無月経でも妊娠できる?無月経の原因と治療法、妊娠への影響とは

妊娠・出産においてとても大切な生理ですが、その生理がこない状態を「無月経」と言います。妊娠中や授乳中は生理がこないことは知られていますが、それ以外で生理がこない場合にはさまざまな原因があります。妊娠したい女性が無月経の場合、妊娠できるのでしょうか。ここでは無月経の原因と治療法、妊娠への影響について解説します。

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この記事の監修

杉山 太朗
産婦人科医
杉山 太朗

目次

  1. 無月経とは
  2. 原発性無月経の原因
  3. 続発性無月経の原因
  4. 無月経でも妊娠できる?
  5. 無月経の検査法
  6. 無月経の治療法
  7. 無月経は早めに対策を
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無月経とは

女性の身体は視床下部、脳下垂体、卵巣が連携し合って、女性ホルモンの分泌量を調節しながら約1ヶ月の周期で排卵と生理を繰り返します。ところが、さまざまな原因により、「一度も生理がきたことがない」もしくは「これまでに継続的にあった生理がこなくなる」ことがあり、これを「無月経」と言います。

無月経は「原発性無月経」と「続発性無月経」の2種類に分類されます。

一度も生理がない原発性無月経

原発性無月経は、満18歳になっても初潮がこない場合を言います。日本人の平均初潮年齢は12歳くらいで、18歳までに98%の女性が初潮を経験するようです。15~16歳を過ぎても生理がこないようであれば、婦人科を受診すると良いでしょう。

生理が止まってしまう続発性無月経

続発性無月経は、これまでにあった生理が3ヶ月以上こない状態を言います。続発性無月経は多くの場合、排卵が認められない「無排卵性無月経」です。生理はあるものの無排卵の「無排卵月経」から続発性無月経になる女性も多いようです。

生理はエストロゲンとプロゲステロンというふたつの女性ホルモンの働きで起こりますが、続発性無月経はそれらのホルモンの分泌の程度により、「第1度無月経」と「第2度無月経」に分けられます。プロゲステロンの分泌のみ異常があって無月経になっている場合は第1度無月経、プロゲステロンとエストロゲンの両方に異常があると第2度無月経です。

妊娠や授乳、閉経による自然な無月経は「生理的無月経」と呼ばれ、続発性無月経に含まれます。

原発性無月経の原因

染色体異常による卵巣性無月経

染色体異常による卵巣形成障害が無月経の原因となります。染色体異常で代表的な疾患はターナー症候群で、女性の2500人に1人の発生頻度といわれています。ターナー症候群は通常2本あるX染色体が1本しかない疾患です。卵巣の発達不良により、生後数ヶ月から数年後に卵巣の機能が停止してしまうとされます。

アンドロゲン不応症(精巣性女性化症)

遺伝学的には男性でも、女性のような姿になるアンドロゲン不応症の場合も無月経になります。アンドロゲン不応症は、染色体では男性を示し精巣を持っているにもかかわらず、男性ホルモン受容体の先天的欠損のために、外性器や体形が女性として成育します。外見上は女性ですが、子宮がないために生理が起こらず、妊娠も不可能です。

中枢性無月経

中枢性無月経は、卵巣や子宮を制御する性中枢の異常や、副腎や甲状腺などの内分泌系の異常に伴うものです。代表的な疾患は副腎性器症候群です。これは、副腎という臓器で男性ホルモンのアンドロゲンが過剰に生成され、女性の男性化が起こります。ほとんどは先天性で、外性器の陰核(クリトリス)がペニスのように大きくなっています。

子宮や腟の欠陥

子宮または子宮と腟の両方に欠陥があると子宮性無月経となります。先天性子宮欠損症や子宮奇形がこれにあたります。

見せかけの無月経

処女膜閉鎖症や腟閉鎖の場合、子宮や卵巣が正常に働いて生理が起こっていても、経血の流出路が閉鎖されていて体外に経血がでません。これを「見せかけの無月経」と呼び、「生理はないのに毎月下腹部痛がある」といった症状がでることがあります。

続発性無月経の原因

視床下部性無月経

続発性無月経の原因で特に多いのは、女性ホルモン分泌の司令塔である視床下部の機能不全です。何らかの要因で視床下部の機能が障害されると、排卵を促すゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモンの分泌に異常をきたし、無月経を起こします。

視床下部が機能不全になる原因の多くはストレスです。対人関係や環境の変化などで精神的なストレスを強く感じると、無月経になりやすくなります。

また、無理なダイエットや過食・拒食といった摂食障害も視床下部の正常な働きを妨げ、無月経の原因となるので注意が必要です。ダイエットや摂食障害で栄養不足になると、生命維持に欠かせない心臓や脳に栄養が先に回され、生殖器官は後回しの状態となります。激しい運動も、身体が生存に直接影響のない生殖機能をストップさせてしまうことがあります。

下垂体性無月経

下垂体からはプロラクチンという乳腺を発達させるホルモンが分泌されています。このホルモンが異常に高い状態を高プロラクチン血症と言い、無月経の原因となります。乳汁が出てくる乳漏症(にゅうろうしょう)の症状を伴うこともあり、その場合「無月経・乳汁分泌症候群」と呼ばれます。

高プロラクチン血症の原因としては、下垂体にできたプロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)や、向精神薬や精神安定剤などの副作用、流産や人工妊娠中絶後であることなどが考えられます。

