子どもの風邪に薬は効かない!?病院での診察の意味は?【パパ小児科医コラムvol.3】
子どもが風邪をひいてしまうのはよくあることですよね。咳や鼻水、発熱が続くと、早く治すために薬を飲ませてあげたほうが良いのではないかと心配になることもあるのではないでしょうか。X(旧Twitter)で大人気のパパ小児科医(ぱぱしょー)先生が、風邪の経過や薬の意味などについて、わかりやすく解説してくださいました。
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目次
X(旧Twitter)やInstagramでママたちから絶大な信頼を得ているパパ小児科医(ぱぱしょー)先生が、小児科医とパパの両方の立場から子育てのアドバイスを書いたコラムの第3弾です。
今回は「子どもの風邪」がテーマです。子どもが風邪をひくと、薬を飲ませたほうが早く良くなるのではないかと考える方も多いですよね。一般的な風邪の経過や病院を受診する意味について、わかりやすく解説してくれました。子どもが風邪をひいたときに、医師の診察や治療方針の意味を知る手がかりにしてくださいね。(ままのて編集部)
風邪とは
寒くなり、風邪をひきやすい季節になってきました。いままでに風邪をひいたことがない人はほとんどいないと思いますが、「風邪」といっても思い描く症状はさまざまです。鼻水が出ている鼻風邪や、のどが痛いのど風邪、お腹をくだす風邪など、いろんな状態を含んだ便利な言葉である一方で、風邪の基準は曖昧なところがあって難しいものです。
小児科の医者は風邪をどのようにとらえているでしょうか?医学の教科書には、風邪は「ウイルスによる急性上気道炎感染症で、時に下気道に感染を起こすこともあるが、基本的には自然軽快する疾患」とあります。これはどういうことでしょうか。
風邪の原因はウイルス
まずウイルスは細菌やカビ、寄生虫などと同様に感染症を起こす病原体の一つです(あとで詳しく述べます)。
人が呼吸をするとき空気が通るところを気道といいますが、鼻やのどは上のほうなので上気道といいます。一方、気管や肺は下のほうなので下気道といいます。よって急性上気道炎感染症とは急に起こった鼻やのどの感染症という意味で、気管支炎や肺炎は下気道感染症といいます。これらが、基本的には自然軽快するとありますので、簡単にまとめると「ウイルスによって鼻やのどに急に起こった感染で自然に治るもの」が風邪ということになります。
風邪の一般的な経過はだいたい決まっています。咳や鼻水、くしゃみなどがありますが、これらは発症して数日でピークになり何もしなくても1~2週間のあいだに自然に改善することがほとんどです。発熱についても通常2~3日ほどで改善することがわかっています。
風邪には抗生剤が効かない
風邪は自然に良くなるというけれど、抗生剤などお薬を飲んだほうが早く治るのではないか?
そう考える人も多いかもしれません。答えはNOです。
いわゆる風邪はウイルスの感染によるものが大半で、抗生剤を飲んだから早く治るということはありません。そのことについてウイルスと細菌の違いとともに説明します。
ウイルスと細菌の違い
ウイルスというとインフルエンザウイルス、RSウイルスなどがありますが、病原体にはほかに大腸菌や肺炎球菌などの細菌も含まれます。目には見えない病原体ということは共通していますが、顕微鏡で見ると実際には大きさが全く異なりウイルスは細菌の1/10くらいの大きさです。
はたらきもずいぶん異なります。細菌は自分の力でエネルギーを作り、細胞分裂して増えることができますが(例外はあります)、ウイルスは人の身体の中に入らなければ増えることができません。シンクのスポンジの中で細菌は増えますが、ウイルスは増えることができないのです。細菌は細胞分裂するための機能を「細胞壁」という壁の中に備えていますが、ウイルスにはこの壁がなく、そもそも構造からして異なります。
抗生剤はこの壁(細胞壁)を壊したり、エネルギーを作れなくしたり、細胞分裂できなくしたりすることで細菌をやっつけていきます。一方でウイルスには細胞壁や細胞分裂する機能がないため、効果がありません。たとえば、アンパンマンに水をかけると力が出なくなりますが、バイキンマンに水をかけても何も起こらないのと同様です。ウイルスの感染に抗生剤は効果がないので、風邪に薬を使ったからといって早く治るわけではありません。
風邪かどうかの区別
そうはいっても、熱が4日以上続く場合や咳が2週間以上続くということもしばしばあります。風邪であればもちろん自然に治るのですが、ときに風邪では説明がつかない場合があります。風邪以外のものを見極めること、それこそが小児科を受診することの大きな目的です。
風邪であれば2~3日で症状のピークになりその後は改善傾向か横ばいになります。しかし、「悪化傾向」であれば風邪ではない可能性が高くなります。
鼻症状がひどくなれば副鼻腔炎(ちくのう症)かもしれませんし、溶連菌などの細菌感染症ということもあります。細菌感染症であれば抗生剤を使う必要性が出てきます。RSウイルスの感染症であれば熱が5日くらい続くこともありますし、気管支炎を起こして呼吸困難になります。
風邪はだれしもかかるものですが、風邪以外のものと区別することは簡単ではありません。その区別をすることが、小児科を受診することの一番大切な意味になります。小児科では風邪かどうか判断するいろんな手段があり、問診や診察、レントゲンや血液検査、RSウイルスや溶連菌などの鼻(又はのど)の綿棒検査などをすることで診断していきます。
風邪か風邪以外を区別することで、様子を見て良いのか、特別な治療が必要なのかがわかります。小児科を受診すると早く治るお薬を出してもらえるという期待があるかもしれませんが、診断が風邪であれば早く治すお薬はありません。水分をこまめにとり、しっかり睡眠をとることのほうがはるかに重要です。一方風邪以外であれば治療薬が使える場合がありますし、何もしなければさらに悪化する可能性があります。
このように、風邪はなかなか奥が深いものなのです。みなさんに一般的な風邪の経過や、受診する意味を知っていただき、医師の診察や治療方針の意味などを理解する手がかりにしていただけたらと思います。
次回の記事では、クリニックなどでもしばしば行われる指先からの「簡易採血」のタイミングや解釈について解説します。
著者情報
二児(2歳、4歳)の父で小児科専門医。
X(旧Twitter)やInstagramを中心に子育て当事者の立場から、また医療者の立場から子育てに役立つ情報を発信しています。