精索静脈瘤の症状、原因、不妊への影響、手術の必要性、放置の危険性について

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は、男性の6~7人にひとりは見られる珍しくない病気です。男性不妊の一因となるため、陰嚢に違和感があれば適切な対処が必要です。精巣周辺に現れる症状や、静脈瘤が起こる原因、日帰りでも可能な手術などの治療法を解説します。

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目次

  1. 精索静脈瘤とは
  2. 精索はどこにある?どんな組織?
  3. 精索静脈瘤の症状は?自分でわかる?
  4. 精索静脈瘤は何が原因で起こる?
  5. 精索静脈瘤の不妊への影響は?
  6. 精索静脈瘤の検査と診断方法
  7. 治療の内容は?手術は必要?
  8. 放置すると危険な理由
  9. 精索静脈瘤には早めの対処を

精索静脈瘤とは

精巣につながる静脈がこぶとなった状態

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は、精巣の周辺にある静脈に瘤(こぶ)状の膨らみができてしまっている状態です。精索静脈瘤は男性の15%に見られるもので、良性の病気です。健康に大きな影響はありませんが、陰嚢部分の不快感や違和感を覚えることから、泌尿器科へのできるだけ早い受診が必要となります。

男性不妊の一因となる

男性不妊症と診断されている人のうち、約40%という高い確率で精索静脈瘤が見られます。特に、二人目不妊となると約78%に精索静脈瘤が見られることから、妊娠を望んでいるカップルにとっては見過ごすことのできない病気です。

精索はどこにある?どんな組織?

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精巣から鼠径部につながる部分

精巣からのびる精管は、恥骨結合と腰骨をつなぐ鼠径靭帯の内側を走って膀胱の裏側に通じ、陰茎へとつながっています。精索はこのうちの「精巣から鼠径部」までの部分、言い換えると「睾丸から股の付け根」までの部分を指します。長さはおよそ11~12cmで、陰嚢の上部に位置しています。

精管や血管などがひも状になったもの

精索は、精管と血管や神経などが薄い皮膜で覆われた結合組織です。直径1cmほどの細長いひも状(索状)であることから、精索と呼ばれています。静脈瘤が起こるのはこの中の「蔓状静脈叢(つる状じょうみゃくそう)といわれる血管です。細かく枝分かれした細い血管が、動脈を覆うように絡まっています。

精索静脈瘤の症状は?自分でわかる?

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セルフチェックが可能

精索静脈瘤は血管がこぶ状に盛り上がるため、痛みや違和感などの感覚的な症状のほかに陰嚢周辺に目に見える変化が現れます。不妊につながる異常がないか、セルフチェックで状態を確認してみましょう。

精巣の高さが左右で違う

医学的なデータでは精巣は右側が少し大きく、やや上方に位置しているとされていますが、見た目で確認できるほどの左右差ではありません。しかし、精索静脈瘤が起きると血管が拡張するため、一般的に精巣部分が垂れ下がったようになります。

陰嚢部がゴツゴツしている、腫れがある

蔓状静脈叢は普段は陰嚢の中に隠れていますが、精索静脈瘤ができると、血管の腫れが陰嚢の表面に現れます。ゴツゴツしたしこりが数珠状に連なっていたり、粒が見えたりします。血管の腫れは、仰向けに寝た状態よりも立った姿勢で顕著になるため、起きた状態でチェックしてみましょう。

陰嚢部が痛む

症状が軽いうちは、自覚症状はほとんどありません。そのため、不妊治療に訪れて精索静脈瘤と認識することもあるくらいです。

しかし、無自覚なうちに症状が進むと、陰嚢痛や不快感が出てくることがあります。痛みは鈍痛であったり、ヒリヒリとした疼痛であったりと個人差があります。人によっては足を組んだときに痛みを感じることや、夕方になると症状が悪化するという例もあります。

まれに精巣萎縮が見られる

精索静脈瘤があると血流が停滞しうっ血が起きやすくなるため、精巣が委縮することがあります。精巣のサイズは容積で表され、大人で通常15~25mLほど、14mL以上が正常です。医療機関ではオーキドメーターという器具を使って大きさを測定しますが、自分で調達するのは容易ではありません。

そこで、いくつかの泌尿器科では、精巣の縦と横のサイズから容積を割り出す簡易的な計算方法を紹介しています。一般的な体積を求める計算式「縦×横×厚さ」に、精巣を覆っている皮や膜の厚さを考慮し、計算式に0.7を乗算します。厚さは測定するのが難しいため、横のサイズに置き換えます。よって、精巣の容積を求める計算式は縦(cm)×横(cm)×横(cm)×0.7です。精巣サイズを定規などで測って計算してください。

精巣は楕円体なので、計算式で求められる数値はあくまで参考値です。計算で求めた数値に問題がなくても、精巣が小さいと感じるときや左右差がある、不妊の症状があるといった場合は、医療機関で相談するようにしましょう。

精液検査の数値が基準値以下となる

不妊治療で精液検査を行い、運動率の低下や正常形態率に異常があると、精索静脈瘤が疑われます。これは、精索静脈瘤が造精機能に影響している可能性があるからです。目に見える症状がないときには、血液の流れを確認する超音波検査によって診断を確定します。

精索静脈瘤は何が原因で起こる?

