細菌性腟炎(細菌性腟症)はどんな病気?原因や症状、治療法、予防法は?

細菌性腟炎は、腟の中の細菌バランスが関係する病気です。身体の中にいる常在菌が関係しているため、だれにでも起こる可能性があります。慢性化や不妊症への影響も無視できないため、治療法や予防法への理解を深めることが大切です。どのような原因で発症し、どのような症状があらわれるのかさっそくみていきましょう。

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この記事の監修

杉山 太朗
産婦人科医
杉山 太朗

目次

  1. 細菌性腟炎(細菌性腟症)は?
  2. 細菌性腟炎(細菌性腟症)の原因は?
  3. 細菌性腟炎(細菌性腟症)の症状は?
  4. 細菌性腟炎(細菌性腟症)の治療法は?
  5. 細菌性腟炎(細菌性腟症)の妊娠への影響は?
  6. 細菌性腟炎(細菌性腟症)の予防法・再発防止策は?
  7. 細菌性腟炎(細菌性腟症)は早めの予防と治療が大事
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細菌性腟炎(細菌性腟症)は?

細菌性腟炎は細菌性腟症とも呼ばれ、腟の中に常在する大腸菌などが繁殖することで起こる病気です。これまでは空気に触れると活動が弱まる嫌気性の細菌が原因とされていましたが、最近の研究では嫌気性の細菌以外にも空気に触れて活性化する好気性の菌が関係していることがわかってきました。

トリコモナス腟炎やカンジダ腟炎のような一般的な性感染症と異なり、症状を引き起こす特定の原因菌や原因微生物がみつからないため「非特異性腟炎」とも呼ばれることもあります。

また細菌性腟症という呼び方がされるのは、一般的な腟炎と比べて明らかな炎症症状がみとめられないからです。そのため、おりものの状態、におい、pH値などがWHOに定められている細菌性腟炎の診断基準と合致していても症状の自覚がないことがほとんどです。

細菌性腟炎(細菌性腟症)の原因は?

細菌性腟炎の原因はまだすべてが解明されているわけではありません。しかし、腟の中の細菌バランスが影響しているだろうことがわかっています。健康な腟の内部はさまざまな細菌が常在していますが、中でも75~95%を占めるといわれているのが乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)です。

乳酸桿菌がはたらくと腟は酸性に保たれ、悪さをする細菌が侵入しづらくなります。乳酸桿菌は腟を正常に保つための自浄作用を維持しているのです。

ところがストレスや疲労、体調不良などで自律神経が乱れて免疫力が低下したり、腟や外陰部を洗いすぎたりすると、乳酸桿菌のはたらきが低下します。乳酸桿菌のはたらきが弱まると、代わりに身体の中にもともと存在している大腸菌などの複数の細菌が繁殖をはじめます。こうして腟内の細菌バランスが崩れ、細菌性腟炎を引き起こすといわれています。

細菌性腟炎(細菌性腟症)の症状は?

おりものの異常

細菌性腟炎の自覚症状としてよくみられるのは、おりものの異常です。目にみえる変化として、色が白~クリーム色の正常な状態から灰色になります。量はそれほど多くありません。粘性も低く、水っぽいサラサラのおりものです。

もうひとつ細菌性腟炎のおりもので特徴的なのが、魚が腐ったようなにおいとなることです。とくに生理の後や性交の後に菌が繁殖しやすく、悪臭は強くなります。おりもののにおいがいつもと違って生臭く感じたら、感染を疑い医療機関を受診しましょう。

性器のかゆみや不正出血

細菌性腟炎は発赤や熱を帯びる、腫れるといった炎症症状に乏しい疾患です。しかしまれに性器のかゆみや不正出血があらわれることがあります。下腹部痛や排尿痛を感じる人もいます。

自覚症状がない場合が多い

細菌性腟炎は無症状のことが多く、腟内の細菌バランスが崩れて乳酸桿菌のはたらきが低下していても気づかないことが大半です。しかし乳酸桿菌以外の細菌が異常に増殖した状態を放置しておくと、ほかの性感染症の合併症を引き起こしたり、ほかの臓器へ感染が広まって重症化したりすることがあるので注意が必要です。

細菌性腟炎(細菌性腟症)の治療法は?

抗生物質を投与する

細菌性腟炎の治療は、腟錠による局所的な治療が基本です。腟内に抗原虫薬もしくは抗生物質を直接投与します。抗原虫薬では乳酸桿菌を殺菌しないメトロニダゾール腟錠250mgが用いられます。抗生物質で使われるのはクロラムフェニコール腟錠100mgです。

腟錠は1日1回、1錠を挿入し、6日間の連続投与が1周期となります。初期治療には腟洗浄を行い、薬の効果を高めます。腟洗浄を毎回行うと乳酸桿菌のはたらきをかえって抑制してしまうため、腟洗浄は初期にだけ用いられる治療です。また局所療法では、クリンダマイシンクリームが処方されることがあります。

1周期が終わっても、感染が完全に収まっているかは自分では判断できません。治療の終了については自己判断せず、必ず医師による診察を受けて感染が治まっているか確認してもらうようにしましょう。

妊娠中の治療も腟剤で

妊娠中の細菌性腟炎は腟錠で行います。メトロニダゾール腟錠、クロラムフェニコール腟錠ともに妊婦への使用については制限がありません。

一般的な治療ではメトロニダゾールの内服薬が用いられることがありますが、内服薬の妊婦に対する安全性は確立されていません。とくに初期にあたる妊娠3ヶ月までの妊婦には経口投与しないこととされています。

できるだけ放置しないで病院へ

細菌性腟炎は、炎症症状に乏しいのが特徴です。自然治癒で治ることもありますが、症状が悪化するとほかの性感染症を合併しやすくなります。卵管や腹膜への上行感染や不妊症の原因ともなるため、できるだけ医療機関を受診し、適切な処置をとるようにしましょう。

細菌性腟炎(細菌性腟症)の妊娠への影響は?

