胎児発育不全とは?胎児の成長が遅いときの治療法・入院・予後について解説
子宮内で赤ちゃんの発育が遅れたり停止したりしてしまう「胎児発育不全」という病気をご存じでしょうか。妊娠30週頃までの超音波検査でわかる推定体重によって判断される病気で、全妊娠の約8~10%にみられます。ここでは胎児発育不全の原因や兆候、治療法、などについて解説します。
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目次
胎児発育不全とは?
子宮の中にいる胎児の発育が何らかの原因によって阻害され、成長が遅れてしまうことを「胎児発育不全」と言います。胎児発育不全の場合、身長や体重に加えてさまざまな臓器が他の胎児と比べて未熟なため、赤ちゃんが病気や障害を持って生まれてきたり、死産になったりするリスクがあります。
胎児発育不全の原因と特徴は?
胎児発育不全はどのような原因で引き起こされるのでしょうか。胎児発育不全には、主に胎児の異常を原因とするものと胎盤や母体の状態や行動を原因とするものがあり、主な原因や発育パターンによって以下の2種類にわけることができます。
均衡型:胎児発育不全
【原因】染色体異常、先天性の奇形、胎内感染、アルコール中毒など。
約半数は先天的なもの。
【時期】妊娠初期に発症することが多い。
【割合】約2~3割
【特徴】細胞増殖に障害がみられ、頭部と身体の両方に成長の遅れがある。
身体が全体的に小さい。
不均衡型:胎児栄養失調
【原因】胎盤の異常や母体の妊娠高血圧症候群、多胎妊娠、喫煙などにより、
血液の流れが悪くなり、胎児に届く栄養が不足することによって起こる。
【時期】妊娠中期~後期に発症することが多い。
【割合】約7~8割
【特徴】頭部は成長しているが体幹の成長が遅く、やせている。
血流が少なく尿の排泄量が少ない。羊水過少の傾向がある。
胎児発育不全の兆候は?
胎児発育不全の自覚症状は少ないですが、以下のような兆候があるかもしれません。チェックしておきましょう。
体重が増えない
一般に、妊娠中は胎児の成長や母体の食事によって体重が増加していく傾向があります。推奨される体重増加量は1週間あたり0.3~0.5kgとされ、痩せすぎも肥満も母子の健康に悪影響を与えるといわれています。
妊娠中にもかかわらず体重がなかなか増えない人は、胎児の発育や母体の健康に問題があるのかもしれません。1ヶ月あたりの体重増加量が1kg未満の人は特に注意しましょう。
子宮底長が増加しない
通常は妊娠週数が進むごとに子宮が大きくなっていきます。子宮の変化を知るために妊婦健診では「子宮底長」という距離を測定しますが、これが増加しない、あるいは増加量が少ないのは胎児の発育が滞っているサインかもしれません。
胎動が減少する
頻繁にあった胎動が急に少なくなるなど、胎児の運動が減った場合にも胎児発育不全の可能性を疑います。変化に気づくため、お腹の様子を日々心に留めておくようにしましょう。
胎児発育不全はどんな検査でわかる?
妊娠週数の再確認
胎児発育不全を診断するためには、まずは正確な妊娠週数を把握する必要があります。妊娠初期の超音波検査で計測した胎児の大きさや最終月経から算出した妊娠週数をもとに妊娠週数をあらためて確認します。排卵日が特定されている場合には排卵日もひとつの根拠になるでしょう。
超音波検査による発育状況の把握
超音波検査で胎児の推定体重や胸囲、腹囲などを測定します。推定体重が標準偏差よりも-1.5以下の場合には胎児発育不全を疑い、羊水の量などその他さまざまな測定値によって発育不全のタイプ分けをします。
胎児発育不全の治療法は?
原因となる病気の治療
妊娠高血圧症候群や糖尿病など、何らかの病気が胎児の発育に影響を与えている場合には、病気の治療が原因を取り除くことにつながります。薬の投与や食事の改善など、具体的な治療法は病気によってさまざまです。
生活習慣の見直し
母体の生活習慣の乱れによって胎児発育不全が引き起こされている可能性があるため、飲酒や喫煙など、胎児発育不全の原因になりうる生活習慣を見直します。禁酒、喫煙、規則正しい生活の徹底などを行い、胎児に栄養が届きやすい健康的な身体づくりを進めていきます。
食事の補助
病院で食事について指導されることもあります。基本的な食生活を見直し、必要に応じてカロリー剤やビタミン剤を補給することもあるでしょう。カロリーは足りていても栄養バランスが乱れている場合もあります。食生活を改善し、栄養バランスのとれた食事をとることで、母子ともに適切な体重を維持することを目指します。
分娩誘発
胎児を子宮内にとどめたまま治療を行っても効果が薄い場合や子宮内にいると胎児にとって危険な場合には、予定日よりも早い時期に分娩を行い胎外で治療を行うこともあります。
胎児発育不全で入院することもある?