また、シーハン症候群という下垂体機能低下症の症状として、無月経になることがあります。シーハン症候群は出産時の大量出血により、下垂体の血管に血の塊ができて血流が悪くなり、下垂体の機能が低下するもので、性欲低下や乳汁の分泌停止といった症状もみられます。

卵巣性無月経

卵巣に原因がある無月経を卵巣性無月経と言います。卵巣腫瘍の手術や抗がん剤治療の後に発生する無月経や、40歳未満で閉経状態になる早発閉経(POF)が考えられます。

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)

卵巣では通常、卵胞期になると卵子の元となる原始卵胞のいくつかが成長を始め、そのうちのひとつが成熟して排卵します。ところが、多囊胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん、PCOS)になると、小さな卵胞が多数育つものの、なかなか排卵せず、無月経や月経不順を起こします。妊娠できる年齢の女性の20~30人に1人は、多囊胞性卵巣症候群だといわれています。

多囊胞性卵巣症候群はインスリンの分泌と関連しているとされ、日本では多囊胞性卵巣症候群の女性の3分の1は肥満を伴うそうです。肥満を解消することで、月経異常が改善するケースもみられます。

子宮性無月経

子宮内膜の炎症や癒着により起こる無月経を子宮性無月経と言います。流産や過去の人工妊娠中絶などの後遺症として、子宮内膜が癒着してしまうアッシャーマン症候群などが原因です。排卵があっても子宮内膜が反応してくれなくなっているため月経が起こりません。

その他の無月経

バセドウ病のような、甲状腺の病気や副腎機能障害が原因で無月経になることもあります。

無月経でも妊娠できる?

無月経は、ほとんどの場合は排卵がありません。排卵がないと妊娠できないため、無月経での妊娠は難しいと言えます。まれに、無月経でもタイミングよく排卵をしたときに妊娠できたという人もいますが、これは本当に奇跡的なことでしょう。無月経になったら、正常な排卵が行われるようにその原因を突き止め、治療を行いながら妊娠できる体に戻すことが必要です。

無月経の検査法

無月経に気が付いたら、まずは基礎体温を測り、排卵が正常かどうか調べてみましょう。生理周期が正常な女性は約1ヶ月のサイクルで高温期と低温期を繰り返します。無月経の場合、基礎体温の変化がほとんどみられないことが多いようです。婦人科を受診すると、以下のような検査を行い、原因を探っていきます。

ホルモン検査

プロゲステロンを投与して、7~10日後に出血がみられれば比較的軽症の「第1度無月経」と診断されます。第1度無月経では、卵巣からある程度エストロゲンが分泌されています。無月経の原因は、ストレスなどによる視床下部機能の一時的な異常がほとんどです。

プロゲステロンの投与で出血がみられない場合は、エストロゲンとプロゲステロンを同時に投与します。これにより出血が起これば、プロゲステロンとエストロゲンの両方に異常がある「第2度無月経」と判断します。

卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモン、プロラクチン、男性ホルモンなどもホルモン検査で測定し、分泌に異常がないか調べます。

超音波検査

エコー検査法で子宮の位置や子宮内膜の厚さ、卵巣の大きさや卵胞の数を検査します。

無月経の治療法

無月経の治療法は原因によって変わります。妊娠を希望するかどうかによっても異なるので、医師とよく相談しましょう。

生活習慣の改善

ストレスや過度のダイエットが原因の視床下部性無月経の場合は、生活習慣を改善するよう指導されます。ストレスを解消したり体重を元に戻したりするだけで、生理が回復することもありますよ。

ホルモン療法

生活習慣を改善しても生理がみられなければホルモン療法を行います。比較的軽症の第1度無月経ではプロゲステロン、第2度無月経ではピルを内服するなどし、生理を再開させます。

排卵誘発療法

妊娠を希望する場合はクロミッドのような排卵誘発剤を用います。クロミッドは視床下部や下垂体、卵巣に作用し、排卵に必要なホルモンを分泌させる働きがあります。排卵誘発療法は第1度無月経に効果がありますが、第2度無月経に移行して重症化すると治療が困難です。

漢方薬での治療

副作用が少なく、長期的にホルモンバランスを整えてくれるとして、無月経をはじめとする生理不順の治療に漢方薬を選ぶ女性が増えています。不妊治療と漢方薬療法を併用する選択肢もあります。

病気の治療を優先して

病気が原因で無月経になっている場合には病気の治療を最優先しましょう。

高プロラクチン血症が原因で無月経になっていることがわかっている場合はプロラクチンを抑える薬を飲み、プロラクチン値を正常に戻す治療をします。

また、向精神薬など服用している薬に原因があるときは、薬の変更などが必要です。

無月経は早めに対策を

無月経はさまざまな原因が考えられますが、精神的、身体的なストレスによることが多いようです。もしも不規則な生活が続いたり強いストレスを感じたりしている場合には、早めの生活習慣の改善で生理も再開するかもしれませんよ。

無月経の状態が長引けば長引くほど卵巣の機能が低下します。自力で生理を回復することが困難になり、妊娠も難しくなってしまいます。病気が隠れている可能性もあるため、早期に診断、治療することが大切です。3ヶ月以上生理がこなければ、婦人科を受診してくださいね。

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