不妊につながることがある

増殖した細菌が上行感染すると、子宮頸管炎や子宮内膜炎を引き起こすことがあります。さらに重症化した場合、卵管炎や骨盤腹膜炎といった病気を発症するリスクもあります。

卵管炎は子宮の奥にあるため治療が難しい疾患です。卵管炎は重症化した場合、卵管の癒着を起こし不妊症につながったり子宮外妊娠を引き起こしたりする可能性があります。細菌性腟炎が重症化する前に、早期から治療を開始することが望ましいと言えます。

早産の原因となる

胎児を包んでいる絨毛膜(じゅうもうまく)と羊膜に感染が到達すると、絨毛膜羊膜炎に発展することがあります。絨毛膜羊膜炎は早産や前期破水の原因となり、新生児に重大な影響をおよぼす可能性も出てきます。また分娩後の産褥子宮内膜炎(さんじょくしきゅうないまくえん;産褥熱)との関係も見過ごすことができない問題です。

妊娠中期になると子宮内腔や子宮口は閉じられ、細菌は侵入できないという考えが一般的です。そのため細菌が絨毛膜や羊膜に到達するのは妊娠初期の段階とみられ、細菌感染が起こっていたとしても、中期までに抑え込んでしまえば絨毛膜羊膜炎は発症しないと考えられます。

妊娠を希望しているときは日ごろから腟やおりものの状態に注意をはらい、感染症状がみられるようなら妊娠前に治療をしておくことが望まれます。

新生児の病気の原因となる

細菌が母子感染すると、新生児が肺炎や髄膜炎にかかる原因となります。絨毛膜羊膜炎を発症して早産にいたるケースでは、新生児の呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)や周産期死亡率が約 3~4倍に増加するというデータもあります。

菌血症や脳性麻痺といった重篤な病気につながる可能性もあるため、妊娠中に気になる症状があればかかりつけの医師に相談するようにしましょう。

細菌性腟炎(細菌性腟症)の予防法・再発防止策は?

ストレスをためない

強いストレスを受けたり慢性的にストレスを抱えていたりすると、ホルモンバランスや自律神経が乱れがちになり、免疫力の低下を招きます。

免疫力が低下するのはストレスを受けて副腎皮質から免疫抑制機能を持つホルモンのコルチゾールが分泌されたり、自然免疫に重要な役割を持つといわれているナチュラルキラー細胞、白血球の一種であるマクロファージなどの免疫系細胞のはたらきが低下したりするためです。また、腟の環境はエストロゲンなどのホルモンで調整されているため、ホルモンバランスが崩れることで腟内の環境が悪化してしまいます。

ストレスを受けたときは精神的なダメージにばかり目がいきがちですが、実際は身体の機能も低下しています。細菌に負けない身体を作るには、ストレスをためないことが大切です。

規則正しい生活

身体の免疫にかかわる自律神経やホルモンの分泌は、生活リズムとも密接にかかわっています。自律神経やホルモンバランスを整えるためにも、適度な運動、バランスの取れた食事、質の良い睡眠が欠かせません。

生活リズムが崩れてくると、血行不良が起こってホルモンが正常に運ばれなくなったり、不眠やうつ症状があらわれたりします。自律神経やホルモンバランスが乱れ、さらなる不調が現れるといった悪循環が生まれてしまいます。規則正しい生活で免疫力を高め、細菌が悪さをしない身体づくりを目指しましょう。

腟を洗いすぎない

外陰部や腟を清潔に保つことはとても大切なことですが、腟をビデや石けんで洗いすぎてしまうと、自浄作用に必要な乳酸桿菌が減ってしまいます。

石けんやボディソープはアルカリ性のものが多く、酸性に保たれている腟のバランスを崩してしまう可能性があります。性器を洗うときはぬるめのお湯でやさしく流し、石けんの使用はできるだけ控えましょう。

おりものシートはこまめに取り換える

細菌は湿った場所や35度前後に保たれている場所が、繁殖しやすい環境です。おりものシートやタンポン、ナプキンの長時間の使用は控え、できるだけこまめに取り換えるようにしましょう。

汗で湿った下着や締め付けの強い下着もなるべくなら避け、清潔で風通しの良いものを身に着けるようにしたいものです。

細菌性腟炎(細菌性腟症)は早めの予防と治療が大事

細菌性腟炎を発症しないようにするには、免疫力を高め細菌が悪さをしない身体を作ることが大切です。日ごろから規則正しい生活を心がけ、普段と違うことに気付いたら早めに治療に取り組んでいきましょう。

細菌性腟炎は一般的な性感染症とは異なり、女性が細菌性腟炎を発症していても男性側が同様の症状を訴えることはありません。しかし性感染症を合併しやすかったり、不特定多数のパートナーがいると細菌性腟炎を発症しやすいというデータがあるため、信頼できる相手以外との性交のリスクは十分に理解しておきたいものです。

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