【産婦人科医監修】染色体異常の原因、種類は?検査方法や流産の確率、疾患の有無について解説
「染色体異常」という言葉を耳にしたことはあっても、具体的な原因や種類、赤ちゃんへの影響を知っているママは少ないのではないでしょうか。ここでは、染色体異常かどうかを調べる検査方法をはじめ、流産の確率や染色体異常が原因でおこる疾患の有無について産婦人科医監修で解説します。
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この記事の監修
目次
染色体異常の原因と確率は?
染色体異常とは
染色体とは、DNAで構成されている遺伝子を記録する構造体です。ひとつの染色体につき、何百個もの遺伝子が含まれており、人は23対、合計46本の染色体を持ちます。染色体異常とは、染色体の構造に異常がある他、数が少なかったり多かったりする状態のことを指します。
染色体異常は、妊娠中に受けた検査で判明するケースもあれば、出産後にわかるケースもあります。
染色体異常の原因と確率
染色体異常がどのようにして起こるのか、原因はいまだ不明です。しかし、染色体異常が起こる確率や割合は、妊婦さんの年齢が上がるほど高くなっていきます。高齢で妊娠した場合に流産のリスクが高いのは、染色体異常の頻度が高いためと考えられています。
なお、染色体異常の多くは遺伝性が低いといわれています。しかし、いずれかの親に染色体の構造異常がある場合には、遺伝する可能性がないわけではありません。染色体の構造異常があっても、症状が現れない人のことを保因者と言いますが、子どもに染色体異常があったため検査した結果、パパ・ママが保因者であることがわかったというケースもあるようです。
染色体異常の種類は?
染色体異常には、数の異常や構造の異常などがあります。それぞれ詳しくみていきましょう。
数的異常
染色体は通常は2本で1対ですが、3本のものをトリソミー、1本だけのものをモノソミーと言います。なおトリソミーで出生できる可能性があるのは、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーのみとされています(13・18・21は染色体の番号)。ちなみに、21トリソミーはダウン症のことです。染色体に数的異常があると、個人差はありますが特徴的な顔つきになる他、知的障害、小頭症、低身長といった症状が現れます。
構造の異常
染色体は、長腕と短腕で構成されています。構造の異常は、均衡型と不均衡型に分類されます。均衡型には、染色体の一部が別の染色体と入れ替わる相互転座、染色体の長腕同士がつながるロバートソン転座の他、短腕と長腕が入れ替わる逆位、1本の染色体の中に別の染色体の一部が入り込む挿入があります。
均衡型の場合は、染色体異常による症状が現れないことが多いため、気づけないこともあるでしょう。不均衡型は、染色体の一部が失われたり、染色体が余分になっていたりする状態です。異常が起こっている染色体に応じた症状が現れます。
その他の染色体異常
モザイク型といって、正常な染色体を含む細胞に異常な染色体を含む細胞が混ざったものもあります。異常な染色体を含む細胞がどれだけ含まれているのかによりますが、一般的にモザイク型は症状が軽度とされています。
染色体異常がある場合の胎児の特徴や生後の疾患は?
染色体異常があると、特徴的な顔つきになる他、鼻や耳、口、手足などの奇形、心疾患などがおこる可能性があります。また、発達障害の他、知的障害などの症状も現れる場合があります。ダウン症の主な症状は、目の吊りあがりや首の後ろのたるみ、手のひらを横断する1本線、知的障害、心疾患、難聴、目の病気などです。
染色体異常があるときの母体の症状は?
お腹の赤ちゃんに染色体異常があるとき、ママの身体に起こる症状はあるのでしょうか。
染色体異常によって、心疾患や筋緊張低下が見られる赤ちゃんは胎内での活動性が低い場合があります。そのため、胎動をほとんどあるいはまったく感じないことがあります。ちなみに、つわりに関しては、染色体異常との関連性は認められていません。また、生命に関わる染色体に異常がある場合には、流産になる可能性があります。
両親のどちらかに染色体異常がある場合には、妊娠がなかなか成立せず、不妊になることもあります。不妊の原因となる婦人科系の病気がみあたらないのに妊娠しない場合は、染色体の検査を受けてみても良いでしょう。
染色体異常による流産はいつまでに起こる?
