胎児水腫とは?消えるケースは?原因や予後、エコー画像について解説

「胎児水腫」と聞いても、ピンと来ない人が多いかもしれません。「胎児水腫」は赤ちゃんの全身に水がたまり、むくんだ状態になる病気です。発生頻度は高くないといわれています。妊婦健診の超音波検査で見つかることが多く、状態によっては赤ちゃんの命にかかわります。ここでは、胎児水腫の原因や予後、治療法などについて解説します。

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この記事の監修

杉山 太朗
産婦人科医
杉山 太朗

目次

  1. 胎児水腫とは?
  2. 胎児水腫の原因は?
  3. 胎児水腫はエコー画像で診断する?いつわかる?
  4. 胎児水腫の予後・治療法は?消えるケースはある?
  5. 胎児水腫になるリスクを減らすには?
  6. 胎児水腫は治療を受けることが大切
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胎児水腫とは?

胸水、腹水、心嚢水がたまって身体がむくむ

胎児水腫は、赤ちゃんの全身に水がたまってむくんでしまう病気ですが、具体的にはどういった場所に水がたまってしまうのでしょうか。詳しくみていきましょう。

・胸水貯留(きょうすいちょりゅう)
胸の壁と肺のあいだには、潤滑油として働く水があります。これを胸水と言い、なんらかの理由で異常に増えることがあります。胸水が増えた状態を「胸水貯留」と言います。

・腹水貯留
お腹にタンパク質を含む体液がたまった状態を「腹水貯留」と言います。

・心嚢水(しんのうすい)貯留
心臓を包む心嚢と心臓のあいだに水がたまった状態を「心嚢水貯留」と言います。

胎児水腫は、上記の3つのうち2つ以上の症状があり、なおかつ全身にむくみがみられる状態を指します。

胎児水腫になる確率は決して高くない

胎児水腫になる詳細な確率は不明ですが、比較的発生頻度が低く、珍しい病気のひとつであるといわれています。

胎児が死亡することもある

胎児水腫と診断された場合、赤ちゃんは低酸素状態になっています。この状態が続くと、身体の臓器に酸素と栄養を十分に供給できなくなり、機能が低下します。その結果、生命を維持することができなくなり、子宮内で亡くなってしまうことがあります。また、呼吸や循環に障害がおこり、出生後に亡くなってしまうこともあります。

胎児水腫の原因は?

胎児水腫には、免疫性胎児水腫と非免疫性胎児水腫があります。免疫性胎児水腫は、胎児の赤血球に対してママの身体が抗体を作り、赤血球が阻害されることで胎児に溶血性貧血がおこります。抗Dヒト免疫グロブリンという薬が開発されてからは、免疫性胎児水腫はほとんどみられなくなりました。

非免疫性胎児水腫がどのようにして発症するかは、原因となる病気によって異なります。どのような病気が胎児水腫を引きおこすのでしょうか。

ウイルスや細菌感染

胎児水腫は、りんご病の原因となるパルボウイルスB19によって引きおこされることがあります。りんご病といえば「子どもがかかるもの」というイメージを持っているママが多いかもしれません。しかし、子どものときにりんご病にかかっていないと、大人になってから感染することがあります。

パルボウイルスB19にママが感染すると、胎盤を通じて胎児も感染することがあります。そのうち約20%が胎児水腫や胎児の貧血を引きおこすといわれています。(※1)成人がパルボウイルスB19に感染しても、症状は現れないことが多いのですが、症状が現れなくても安心はできないとされています。

パルボウイルスB19は、胎児の赤血球になる前の段階の細胞に感染し、血液を作る機能を壊すことで貧血や低酸素血症を引きおこします。さらに、心筋細胞にも感染して、胎児水腫を引きおこす場合があります。

先天性の疾患

先天性の肺の奇形のひとつである先天性嚢胞(のうほう)性腺腫様肺奇形や、心臓の奇形、染色体異常、嚢胞性ヒグローマなどが胎児水腫の原因となります。

先天性嚢胞性腺腫様肺奇形とは、肺の大部分を占める肺胞細胞の一部が欠け、嚢胞が多数現れる病気です。自然に小さくなることもありますが、胎児水腫を引きおこすことがあります。