胎児発育不全では、母体や胎児の状態を正確に把握して適切な生活指導や補助を受ける必要があります。病院に定期的に通うだけで十分な場合もありますが、ケースによっては入院することもあるでしょう。
胎児発育不全の治療のための管理入院
定期的に母体の健康状況や胎児の機能の検査を行って正確に把握するとともに、日々の生活習慣を整えたり栄養管理を行ったりするため、胎児発育不全の治療で入院することがあります。安静にしながらしっかりと栄養補給を行い、治すべき病気がある場合には治療します。
管理入院の期間・費用・保険
胎児発育不全による入院の期間や費用はケースによってさまざまで、一概には言えません。数週間で退院した例もあれば、診断から出産まで入院していたという例もあります。
入院費用は治療内容や食事の回数、個室か大部屋かといった個々の事情によって異なります。最低でも5万~10万程度はかかると考えておくと良いでしょう。数十万円かかることもあります。
入院保険や補助金
ご加入の民間医療保険や共済で、胎児発育不全による入院が給付金の対象となっている場合があります。加入しているプランの支給対象を確認してみましょう。
また、医療機関や薬局の窓口で払う医療費が1ヶ月の上限額を超えた場合に超えた額を支給してもらえる「高額療養費制度」という制度を活用するのもおすすめです。年齢や所得によって支給金額は異なるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
胎児発育不全の場合の分娩方法は帝王切開?
胎児発育不全と診断された場合、分娩はどのように行うのでしょうか。
分娩時期は慎重に決定
胎児心拍数モニタリングや羊水量の測定、胎児の頭位や腹囲の測定などを行って胎児の発育状況を確認し、慎重に分娩時期を決定します。胎児の成長が遅いため、妊娠期間を延長することもあれば、出産予定日よりも早く分娩を行って胎外治療を行うこともあります。
帝王切開となる場合もある
通常の経腟分娩となるか帝王切開となるかは、母体や胎児の状態によって判断されます。帝王切開は母体の負担・リスクが大きいですが、胎児発育不全の程度が重いときには帝王切開が選択されるケースが多いようです。
胎児発育不全の予後は?障害が残る?
胎児発育不全の経過や治療の見通し(予後)はどのようなものなのでしょうか。出生後に赤ちゃんが病気や障害を持つのかどうかも気になりますよね。
原因によって予後は異なる
胎児自身に由来する発育不全と、栄養不足による発育不全では、後者のほうが予後(病気や治療の見通し)が良いといわれています。出生後の赤ちゃんの病気や障害のリスクも、発育不全の原因や程度によって異なります。
出生後は「LFG児」や「SFD児」と呼ばれる
胎児発育不全は、出生後は「LFG(light for gestational age)」や「SFD(small-for-dates)と呼ばれます。LFGは出生後の体重が標準体重の10パーセンタイル(100人の体重の計測値を並べたとき、軽いほうから10番目)未満の場合、SFDは身長も体重も標準の10パーセンタイル未満の場合を指します。
死産や病気、障害のリスクが高い
LFG児やSFD児は、低体温、低血糖、低カルシウム血症、多血症、高ビリルビン血症になりやすく、死産や産後早期の死亡率が正常な場合の約8倍にもなるといわれています。精神発達に遅れが出る場合もあり、障害を持つリスクも高くなる傾向にあります。
胎児発育不全の予防は生活習慣の改善から
胎児発育不全は胎児自身が原因となる場合もありますが、母体側の病気や生活習慣の問題に起因するケースも珍しくないようです。
母子ともに健康な状態で出産を迎えるため、普段の生活習慣の改善から始めてみてはいかがでしょうか。飲酒や喫煙はやめて、食べられる範囲で栄養バランスのとれた食事をとるよう心がけられると良いですね。規則正しい生活を送ることで、胎児発育不全をはじめとする妊娠トラブルや病気の予防にもつながりますよ。
また、妊婦健診を忘れず受診するとともに、日々の体調管理や体重管理にも気を配れると妊娠中のトラブルを未然に防ぐことにつながります。体重増加量があまりにも少ない場合や胎動が急に減ったと感じた場合は担当医に相談しましょう。