「パパ見て、できた!」褒めるべき瞬間は子どもが教えてくれる【パパ小児科医コラムvol.5】
「子どもの自己肯定感を育むためには、褒めることが大切だ」という話を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。しかし、いざ子どもを褒めようとしても、どうやって褒めたら良いかわからないという方もいるようです。パパ小児科医のぱぱしょー先生が、子どもの褒め方についてご自身の体験を交えながら教えてくださいました。
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目次
TwitterやInstagramでママたちから絶大な信頼を得ているパパ小児科医(ぱぱしょー)先生が、小児科医とパパの両方の立場から子育てのアドバイスを書いたコラムの第5弾。
今回は「子どもの褒め方」について、chiikoさんのイラスト付きで解説してくださいました。(ままのて編集部)
お正月休みの公園でのできごと
この前のお正月休みのことです。仕事納めをしたあとの年末年始は、私にとって子どもとまとまった時間を過ごす貴重なチャンスです。昼から公園などに出かける機会は少ないので、休みを利用して長女(4歳)と次女(2歳)をつれて公園に遊びに行くことにしました。
娘たちはごっこ遊びが好きで、石や葉っぱを使ってお店屋さんごっこをしたり、木の枝を使って魔法使いになったりしていました。最初はふたり一緒に遊んでいましたが、だんだんとバラバラに遊び始め、次女はブランコを始め、長女は相変わらず魔法使いの世界に浸っています。次女はまだ小さいのでブランコに自分だけで乗ることはできず、親がサポートしなければなりません。乗せてゆらゆらしてあげると満足そうに笑います。
そんなサポートをしていると、長女は離れたところにある滑り台のほうに向かいました。この滑り台は比較的高さがあり長女にとって初めてのものです。長女はかなり慎重で怖がりな性格のため、こういった高さのあるもの、初めてのものは苦手です。「こわいー」と言いながら、滑り台の上まで登るものの、滑ることはできず、また階段から下りてくるというのを繰り返していました。
イラスト:chiiko
長女は小さい子用の滑り台なら大丈夫ですが、大きい子用の滑り台は怖がって滑らないことがあります。無茶はしない反面、とても慎重なのです。こんなときはまず、父親である私が一緒に滑ってあげたり、横から支えながら滑ったりして慣らしていくところから始めます。
ブランコが一段落したら、サポートにいこう。離れたところから「ちょっと待っててー!」と声をかけつつ、視線を送り、次女のブランコが終わるのを待っていました。
ところが、視線の先には思いがけない光景がありました。彼女はなんとひとりで滑り降りようとしているのです。
そして高さのある滑り台からすーっと滑り降りると私のほうを見て、
「パパー!見てー!」
と大声で叫びました。
イラスト:chiiko
そして顔を輝かせながら全速力でこちらに駆けてきて
「パパー!ひとりでできたよ!」と。
「(長女)ちゃんすごいね!ひとりでできたね!素晴らしい!!」
おおげさにハグして頭をくしゃくしゃなでてあげました。
「わーわーやめてよー!」
大笑いしながら、再び滑り台に行き、何度も何度も繰り返し滑ります。あんなにびびっていた滑り台を。彼女は自分ひとりの力でやり遂げた喜びを噛み締めているようでした。ひとりの力で挑戦し、やり遂げた。それはとても大きなことだったのでしょう。
子どもは自分ひとりのちからでやり遂げたとき、親に見ていてほしい、褒めてもらいたいものだと思います。滑り降りてすぐに彼女は私のほうを見ました。こんなときは大げさに褒めるくらいがちょうど良いのだろうと思います。
子どもの自己肯定感を育むためには、褒められる経験が大切
イラスト:chiiko
私は子育てにおいては子どもをたくさん褒めて自己肯定感を育むことが大事だと考えています。小児科の外来に腹痛や頭痛などさまざまな症状で来る子どもの中に、原因がストレスと考えられることがよくあるからです。
