院に相談しましょう。

尿量が少なくなる

腹水がたまることにより、膀胱が圧迫され頻尿になる場合があります。しかし、膀胱が圧迫されることにより尿意はおこるものの、実際にたまっている尿の量は少ないため排出される尿の量は少なくなります。

お腹が張る・吐き気がおこるなどの自覚症状がなくても、尿の量が少なく感じたら卵巣過剰刺激症候群の可能性があります。早めに医師に相談しましょう。

急に体重が増えた

卵巣過剰刺激症候群になるとお腹に水がたまるため、体重が増える傾向にあります。特に、排卵誘発剤を投与した後、一日で体重が1kg増えた場合は注意が必要です。

食生活や日常生活が変わらないのに体重が急激に増えたなら、自覚症状がなくても卵巣過剰刺激症候群の疑いがあるので、どれくらい体重が増えたかを医師に伝えましょう。

卵巣過剰刺激症候群が重症化すると

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不妊治療による排卵誘発剤の副作用で卵巣過剰刺激症候群になった場合、卵巣の腫れや腹水が見られても軽度ですむことがほとんどとされています。しかし、自覚症状がほとんどないからといって放っておくことで、悪化して重症化することがあります。重症化した場合は、以下のような合併症が引きおこされるので注意が必要です。

・血管の中に血の塊ができてしまい血液の流れが悪くなる血栓症(けっせんしょう)
・腎臓の機能が低下する腎不全(じんふぜん)
・呼吸不全

症状がひどい場合は入院となります。また、平成12年の日本産科婦人科学会会長講演によると、まれに血栓症により死亡するという例があげられています。

重症化を防ぐためにも、早期発見・早期治療が必要となるので、自覚症状がでたり卵巣過剰刺激症候群が疑わしかったりする場合は、早めに医師に相談しましょう。

卵巣過剰刺激症候群の原因

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卵巣過剰刺激症候群は、エストロゲンの一種である「エストラジオール」の数値が非常に高くなることが原因です。

主に卵巣過剰刺激症候群は、ゴナドトロピン療法(HMG-HCG療法)によって引きおこされることが多いとされています。ゴナドトロピンとは、脳の下垂体から分泌される、プロゲステロンとエストロゲンのこと指し、注射によって体内に投与することで卵巣が刺激されて排卵を促します。

クロミッドなどの排卵誘発剤で卵巣過剰刺激症候群が引きおこされるケースは少ないようです。しかし、厚生労働省が発表しているクロミッドの使用上の注意として、クロミッドを服薬すると同時に、卵胞刺激ホルモン製剤・ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン製剤・ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン製剤を投与した場合は、卵巣過剰刺激症候群を引き起こす可能性があるため注意が必要とされています。

卵巣過剰刺激症候群の診断

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ゴナドトロピン療法などにより、卵巣過剰刺激症候群の疑いがある場合、採血により血液の濃縮の具合から、肝機能に炎症があるかなどを調べることになります。さらに超音波検査によって、卵巣の大きさや腹水がどの程度たまっているかを調べて、卵巣過剰刺激症候群を引き起こしているかを確認します。

卵巣過剰刺激症候群が確認された場合、内臓が圧迫されて呼吸が苦しい場合は、胸のレントゲン写真を撮ることがあります。また、重度になって血栓症をおこしていないかを調べるために、血液凝固の検査をすることになります。

卵巣過剰刺激症候群の診断を受けると、重症化を防ぐためにも医師の判断により2~4日おきの通院となり、必要に応じて通院のたびに採血が行われる場合があります。

卵巣過剰刺激症候群の治療法

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日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会によると、卵巣過剰刺激症候群には軽度・中度・重度の3段階があります。軽度や中度の場合は経過観察による治療が一般的です。軽度の場合は、腹部の違和感・お腹が張る・体重増加が主な症状になります。また、中度になると、吐き気や嘔吐・腹水は脱水のような症状がおこります。

軽度・中度の場合

本来3~4cmの卵巣の大きさが、6cm~8cmまでふくらんだ場合、症状によって軽度・もしくは中度の卵巣過剰刺激症候群と診断されます。

診断された場合でも、医師の指示に従い無理のない生活をすることで腹水は時間とともに自然に体内に吸収されます。悪化させないために排卵誘発剤の投与をいったんストップして、腹水がなくなるのを待つことになるでしょう。

卵巣過剰刺激症候群の診断を受けた場合、または疑わしい場合は以下のことに気を付けながら過ごすことが大切です。

・仕事や家事を休めるならば休み、安静に過ごす
・こまめに体重を計測して、急激な体重増加がないか確認する
・水分補給をするたびに腹水がたまりやすくなるので、喉の渇きを抑えるために塩分を控えた食生活にする

症状が改善しない、逆に悪化する場合は必ず医師に相談しましょう。

重度の場合

卵巣が、ひどいときには12cmまでふくれ上がることで、重度の卵巣過剰刺激症候群と診断されます。

血栓症や腎不全の疑いがでるような、重度の症状であれば入院となります。腹水だけではおさまらず胸まで水がたまると呼吸困難を引き起こす可能性があるので、集中管理が必要な場合がでてきます。

また、卵巣過剰刺激症候群が重度になると、体内の水分量は多くなっているのですが血管内では血液濃度が濃くなっているため、血栓症をおこしやすくなっています。更なる悪化を防ぐためにも、医師の判断により、腹水を抜いたり血液の状態を元に戻したりする対処療法を行っていきます。

入院後の治療方法

卵巣過剰刺激症候群で入院となった場合は、身体全体の血液の量を保つ・尿の量を確保する・血液濃縮を防ぐために、水分や電解質の栄養分を体内にとり入れるために、点滴を行うことになります。血液中のたん白を維持するために、たん白製剤を投与することがあるでしょう。

また、医師の判断により、利尿を促し、腹水・胸水量の軽減を目的とした「低用量塩酸ドパミン療法」や、血栓症を予防するために「抗凝固療法(こうぎょうこやくりょうほう)」が行われます。

卵巣過剰刺激症候群になりやすい人は?

