甲状腺と妊娠の関係!妊婦への影響と症状は?妊娠初期と産後の数値の変化やエコー検査について
甲状腺疾患は女性に多い病気ですが、妊婦と甲状腺の関係についてはあまり知られていないのではないでしょうか。甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、妊娠と深いかかわりがあります。甲状腺にはどのような病気があるのか、検査方法や甲状腺ホルモンが高いか低いかを判断する数値の基準、病気ごとの症状のあらわれ方などを解説します。
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目次
甲状腺とは?妊娠とかかわりがある?
甲状腺ホルモンの分泌器官
甲状腺とは、「甲状腺ホルモン」を分泌する器官です。蝶が羽を広げたような形をしており、のどぼとけの下あたりで気管を取り囲んでいます。縦が4~4.5cm、横幅が3cm、厚さは1~1.5cmほどの小さい臓器のため、通常は目で識別したり手で触れたりすることはできません。異常があると甲状腺が腫れてのど元でふくらみが目立つことがあります。
甲状腺ホルモンには「サイロキシン(T4)」「トリヨードサイロニン(T3)」の2種類があります。甲状腺ホルモンは身体の中にあるほぼすべての細胞にはたらきかけ、新陳代謝やエネルギーの産生、知能や身体の発達を維持しています。また、心臓や消化器官のはたらきを助けたり、自律神経にはたらいて呼吸や体温を調節したりもしています。
甲状腺ホルモンは胎児と母体に影響する
妊娠すると、甲状腺ホルモンの分泌量が一時的に変化します。これは妊娠初期に胎盤から産生されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が、甲状腺刺激作用を持つためです。また、妊娠に伴い「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」や「甲状腺機能低下症」といった甲状腺疾患が合併することもあります。
そもそも、甲状腺ホルモンの分泌量が低くても高くても、不妊や生理不順の原因になると考えられています。また近年の研究で、甲状腺ホルモンは母体に影響するだけではなく、胎盤を通じ胎児の生育に影響している可能性が示唆されました。
甲状腺機能は血液検査で調べられるため、病院によっては妊娠初期の血液検査の項目に含まれているようです。妊娠に関連し、甲状腺機能について気になることがあれば、医師に相談してみましょう。
甲状腺の病気の種類と症状
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺の機能が低下し、ホルモンの分泌が少なくなる病気です。甲状腺ホルモンが不足した状態となり、消化器や心臓の機能、代謝機能、脳のはたらきも低下します。結果として便秘、むくみ、疲れやすい、体温が低い、肌が乾燥する、集中力や記憶力が低下するなどの症状があらわれやすくなります。
また、甲状腺機能が低下すると、プロラクチンというホルモンの血中濃度が高くなる「高プロラクチン血症」になりやすくなります。高プロラクチン血症は無排卵月経の原因になることがあり、不妊につながる可能性があります。
甲状腺機能低下症は、主に「橋本病」によって引き起こされます。橋本病は自己免疫性疾患で、本来身体を守るために存在する抗体が、自分の甲状腺を異物として攻撃してしまう病気です。甲状腺が慢性的に炎症しているため、甲状腺の腫れをみとめることがあります。
妊娠にともない、妊婦が甲状腺機能低下症を合併する確率は0.11~0.16%(※1)と、約1000人に1人の割合です。妊娠中は症状が穏やかでも、産後に症状が悪化するケースが多く、継続的な観察が必要です。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の機能が異常に活発になり、甲状腺ホルモンの分泌が過剰となる病気です。甲状腺ホルモンが増加すると、多汗、動悸、筋力の低下、手の震え、生理不順などがあらわれます。
甲状腺機能亢進症を発症する原因としてあげられるのは、橋本病と同じ自己免疫疾患の「バセドウ病」です。バセドウ病にかかると甲状腺が全体的に腫れ、眼球が飛び出したようになることがあり、外見上でも異常を感知しやすい傾向があります。
妊婦が甲状腺機能亢進症を合併する確率は0.2~0.3%といわれています(※1)。およそ500人に1人というやや高い確率ですが、妊娠初期の段階では一時的に甲状腺ホルモンの分泌が増加することもあるため、ホルモン分泌の異常が慢性の症状なのか一過性のものなのかを見極めることが大切です。
甲状腺クリーゼ
甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症やバセドウ病といった甲状腺疾患が未治療だったりコントロールできなかったりする「甲状腺中毒症」の状態のときに、ストレスやウイルス感染、真夏日に高温にさらされるといったことで起こります。妊娠も甲状腺クリーゼの誘因となります。
症状としては、38℃以上の高熱、1分間に130回以上の頻脈、下痢や嘔吐などの消化器不全、幻覚や昏睡などの中枢神経症状、心不全症状などがあらわれます。最悪の場合は心停止となる可能性もあります。
甲状腺クリーゼを発症し、死亡にいたるケースは10%以上と報告されています。また、甲状腺疾患が認められていながら、治療を自己判断で中断したり、薬を処方された通りに服薬しなかったりすると、甲状腺クリーゼを発症するリスクが高まります。甲状腺疾患が判明したら早期に診断・治療を開始し、適切に治療に取り組むようにしましょう。
甲状腺腫瘍
腫瘍というと悪性のがんのイメージが浮かぶのではないでしょうか。実は、腫瘍には良性と悪性があり、甲状腺にできる腫瘍は8~9割が良性です。良性の場合、基本的に治療は必要ありませんが、悪性腫瘍が隠れていないか定期的に検査を受けることが望ましいと言えます。
良性の甲状腺腫瘍はおもに「腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)」、「甲状腺濾胞腺腫(こうじょうせんろほうせんしゅ)」などに分かれます。良性とはいえ、腫瘍が徐々に大きくなるようであれば外科的手術が行われることもあります。
悪性腫瘍は「乳頭がん」「濾胞がん」「髄様がん」などの種類がありますが、発生する腫瘍の9割は乳頭がんが占めます。乳頭がんは進行が極めて遅いがんで、早期に治療にあたればその後は比較的良好な経過をたどります。
甲状腺腫瘍は痛みや出血などの自覚症状に乏しく、腫瘍が2cmほどの大きさになってから咽頭部にできるしこりで気付くことが多いようです。物を飲み込んだときに違和感があったり、のどの腫れを感じたりしたときは早めに医療機関を受診するようにしましょう。
甲状腺の病気の検査方法は甲状腺エコー?
甲状腺腫瘍は、エコー検査でしこりのサイズや形、硬さを調べます。エコー検査ではプローブと呼ばれる超音波を発する装置をのどの表面にあて、臓器にあたって跳ね返ってきた超音波を受診して内部の状態を確認します。
検査の結果、腫瘍がみとめられる場合は細胞診、血液検査、CT検査などを必要に応じて実施します。
腫瘍が悪性であった場合は、外科的な手術が必要です。状況によって部分的な切除か全摘出かが判断され、ほかに転移があった場合は抗がん剤治療が選択されます。
妊婦の甲状腺機能の数値の基準値は?
非妊娠時の一般的な正常値
甲状腺ホルモンは、血液中でたんぱく質と結合しています。しかし、わずかながらタンパク質と結合しない遊離型(フリーな状態)のホルモンが存在しています。この遊離型ホルモンを遊離トリヨードサイロニン(FT3)や遊離サイロキシン(FT4)と言います。
甲状腺ホルモンとしてさまざまな器官に作用するのは遊離型ホルモンのため、一般的な甲状腺機能検査では、FT3、FT4の値を血液検査で調べます。また、甲状腺は下垂体から分泌される「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の刺激を受けて甲状腺ホルモンを分泌します。そのため、甲状腺刺激ホルモンの分泌量も検査します。
そもそも、甲状腺から分泌されるホルモンはほとんどがT4です。T4が肝臓などでT3へと変換されます。T3へと変換された甲状腺ホルモンは、臓器にはたらきかけ身体の機能を維持しているのです。
そこで、甲状腺がホルモンを生成する機能を調べるときはFT4をチェクし、甲状腺ホルモンが全身に作用していることを調べるときはFT3の値を確認します。一般的な血液検査の基準値は、TSHが0.35~3.8µU/mL、FT3が2.2~4.1pg/mL、FT4が0.7~1.7ng/dLが正常値となっています。ただし、検査キットや病院によって数値はわずかながら異なります。
妊娠時の基準値
妊娠中の甲状腺機能検査は地域や病院ごとに取り組み方が異なります。妊婦健診時に任意でTSH、FT4、hCG、抗甲状腺抗体を測定して甲状腺機能を調べます。
妊娠中はhCGの影響を受け、初期から中期にかけてTSHの値が変化します。甲状腺機能の管理はTSHを中心に行い、妊娠中はTSHの正常範囲を非妊娠時とは別に設けています。「米国甲状腺学会ガイドライン2011」では、妊娠13週までの目標値は2.5μU/mL未満、妊娠14週以降の目標値は3.0μU/mL未満と設定されています。
妊娠初期と産後は甲状腺機能異常が起こる?