流産は、妊娠22週未満で起こりますが、そのうち12週未満で起こるものは染色体異常が原因の可能性が高いといわれています。なお、何週までに流産が起こるか事前に知ることはできません。また、流産を3回以上繰り返す場合を習慣流産と言い、両親のいずれかに染色体異常がある可能性があります。
妊娠22週を超えると、流産ではなく早産と呼ばれます。このような意味では、妊娠22週以降は流産しないと言えますが、早産も未熟な状態で出産することで、赤ちゃんの心身の発達に異常がおこったり、なんらかの障害が残ったりすることがあります。
染色体異常の検査方法は?いつわかる?
染色体異常は、出生前診断によって知ることができます。染色体異常があるかどうかは受精のときに決まります。これは、染色体異常がある卵子と精子が受精することで、胎内の赤ちゃんに染色体異常がおこるためです。
染色体異常がいつわかるかについては、検査方法によって異なります。どのような検査方法があるのかみていきましょう。
NT値の計測
NTとは、赤ちゃんの首の後ろのあたりの、超音波での見え方を意味しています。エコー画像を見ながら「赤ちゃんの首にむくみがある」と説明する先生もいるようです。NTの値が通常よりも大きい場合には、染色体異常の可能性が高いとされています。ただし、NT値が高い場合に疑われるのは染色体異常だけではなく、感染症や心疾患なども含まれます。
しかし、NTは赤ちゃんの向きや姿勢によって変化しやすい値です。赤ちゃんの異常の可能性を示すものであって、NTの値だけで染色体異常の確定診断とはなりません。妊婦健診の胎児計測で偶然確認されることもあるため、気になるママは妊婦健診の際に医師に聞いてみましょう。
羊水検査
妊娠15~17週に、染色体異常や先天性代謝異常の診断に利用されるのが羊水検査です。羊水には、赤ちゃんのDNAが含まれています。羊水を採取して赤ちゃんのDNAを入手し、染色体の検査をすることで、染色体異常の有無を調べることができます。
絨毛検査
エコーのガイド下で腟から医療器具を挿入し、絨毛を採取します。羊水検査よりも多くのDNAを採取できることや、妊娠9~11週と早い段階で検査できるというメリットがあります。
新型出生前診断
母体から採取した血液から染色体異常について調べます。羊水検査や絨毛検査よりも身体の負担が少ないため、注目を集めています。しかし、現在は新型出生前診断を受けられる病院は限られています。診断前には遺伝カウンセリングを十分に受けて、検査についてしっかり理解しましょう。
染色体異常がある場合はどうする?治療方法はある?
染色体異常そのものの治療法は、残念ながら確立されていません。ただし、染色体異常によっておこる病気や身体の異常の治療はできる場合があります。胎児の状態によっては、帝王切開で娩出し、出産後すぐに赤ちゃんの治療を行います。
体外受精や顕微授精は染色体異常のリスクが高い?
不妊の場合には、体外受精や顕微授精を検討する場合があります。体外受精は、体内から取り出した卵子と精子を受精させ、順調に発育した胚を子宮内へと移植する方法です。顕微授精は、体外受精では受精が成立しなかった場合や、体外受精をする前から受精できないと判断された場合に行います。顕微鏡で確認しながら卵子に精子を注入します。
体外受精では、精子が自然に卵子と受精するのを待ちますが、顕微授精では人為的に受精させます。選んだ精子が染色体異常を持っていた場合、胎児が染色体異常を持つことになります。そのため、体外受精よりも顕微授精のほうが染色体異常の赤ちゃんが生まれる可能性が高いのではないかと懸念されています。しかし、体外受精よりも顕微授精のほうが染色体異常のリスクが高いというデータはなく、自然妊娠よりも体外受精や顕微授精のほうが染色体異常がおこりやすいことを証明するデータもありません。心配しすぎる必要はないでしょう。
染色体異常・先天異常の予防法はある?
染色体異常を予防する方法について確立されていませんが、先天異常については予防できる可能性があります。ビタミンB群のひとつである葉酸は、先天異常の神経管閉鎖障害に関わっているといわれています。妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までのあいだに、食事に加えて毎日400μgの葉酸をサプリなどから摂ることで、神経管閉鎖障害の発生率を減らす効果が期待できます。ただし、1日1,000μgを超えない範囲で摂るようにしましょう。(※1)
染色体異常の検査前には、しっかり話し合いを
高齢の妊婦さんほど染色体異常のリスクが気になり、検査を受けることを検討しているかもしれません。染色体異常や検査方法について知識を深めることは大事です。しかし、もし赤ちゃんに染色体異常があった場合にどうするか(妊娠を継続するか、中絶するか)については、検査を受ける前に、パートナーや医師としっかり話し合っておけると良いですね。