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左腎静脈が圧迫されるナットクラッカー現象

蔓状静脈叢は左内精静脈とつながり、左腎静脈に合流しています。左腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈の隙間を抜けるように走っており、このふたつの動脈に挟まれて圧迫されることがあります。これが「ナットクラッカー現象」です。

左右の内精静脈と左腎静脈が接続する部分には、血液の逆流を防ぐ弁がついていますが、ナットクラッカー現象が起きると還流障害を起こし、精巣静脈に血液が逆流することがあります。結果としてその先の蔓状静脈叢に血液が滞留し、精索静脈瘤ができると考えられています。

左内精巣静脈と腎静脈の位置に起因

精巣静脈は右側より左側の方が長く、左腎静脈に直角に交わっています。血液は重力に逆らって精巣から上っていくため、構造的に血液が滞りやすいのです。さらに、逆流を防ぐための弁に異常があって正常に働かないと、左腎静脈から精巣静脈に血液が逆流して精索静脈瘤を引き起こすことがあります。

精索静脈瘤の不妊への影響は?

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造精機能の悪化を招く

男性不妊症と精索静脈瘤の直接的な関連性は、研究が続けられている領域ですが、WHO(世界保健機構)は、男性不妊と精索静脈瘤の関係があると結論付けています。

精索静脈瘤が造精機能に悪影響を及ぼすことについて、特に問題となるのは精巣の温度上昇です。精子を作るのに適している温度は約32℃で、陰嚢は体温よりも2-3℃ほど低く保たれています。しかし、精索静脈瘤によって血流が停滞すると精巣の温度が上がるため、造精機能の悪化を招くと推測されるのです。

精子のDNA損傷を引き起こす

血液の停滞は、精巣や血液の酸化も招きます。酸化ストレスにさらされた精子は質が低下し、運動率が減少したりDNAの損傷が起きたりします。男性不妊では、精索静脈瘤の治療をすることによって妊娠する確率が上昇したり、流産率が低下したりといったケースもあり、精索静脈瘤の可能性を考えることはとても重要です。

男性ホルモンの分泌が低下

精巣では「テストステロン」という男性ホルモンも作られています。精子を作るために必要なホルモンですが、精巣萎縮が起きるとホルモン分泌が低下すると考えられています。また、近年明らかになってきた「男性更年期」は、テストステロンの分泌量と密接な関係があり、恒常的な男性機能の維持のためにも、精索静脈瘤を疑う症状が現れたら早めに医師による診察を受けてください。

精索静脈瘤の検査と診断方法

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視診と触診でチェック

精索静脈瘤の診断は、陰嚢部分の見た目を医師がチェックする「視診」、陰嚢に触れながら腫れの具合をチェックする「触診」が行われます。性器を医師に見せるのは抵抗があるという方も、心の準備をしておきましょう。

また、ウイルス感染やそのほかの疾患と区別をするために、採血や採尿、精液検査なども並行して行われます。

エコー検査で確認

エコー検査では、陰嚢の血流を見る「カラードプラ法」が用いられます。カラードプラ法では、血液の流れを色分けすることで、遠ざかる血流と近づいてくる血流を見分けることができます。精索静脈瘤があると血液の流れが特徴的なモザイク柄を示すことから、目に見えない静脈瘤の大きさや数を診断するのに役立ちます。

症状は三段階で評価

精索静脈瘤の症状はグレード1~3の三段階にわけられ、症状の重症度によって治療を選択していきます。グレード1は「立位腹圧負荷」のときに、静脈瘤ができるかどうかで判断します。立位腹圧負荷とは、立ったままお腹に力を入れた状態です。

グレード2はお腹に力を入れなくても、立った姿勢で静脈瘤に触れることができる状態を指します。グレード1もグレード2も軽症に分類され、見た目で静脈瘤が確認できるまでに症状が進むと、グレード3と診断されます。

治療の内容は?手術は必要?