妊娠(一過性) 甲状腺中毒症
妊娠甲状腺中毒症は、妊娠初期の7~15週頃に胎盤で作られたhCGが甲状腺を刺激することで起こる症状です。hCGとTSHは構造が似ているため、血中hCGが50,000~75,000IU/L以上という高い数値を示すと、妊娠甲状腺中毒症を発症する可能性が高いと言えます。
妊娠甲状腺中毒症は、全妊娠の2~3%に見られます。バセドウ病ではないことを証明するために、血液検査を通じTSH受容体抗体(TRAb)が陰性であることを確認します。
妊娠甲状腺中毒症の症状は、つわりが重くなるのが特徴です。そのほかに動悸や多汗、体重減少があらわれることがあります。また、多胎妊娠では症状が重くなります。一般的に妊娠14~15週になれば症状が落ち着いてくるため、特別な治療は行われません。
ただし、甲状腺機能亢進症の症状が強く、動悸、不整脈、手の震えなどで健康状態が懸念されるときはヨウ化カリウムが処方されます。治療が必要ないという判断でも、寝汗で身体が冷えたり、無理して身体を動かしたりしていると疲れやストレスがたまります。できるだけ安静にして過ごすようにしてくださいね。
産褥性甲状腺炎
産褥性甲状腺炎は、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)やTSH受容体抗体(TRAb)という抗体が原因で起こります。産後1~4ヶ月以内か、産後4~8ヶ月に発症しやすいため、これらの抗体が陽性であれば、産後の体調変化に注意が必要です。
出産後に甲状腺炎を発症した場合は、5~10年後という長い時間を経て、甲状腺機能低下症に陥りやすいといわれています。また、一型糖尿病に罹患していると、産褥性甲状腺炎を発症する確率が高いというデータがあります。自分の身体の状態を意識して知ることが大切ですね。
産褥性甲状腺炎を発症するとうつ症状、全身倦怠感、集中力の低下、動悸などが見られます。いわゆる「産後うつ」の状態です。時期が来れば症状は改善されますが、数ヶ月のあいだは気分がすぐれない状態が続くかもしれません。
産後は慣れない育児で疲れやストレスもたまりやすいものです。つらい場合はひとりで抱え込まず、夫に相談したり内分泌科を受診したりして、この時期を乗り切りましょう。
甲状腺機能異常の妊娠・出産への影響
流産・早産
甲状腺ホルモンは、不足した状態でも過剰な状態でも妊娠に影響が出る可能性があります。たとえば通常の妊娠は流産となる可能性は10~20%の割合ですが、甲状腺機能低下症でTSHの数値が2.5μU/mL以上となると、流産のリスクが30%に上がるといわれています。
何度か流産や死産を繰り返し、不育症と診断されたケースで甲状腺ホルモンの異常が潜んでいることは少なくありません。早産、妊娠高血圧症候群、胎盤早期剥離などの原因ともなるため、妊娠を望んでいるときや妊娠前に甲状腺異常が判明している場合は、甲状腺機能を正常な状態に維持しておくことが大切です。
胎児発育不全
甲状腺機能異常は、母体だけではなく胎児にも影響を及ぼします。これは、胎盤を通じ母体の甲状腺ホルモンが胎児へと移行するためです。
甲状腺ホルモンの過不足で、胎児発育不全や死産にいたるケースが確認されています。また、胎児の精神面や神経系の発達に、甲状腺ホルモンがかかわっている可能性も示唆されています。
一方で、妊娠5ヶ月を過ぎると、胎児は甲状腺ホルモンの産生をはじめます。母体から受けるホルモンの影響も抑えられると考えられています。胎児の知的発達と母体の甲状腺機能異常は関連性がないという意見も発表されているため、心配しすぎないことも大切です。
たとえ甲状腺機能に異常があったとしても、服薬で適切に管理できていれば、通常の妊娠と変わらない経過をたどります。甲状腺ホルモン異常が疑われるときは内分泌を専門とする医師に相談し、心配事を取り除いていきたいですね。
妊娠高血圧症候群
甲状腺機能異常は妊娠高血圧症候群を発症するリスクとなりえます。妊娠高血圧症候群は、胎児の発育不全や常位胎盤早期剥離の症状を引き起こしやすく、出産に向けて医師の指導にそった妊娠生活を送ることが求められます。
胎盤早期剥離
甲状腺機能異常があると、胎盤早期剥離となるリスクが上がるという報告があります。一方で、甲状腺機能異常と胎盤早期剥離の関連性については否定的な意見もあり、判断は分かれるところです。
