育児放棄(ネグレクト)の種類・具体例・きっかけや理由は?子どもへの影響と対策法

育児放棄(ネグレクト)は、必要な育児をしないという児童虐待の一種です。育児放棄は親や子どもの状況、養育環境など、さまざまな理由が重なって起こるといわれています。ここでは、育児放棄の種類や具体例、子どもへの影響を解説します。育児放棄の兆候がある場合の対策や、ネグレクトの可能性がある家庭への対処法も参考にしてください。

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この記事の監修

河井 恵美
助産師・保育士
河井 恵美

目次

  1. 育児放棄(ネグレクト)とは?
  2. 育児放棄(ネグレクト)の種類と具体例
  3. 育児放棄(ネグレクト)のきっかけや理由
  4. 育児放棄(ネグレクト)が子どもに与える影響
  5. 育児放棄(ネグレクト)の対策法
  6. ひとりで抱え込まないで
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育児放棄(ネグレクト)とは?

育児放棄とは、子どもに必要な育児をせず子どもを放置することを指します。育児怠慢やネグレクトと呼ばれることもあるでしょう。育児放棄は、子どもの成長不全を引き起こしたり、人格形成に問題を生じさせたりと、子どもの成長に大きな悪影響を及ぼします。

児童虐待の一種

育児放棄(ネグレクト)は、子どもに直接的に暴力をふるったり性的虐待をしたりするわけではないため、虐待ととらえない人もいるかもしれません。しかし厚生労働省によると、ネグレクトは身体的な虐待、性的虐待、心理的な虐待と同様に、児童虐待のひとつと定義されています(※1)。

保護者が子どもに適切な養育を行わないこと

育児放棄(ネグレクト)は、保護者がその子どもに「適切な養育」を行わないことです。具体的には、子どもに十分な食事を与えなかったり、家に閉じ込めたりすることがあげられます。そのほか、子どもをお風呂に入れずに不潔な状態にしておくことや、病気の子どもを病院に連れて行かないことも育児放棄にあたります。

育児放棄(ネグレクト)の種類と具体例

一般的ネグレクト(栄養ネグレクト・衣服ネグレクト・衛生ネグレクト)

子どもに衣食住の身体的なケアを与えないケースは、虐待の一種として世間的にも広く認識されているのではないでしょうか。子どもに食事を与えない、おむつ替えや洗濯をしない、身体や衣服が汚れていてもそのままにするなど、子どもが生きていく上で必要不可欠な衣食住の衣食に当たる部分を放棄してしまうというものです。

栄養ネグレクトを受けた子どもは、しっかりとご飯を食べさせてもらえないために栄養失調になったり、同世代の子どもに比べて体重が少なかったりします。夏場に脱水症状を起こすこともあるでしょう。衣服ネグレクトや衛生ネグレクトを受けている場合には、おむつかぶれや湿疹がひどくなったり、ひどい場合には身体から異臭がしたりすることもあります。

環境ネグレクト

環境ネグレクトとは、子どもの安全を守るために必要な監視を怠るものです。保護者が子どもを何日も家に置いたまま出歩いたり、保護者がパチンコをしているあいだに子どもを車の中で待たせたりするといったケースがあります。

アメリカなど海外では、子どもだけで留守番をさせることや、短時間子どもを車で待たせることもネグレクトとして禁止されています。

医療ネグレクト・保健ネグレクト

医療的ネグレクトとは、虫歯を治療しなかったり、子どもが高熱を出したり、感染症にかかったりしても、病院に連れていかずにそのまま放置してしまったりなど、子どもに必要な医療を受けさせないことです。適切な対処を施せば助かったはずなのに、そのまま放置されたことで子どもが命を落としてしまうという事件が起こっています。

また、子どもに必要な保健的ケアを行わないこともネグレクトと考えられています。たとえば、乳児健診に連れて行かない、必要な予防接種を受けさせないといったことです。予防接種に関する考え方はさまざまですが、防げる病気から子どもを守ろうとしないととらえられ、ネグレクトと考えられることが多いでしょう。

教育的ネグレクト

子どもを小学校に行かせないなど、必要な教育を受けさせないことを教育的ネグレクトと呼びます。原則として親には、子どもが6歳になったら小学校で教育を受けさせる義務があります。子どもが学校に来ないとなると地域の教育機関から登校するように促されますが、それさえも無視して子どもに家に閉じ込めてしまう家庭が存在します。

情緒的ネグレクト・愛情剥奪(はくだつ)症候群

情緒的ネグレクトとは、子どもの要求や言動に対して無関心になることです。子どもにはああしたい、こうしたいという考えや意志があるにも関わらず、それを聞き入れずに親の都合の良いように子どもをコントロールしようとするのです。