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治療は手術が中心

精索静脈瘤が軽度と診断されたときは、定期的に進行を確認したり、漢方薬を処方したりしながら経過を観察します。しかし、症状が重症な場合や、男性不妊症の原因が精索静脈瘤にあると判断されたときは、手術が治療の選択肢として提示されます。

手術適応は精液所見や静脈瘤の程度で判断

精索静脈瘤の手術に対しては、ヨーロッパやアメリカのガイドラインが参考にされています。そのため、医療機関によって、手術を行うための判断基準にはややばらつきがあります。

多くは精索静脈瘤の症状がグレード2以上で精液検査の結果に異常があること、治療によって自覚症状の改善が見込まれること、女性パートナーに妊孕性があり、精索静脈瘤の治療後の妊娠が見込まれることなどが、手術の適応を判断する材料となります。

手術種類は3つから選択

手術では、精索静脈瘤につながる血管を縛る処置が施されます。現在、日本で行われている精索静脈瘤の外科的治療は3つで、処置する場所や使う器具で名称が異なります。

近年施術例が増えているのが「顕微鏡下低位結紮術」です。手術用の顕微鏡を使い、足の付け根付近の低い場所で血管を縛ります。リンパ管や動脈を温存でき、再発の可能性を抑えられるのが特徴です。

一方、顕微鏡下低位結紮術は高額で、特殊な器具を必要とすることから別の術方式を採用している医療機関もあります。腎静脈近くの高い位置で血管を縛る「高位結紮術」、腹腔鏡を使ってお腹の付近で血管を縛る「腹腔鏡下手術」は保険適用されており、比較的容易に行える手術です。しかし、これらの術式は動脈やリンパ管を残すのが難しく、再発の可能性は顕微鏡下手術よりもやや高めです。

以前は手術以外の治療法として、血管内にカテーテルを挿入し、逆流を防ぐためのコイルなどを入れて血管に栓をする「経皮的静脈塞栓術」も行われていました。体への負担が少ない治療法ですが、再発リスクを考えて手術を選択するケースが増えています。

日帰り手術が可能な顕微鏡下低位結紮術

顕微鏡下低位結紮の手術時間は1~2時間ほどで、局所麻酔で行われます。切開の傷跡も小さいことから、1泊もしくは日帰り手術が可能です。翌日には通常通りに出勤することができ、精神面・身体面への負担が軽いという点からも評価されています。

しかし、顕微鏡下低位結紮術は高度な医療で、専用の設備や技術を有する医師が欠かせません。医療機関によっては施設内で対応していないこともあります。保険の適用や費用も施設によって異なるので、受診前に確認しておくと安心です。

手術と不妊治療は同時並行が望ましい

精索静脈瘤の手術が行われたケースでは、精液所見が上がったという報告は5~7割を超え、妊娠率も向上したという報告がいくつかあります。ただし、手術が必要かどうかはケースバイケースで、手術を行ったとしても100%の妊娠が保証されるものではありません。

術後に精液所見の改善がみられるまでは3~6ヶ月ほどかかるため、精索静脈瘤の手術は人工授精などの生殖補助技術と並行して行うことが推奨されています。

放置すると危険な理由

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手術での改善が見込まれづらくなる

精索静脈瘤は良性の疾患ですが、放置しておくと静脈瘤が進行し手術をしても症状が改善されないことがあります。静脈瘤のグレードが低く、ただちに治療を必要としない場合でも、定期的な検査は欠かせません。

妊娠を望んでいる場合は、適切な生活指導を受けることも大切です。心配なことがあるときは、早めに医師に相談してみましょう。

妊活の負担が大きくなる可能性がある

精索静脈瘤が原因で精巣機能が低下すると、精子の運動率が下がったりDNAの損傷が起きたりします。精液中に正常な精子が見られなくなると、体外受精や顕微授精といった高度な生殖医療技術が必要となります。

生殖医療技術は妊娠の可能性を高める反面、費用や精神面への負担が大きいものです。精索静脈瘤が疑われる場合は、早め早めの対応が大切です。

精巣機能の低下が進行しやすい

精索静脈瘤を放置しておくと、静脈瘤の症状が進行するばかりか、造精やテストステロンの分泌といった精巣機能の低下も進行していきます。精索静脈瘤を治療したところ、精子を作る機能とともに、テストステロンを分泌する細胞の機能も改善したという報告があり、放置にメリットはないことがわかります。

精索静脈瘤には早めの対処を

男性不妊症の原因が精索静脈瘤と診断され、手術が必要と判断された場合には、治療によって妊娠にいたるケースが多いと報告されています。医療機関によって治療への対応や手術実績は異なるので、治療方針を十分に精査したうえで、早めに医療機関を受診するようにしましょう。