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体質により卵巣過剰刺激症候群になりやすい場合がある

卵巣過剰刺激症候群は、不妊治療により排卵誘発剤の投与の副作用として引きおこされることがほとんどですが、患者さんによってなりやすい体質となりにくい体質があります。なりやすい体質の人は、以下のような特徴があります。

・多囊胞性卵巣症候群 (PCOS)の診断を受けている
・痩せ型である
・18~35歳の排卵誘発剤が効きやすい年代
・以前に卵巣過剰刺激症候群になったことがある
・血中エストロゲン値が4000pg/mL以上ある
・卵胞の発育が20個以上と診断された
・ゴナドトロピン製剤投与の量が増加した
・妊娠が成立している

さまざまな因子が関係して、卵巣過剰刺激症候群が引きおこされると考えられています。なかでも、年齢も要因のひとつとなり、卵巣の反応がよく、質の良い卵子が育ちやすい18~35歳までの女性がゴナドトロピン療法にふみきった場合、卵巣過剰刺激症候群の可能性を考えて身体の変化に敏感になっても良いでしょう。

多嚢胞性卵巣症候群とは

多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)とは、卵巣の中にたくさん卵胞ができ、ある程度の大きさになるものの排卵がおこりにくい症状のことを指します。多嚢胞性卵巣症候群の診断を受けた人は、卵胞がたくさんできるという卵管障害のひとつであるため、卵巣過剰刺激症候群になりやすいといわれています。

卵巣過剰刺激症候群になる確率

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ゴナドトロピン療法を行った場合、卵巣過剰刺激症候群を引き起こす確率は全体の10%程度だといわれています。ただし、ほとんどの場合が早期発見により軽度ですみ、重度となり入院にいたるのは一握りだとされています。

産婦人科学会が発表している婦人科疾患の診断・治療・管理によると、卵巣過剰刺激症候群が重症化して入院が必要になるのは10万人あたり794〜1,502人(0.8〜1.5%)とされています。

また、さまざまな研究やデータにより卵巣過剰刺激症候群になりやすい体質がわかってきています。そのため、あらかじめ医師の問診より発症しやすい体質の場合は、排卵誘発剤を慎重に投与されたり予防策を提示されたりと措置がとられます。そのため、卵巣過剰刺激症候群を発症しやすいデータがほとんどなかったころよりも、発症する確率は下がってきているといわれています。

完治するには何日かかる?

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排卵誘発剤を投与しても妊娠が成立しなかった場合、次の月経が来ることで腹水が治まることがほとんどだとされています。そのため、約2週間程度で改善される場合が多いでしょう。

妊娠している場合には、腹水がたまった状態が2~3週間ほど続くとされています。ゴナドトロピン療法によりhCG注射を投与した翌日あたりに排卵がおこるので、約18日後(生理予定日の1週間後)あたりに妊娠反応を調べることで、妊娠が成立しているか判明します。また、妊娠検査薬が反応する時期になっても基礎体温が高く、卵巣過剰刺激症候群の症状が続く場合は、妊娠している可能性があるでしょう。

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卵巣過剰刺激症候群の妊娠への影響

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卵巣過剰刺激症候群になってしまったとしても、次の排卵に向けて妊娠はできます。また、症状が悪化しなければ、妊娠を継続することが可能です。

ただし、卵胞がたくさんできている状態なので、双子や三つ子などの多胎妊娠の可能性が高まります。多胎妊娠となった場合は母体や卵巣への負担が大きくなり、出産時のリスクも高まることを頭に入れておきましょう。

また、卵巣過剰刺激症候群のまま妊娠をすると、まれに症状が急激に悪化してしまい重度の卵巣過剰刺激症候群に陥る恐れがあります。入院にいたった場合、治療を優先させるために、やむを得ずに母体の安全を優先して、HCGの刺激を絶つ目的で人工中絶を余儀なくされることがあります。

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卵巣過剰刺激症候群の予防法

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ゴナドトロピン療法を行う際に、きちんと超音波で卵巣の状態を確認しながらHMGを少量から始めることにより、卵巣過剰刺激症候群を予防することが可能です。また、医師の判断により、排卵前に投与するhCGの量を減らしたり、性腺刺激ホルモンを刺激する他の薬に変更したりすることがあります。

慎重にゴナドトロピン療法を行った場合でも、体質により卵巣過剰刺激症候群になることがあります。その際、悪化を防ぐためにHMGの投与を中止することになります。もし、卵巣過剰刺激症候群になった場合は、重症化を防ぐためにも、診断を医師に任せるだけでなく卵巣過剰刺激症候群が疑われる症状がないか、自分の身体と向きあってきましょう。

早期発見で重症化を防ごう

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卵巣過剰刺激症候群は、早めに気づき治療をすることがとても大切です。不妊治療などでゴナドトロピン療法を行ったり排卵誘発剤を使用したりする場合は、卵巣過剰刺激症候群のことを頭に入れておくと、いざというときに安静にするなどの対処ができます。

卵巣過剰刺激症候群を放っておくと重症化して血栓症や腎不全をおこし、入院になったり、場合によっては命に危険が及んだりします。そのため、少しでも違和感を感じたら、早めに医師に相談するようにしましょう。

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