情緒的ネグレクトは、ネグレクトの中で最も周囲が気づきにくく、親自身も自覚がない場合が多いので、子どもがアダルトチルドレンになるといったさらなる悪循環を生み出してしまいやすくなります。

育児放棄(ネグレクト)のきっかけや理由

育児放棄などの子どもの虐待は、保護者の状況や子どもの障がい、養育環境など、いくつもの要因が重なって起こることが多いようです。育児放棄は許されることではなく、また子どもには何の罪もありません。ただし、育児放棄をする親もまた、子どもと同様に苦しんでいるケースも多いのです。

貧困や孤立

育児放棄などの虐待の大きな原因のひとつが貧困です。経済的な理由から子どもに十分な食事を与えられなかったり、医療費が払えないために子どもを病院に連れて行けなかったりすることがあります。子どもを育てるために保護者が長時間労働をして、結果的に子どもを放置しなければならないケースもあるでしょう。特に、日本では母子家庭や父子家庭などのひとり親家庭で、経済的な余裕がないケースが多いといわれています。

孤立も育児放棄や虐待の原因のひとつです。地域のつながりがなかったり、親戚など頼れる相手がいなかったりする状況では、保護者が精神的に追い詰められてしまいがちです。さらに孤立家庭では、行政のサービスや子育て支援などの情報が手に入りづらいという問題もあります。

最近では、ママひとりが育児をしなければいけないワンオペ育児が問題になっています。パパの仕事が忙しく、育児という重責をママひとりで負わなければならないケースも、育児放棄の原因となりうるのです。

ワンオペ育児で育児放棄の一歩手前の精神状態を経験しました

夫が仕事でほとんど家におらず、全ての育児をひとりで行っています。そのため、産後うつになりかけ(なっていたのかも)夫が休みの日には八つ当たりしたり、わけもわからず夜中ひとりでに泣いたりしてました。子どものことはかわいかったのですが、実際に育児放棄する一歩手前の精神的に陥ったことが何度かあります。

親の知識不足や病気・精神疾患

自分が親にネグレクトされて育った子どもは、それを知らず知らずのうちに自分の子どもにしてしまうことが多いといわれています。子どもに対する愛情の注ぎ方がわからず、自分が受けた育児を繰り返すことがあるのです。

また、育児に関する知識不足がネグレクトを引き起こすこともあります。子どもが必要とする食事量を把握していない、子どもが病気になっても病院に連れて行く目安がわからない、行政の子育て支援サービスや予防接種・乳幼児健診の受け方を知らないといったケースです。

そのような場合に、周囲からの適切な支援がないと、親が子どもをネグレクトしているという自覚がないままに、子どもを放置することがあり得ます。

子どもの障害や病気・親との相性

子どもが障がいや病気を持っている場合には、親にとって子どもを育てるのが難しく、虐待やネグレクトを誘発する要因となってしまうことがあります。子どもに障がいや慢性的な病気がある場合には、親も心身を休める時間や場所を確保しにくく、精神的に追い詰められてしまうことがあるのです。

また、親子であっても相性はあります。子どもに対する愛情があったとしても、保護者にとっては子どもが育てにくいと感じるケースもあるようです。

育児のストレス・疲れ

毎日の育児で極度に疲れを感じていたり、ストレスをためこんだりすることが、育児放棄の原因となることがあります。たとえば、子どもの深刻な夜泣きが連日続いて途方に暮れたり、上手に子どもをあやすことができずに苦戦したりすると、疲れやストレスがたまり過ぎてしまうかもしれません。そうした状況下でママが精神的に追い詰められると、子どもが可愛く思えなかったり急に子どもの愛し方がわからなくなったりしてしまう可能性があります。

また、育児ノイローゼや産後うつの状態がネグレクトにつながるケースがあります。育児ノイローゼや産後うつは、今まで愛情を懸命に注いできたママでもなってしまう可能性が十分にある病気です。自分の状態を客観的にとらえ、常に注意しておきたいものですね。

【助産師監修】産後の育児不安。育児ノイローゼになりやすい人の特徴&環境…

育児放棄(ネグレクト)が子どもに与える影響

身体への影響

ネグレクトを受けている子どもは、十分な栄養を摂ることができず、成長ホルモンがきちんと分泌されないために、同じ年代の子どもに比べて身体の発育が遅れてしまうことがあります。結果として低身長になることがあるようです。

また、病気やケガ、虫歯などが放置されたために悪化することがあります。最悪のケースでは、子どもが事故に巻き込まれたり、衰弱して命を落とす事件につながったりすることもないとは言い切れません。