子どもは周囲から否定的なことを言われ続けることで、「自分はどうせ…」と自己否定的になり、それはいつか身体の症状として出てきます。小児科の診療経験上、心因的な症状を訴えるお子さんの多くに、褒められた経験が不足していると感じています。
そのため周囲の方には子どもを褒めるようにお願いするのですが、「褒め方がわからない」「褒めるところがない」と言われてしまうことも多いのも事実です。たしかに、なんでもかんでも褒めるのはしらじらしいし、褒めることは決して簡単なことではないかもしれません。
子どもを褒めるべきタイミングは子どもが教えてくれる
世間には褒めるためのいろんな方法論があります。「1日3つ褒めるところを探しましょう」「具体的に褒めるとよい」など。ただそれらは頭の中でわかっていても、実行するのは案外難しいことで、小児科医の私にとってもそうです。
でも難しいことは抜きにして、まずは子どもが何かを頑張っているところを見つけることが、褒めるきっかけになるのではと思います。滑り台を降りた娘のように、子どもは褒めてほしいときに親のほうを見ます。子どもは自分ひとりで何かをやり遂げるところを、誰より親に見てほしい、褒めてほしいのではないでしょうか。それをいかにして見逃さないかが大切なのだと思います。
イラスト:chiiko
「褒める」ことは難しいですが、まずは子どもがひとりで何かしているところ、褒めてほしい瞬間を見つけることが大切です。「見ているよ」という姿勢が伝われば、子どもたちは褒めてほしい瞬間を自ら教えてくれます。
じっと視線をこらしていなくても、何かしているときであっても少し意識をむけておくだけでその瞬間はとらえやすくなります。その瞬間をとらえていれば、洒落た言葉は必要ありません。「すごいね!」「やったじゃん!」シンプルに気持ちをわかちあえたら十分です。
私は小児科医の立場でいろいろな子育ての方法論を学ぶ機会があります。しかし、忙しい子育ての中でそれらを意識的に実行することは難しいので、シンプルに子どもの自己肯定感を育むことに集中していて、彼女たちが何かにチャレンジする瞬間を見逃さないようにしようと意識しています。
私は娘たちより30年ほど先に生まれているので、残念ながら彼女たちより早くこの世を去る可能性が高く、生涯そばで守ってあげることはできません。であれば彼女たちが大人になるまでに、ひとりで考え、ひとりで壁を乗り越えていく力を与えてあげることが一番のミッションだと考えています。
イラスト:chiiko
自己否定的にならず、自分はできるんだ、チャレンジするんだという感覚、それだけでも養うことができたら、自分の子育ては成功したと思えるかもしれません。
忙しい生活の中でじっくり子どもと関わる時間を持てないと悩んでいる方は多いと思います。それは私にとっても悩みのタネです。しかし物理的な時間を増やすことは難しくても、「姿勢」であれば今すぐに変えることが可能です。「ちゃんと見てるぞ」という姿勢は子どもに伝わり、褒めるべきタイミングを教えてくれるでしょう。
「パパ見て、できた!」私は、何度その瞬間を目撃できるでしょうか。
子どもが赤ちゃんのころは、寝返りができた、おすわりができた、タッチができた…と初めてできたことに感動するものですが、子どもが大きくなってくると、子どもの「できた!」をつい見逃してしまうものですよね。
公園遊びは子どもが新しいことにチャレンジする瞬間を見つけるチャンスでもあります。忙しい日常の中でついつい子どもの悪いところに目が向いてしまうというママも、なかなか普段は子どもとゆっくり向き合えないというパパも、公園でお子さんの「できた!」を見つけて、褒めてあげてくださいね。(ままのて編集部)
著者情報
二児の父で小児科専門医。
X(旧Twitter)やInstagramを中心に子育て当事者の立場から、また医療者の立場から子育てに役立つ情報を発信しています。