しかし、合併症として妊娠高血圧症候群があれば胎盤早期剥離は起こりやすいため、甲状腺機能異常があるときは注意が必要です。
先天性甲状腺機能低下症
先天性甲状腺機能低下症は、生まれてきた子どもに甲状腺機能の低下が見られる状態です。生まれつき甲状腺のはたらきが弱く、甲状腺ホルモンが不足しているため、大人と同じように黄疸、手足が冷たい、泣き声が弱い、便秘というような症状が見られます。
甲状腺ホルモンの不足は成長不良を起こしやすく、知能や身体の発達に影響があると考えられており、早期の発見と治療開始が重要です。
先天性甲状腺機能低下症となるのは、甲状腺の奇形や欠損があったり、甲状腺に指令を出す脳の下垂体や視床下部に異常があったりすることが原因です。また、ママに甲状腺機能異常があること、抗甲状腺薬を服用していることも、先天性甲状腺機能低下症の発症リスクとなります。
新生児が先天性甲状腺機能低下症かどうかは、出生時のマススクリーニング検査で判定します。生まれてから5~7日目にTSHを測定し、数値に異常があればさらに詳しい検査を行います。検査の結果、甲状腺機能低下症と診断されれば、服薬による治療が開始されます。
甲状腺機能異常でダウン症や奇形確率が高くなる?
妊娠が判明すると、ママ自身の生活や健康状態が赤ちゃんに影響するのではないかと心配になる方も多いのではないでしょうか。妊娠する前からもともと甲状腺異常があったり、妊婦健診で甲状腺機能異常が判明したりすると、心配な気持ちが強くなるのも当然のことと言えます。
しかし、ママの甲状腺機能異常と赤ちゃんのダウン症や奇形との関連性は、医学的に認められていません。甲状腺機能異常があっても適切な治療を受けて数値がコントロールできていれば、通常の妊娠経過をたどることがほとんどです。
甲状腺機能はストレスに左右されるため、服薬量や検査結果に心配なことがある場合は遠慮なく医師に相談するようにしましょう。
妊婦の甲状腺機能異常の治療法は?
妊婦の甲状腺機能異常を放置しておくと、妊娠の経過や胎児への影響が懸念されます。そのため、服薬による治療が求められます。
甲状腺機能亢進症の治療に用いられる薬には、チアマゾール(商品名:メルカゾール)とプロピルサイオウラシル(商品名:プロパジール、チウラジール)があります。副作用や効果の観点から、妊娠初期にはプロピルサイオウラシルが選択されますが、通常はチアマゾールを処方されるのが一般的です。
甲状腺機能低下症の場合、甲状腺ホルモン剤が治療に用いられます。一般的にレボチロキシンナトリウム(商品名:チラージンS、サンド)やリオチロニンナトリウム(商品名:チロナミン錠)が処方されます。
妊娠中は甲状腺ホルモンが通常よりも多く必要です。そのため、血液中に含まれるホルモン量を検査で確認しながら、妊娠前の30%増量を目安にして服薬量を決めていきます。
甲状腺機能異常の人は妊娠しにくい?
甲状腺ホルモンは卵胞の成長に深くかかわっています。甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症を発症していると排卵障害が起こりやすいことが知られており、不妊のリスクが高まることが指摘されています。
不妊の原因は排卵障害だけではなく、受精や着床の問題、精子や卵子の質の問題など複合的な要因が絡んでいます。甲状腺機能異常があるからといって、必ずしも妊娠できないわけではありません。
とはいえ、妊娠中の甲状腺機能異常が母体の健康や胎児の成長に影響してくるため、妊娠を望んでいるときに甲状腺異常が判明した際は、早めに治療に取り組むようにしましょう。
妊娠前・妊娠中は甲状腺ホルモンに着目しよう
甲状腺ホルモンは、身体のほとんどの臓器にはたらきます。体調の維持や、精神を健全に保つために欠かせないホルモンであることがわかります。しかも、妊娠すると妊娠経過や胎児の発育にもかかわってきます。これほど重要なホルモンであるにもかかわらず、自律神経や女性ホルモンほど注目されていないのも事実です。
甲状腺に異常があっても、甲状腺自体に痛みや違和感があらわれるのはごくまれです。妊娠を望んでいる場合は体調の変化を意識して、気になることがあれば早めに内分泌外来や産婦人科で相談してみてはいかがでしょうか。