知的発達への影響

子どもに必要な刺激を与えないことや、親からの愛情を与えないことが原因で、子どもの知的発達に問題が出てしまうこともあるようです。言葉の発達に遅れがでたり、学力が低くなってしまったりすることがあるでしょう。子どもが成長するにつれて回復が難しくなるため、周囲の大人による早期発見が大切だといわれています。

心理的な影響

育児放棄によって親子の関係をうまく築けないと、子どもも周囲の人との関係の作り方がわからず、上手に対人関係を築くことができなくなる場合があります。周囲の人との適切な距離の取り方や感情のコントロールが身につかず、大人になってから苦労することがあるでしょう。

また、親からの愛情が不足することで、自分に自信を持てずに過ごす人が少なくないようです。

育児放棄(ネグレクト)の対策法

誰かに話を聞いてもらう・相談する

育児を頑張ることは決して悪いことではありませんが、何でもひとりで抱え込もうとすると、自分を追い込んでしまうことにつながりかねません。育児で疲れてしまったり心身のどこかで限界を感じたりしたら、できるだけ身近な人に育児の手助けや協力を求めるようにしたいものです。もし強い疲れやストレスを感じることがあったら、なるべく周りの人を頼ってみてください。最初は勇気がいるかもしれませんが、話を聞いてもらうだけでも少しは肩の荷が下りるかもしれませんよ。

ただ、周囲に頼れる人がいるケースばかりではありませんよね。頼れる人がいない場合には、支援センターや児童館などの行政のサービスや、NPOなどの民間団体や企業が運営するホットラインなどを利用してみても良いでしょう。また、児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に電話をすると、最寄りの児童相談所に電話相談をすることができますよ。

支援センターや児童館の職員さんに話を聞いてもらいました

結婚して、知らない土地に住んでいます。近くに友人もいなく、実親も働いているため、なかなか子育てを助けてはもらえませんでした。

子育てで行き詰まったときには、とにかく支援センターや児童館やふれあい館に行って、気晴らしをしていました。初めは知らない人だらけでしたが、そこにいる職員さんたちは元保育士さんや経験豊富な方たちばかりだったので、職員さんに会いに行っていた感じです。

最初はすでにできあがっているママ友グループに入りづらく感じたこともありましたが、何度か足を運ぶうちに、少しずつ同じ月齢の子のママと話すようにもなり、孤独感はいくらか緩和されていくような気がしました。育児で行き詰まったときには、とにかくひとりになることが危険だと思います。意外とまったくの赤の他人に相談するほうが気持ちも楽なのでおすすめです。

ネグレクトの兆候があるときは子どもから一時的に距離をおく

育児に自信や関心がなくなってきたり、子どもについカッとなって手をあげてしまったりするなど、ネグレクトや虐待の兆候となる症状に気づいたら、一時的に子どもから距離を置きましょう。心が弱ってしまったときは、少しのあいだでも子どものいない時間を作ることで一気に症状が良くなることも多いものです。

保育園の一時保育や、託児サービスを行っている保育所、自治体が運営しているファミリーサポートやベビーシッターを利用しても良いでしょう。保育園では、地域に住む保育園に通っていない子どもとその親に対しても、子育て相談や園庭の開放などのサポートが行われていることがあります。保健所や市役所などの自治体に相談しづらい場合は、近くの保育園に頼る方法もありますよ。

単純に家事に疲れを感じているときは、家事代行サービスを利用するのもおすすめです。お金がかかることがほとんどですが、限界を迎える前に行政や民間企業が提供しているサービスを利用してすることで、気持ちをリフレッシュさせることができますよ。

周囲に育児放棄(ネグレクト)の可能性がある子どもがいるときには?

周囲からは明らかにネグレクトや児童虐待が起こっているとわかる状況であっても、当の本人たちはその事実に気づいていない(認めたがらない)場合が多いようです。本人たちはその生活が習慣化してしまうため、気づいたときには不幸な結果を迎えてしまうこともあります。

周囲に育児放棄(ネグレクト)や虐待の可能性がある子どもがいる場合には、まずは児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に電話をし、児童相談所に相談をしましょう。

また、周囲に子育てで追い詰められそうな保護者がいる場合には、さりげなく声をかけたり話し相手になったりすることで、ネグレクトを阻止することができるかもしれません。可能な範囲で、周囲の人にも手を差し伸べられると良いですね。

ひとりで抱え込まないで

子どもが生まれ育児が始まると、それまで当たり前だった生活がガラッと一変します。子どもを育てる責任の重さに加え、初めての育児で思い通りにならないこともあるでしょう。睡眠不足や孤独などにより、精神的に追い詰められて育児放棄をしてしまうケースもあります。

育児に不安を感じるときはひとりで抱え込む必要はありません。もし不安を感じたときには、周囲の人の助けや専門機関の力を借りてみてくださいね。

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