心臓の奇形があると、心臓が血液をうまく送り出せなくなり、身体のいたるところに水がたまり、胎児水腫が引きおこされることがあります。嚢胞性ヒグローマは、首の後ろの部分が嚢胞状に肥大したものです。染色体異常のダウン症候群やターナー症候群を合併することが多いといわれています。

双胎間輸血症候群(TTTS)

双子を妊娠した場合、それぞれの胎児にひとつずつ胎盤ができる場合と、ひとつの胎盤を共有する場合があります。ひとつの胎盤をふたりの胎児が共有する場合、胎児の血液が胎児のあいだで行き来することになります。

余分に血液が供給されている胎児は、全身にむくみがおこり、悪化すると胎児水腫になります。一方で血液が足りていない胎児は発育不全となったり、腎臓がうまく機能しなくなったりします。これを双胎間輸血症候群と言います。

胎児水腫はエコー画像で診断する?いつわかる?

胎児水腫は、超音波検査(エコー画像)によって診断されます。妊娠初期に「赤ちゃんの身体にむくみがある」と医師から言われることは少なくありません。経過観察後に自然と改善されることもあるので、むくみがあったら必ず胎児水腫になるとはかぎらないことを覚えておきましょう。

胎児水腫の原因である、心臓の奇形や嚢胞性ヒグローマは、ダウン症の胎児にみられることがあります。胎児水腫が確認された場合には、羊水検査をすすめられる場合があるでしょう。

羊水検査では、羊水を調べることで染色体異常の可能性を知ることができます。羊水穿刺法(ようすいせんしほう)と言い、注射針をお腹に刺して羊水を採取する方法が用いられます。羊水穿刺法によって、わずかですが流産する可能性があるため、医師とよく相談してから決めることが大切です。

胎児水腫の予後・治療法は?消えるケースはある?

胎児水腫は、どのように治療するのでしょうか。自然に治るケースがあるのかどうかも含めて解説します。

胎児水腫の治療法

胎児水腫の原因はさまざまなので、原因に合わせた方法で治療を行います。たとえば、胎児水腫の原因が心臓の奇形によっておこる不整脈の場合、不整脈を抑える薬をママに投与します。胎盤を通して胎児に薬が届き、胎児水腫の症状が改善される可能性があります。

また、胎児水腫をおこしていない状態の胎児貧血では、臍帯穿刺(さいたいせんし)による輸血を行うことで症状が改善に向かう場合があります。臍帯穿刺とは、注射針をママのお腹に刺して、臍帯(へその緒)に薬剤を注入する方法です。臍帯穿刺を行ったことで胎児の脈に異常がおこると、緊急帝王切開になる場合があります。

胎児水腫が自然に治る可能性は?

妊娠初期に確認された胎児水腫は自然に治ることがありますが、その頻度は高くないといわれています。なお、胎児水腫が治ったとしても、原因となる心臓の奇形や染色体異常まで治ることはありません。

胎児水腫による低酸素血症が続くと、赤ちゃんの生存率は低くなるといわれています。症状が改善せず、残念ながら赤ちゃんが亡くなってしまったときは、妊娠週数によりますが流産手術(子宮内容除去術)や赤ちゃんを娩出させる処置を行うことになります。

無事に出産できたとしても、臓器の障害による後遺症のリスクがあります。

胎児水腫になるリスクを減らすには?

胎児水腫の原因のうち、予防できる可能性があるのは、りんご病の原因ウイルスであるパルボウイルスB19です。染色体異常や心臓の奇形、嚢胞性ヒグローマなどは予防する方法が確立されていません。

パルボウイルスB19に感染しても、りんご病の特徴である頬の赤みなどの症状が現れないことがあるため、感染の有無がわかりづらいことがあるかもしれません。

妊娠中は、外出の際にマスクを着用する、帰宅後は手洗いうがいをするなど予防を徹底し、感染リスクを減らすことが大切です。特に子どもがいる家庭では、学校でりんご病が流行している場合に、子どもを通してママが感染する可能性があります。より注意したいものですね。

胎児水腫は治療を受けることが大切

胎児水腫は予後が良くなることを、なかなか期待しづらい病気です。しかし、原因によっては治療が可能なケースも一部あります。医師と相談したうえで、ママと赤ちゃんにとって身体の負担が少ない方法を検討できると良いですね。

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