産婦人科医監修|乳がんを治療しない選択とは?乳がんの症状、検診・治療の方法は?
乳がんは女性が最も発症しやすいがんで、日本人女性の12人に1人がかかっています。最近では、まれに乳がんの治療をしない選択をする女性がいるようですが、そのようなことはできるのでしょうか。ここでは、乳がんの症状や診断・治療の方法とともに、「治療しない」という選択を選んだ女性たちを紹介します。
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目次
乳がんとは
乳がんは乳房内にできる悪性の腫瘍です。「乳管」という母乳(乳汁)を運ぶ器官から発生する「乳管がん」が多いですが、母乳をつくる「小葉(しょうよう)」から発生する「小葉がん」もあります。
乳がんは「非浸潤(ひしんじゅん)がん」と「浸潤(しんじゅん)がん」に分けられます。非浸潤がんは、がん細胞が発生した場所にとどまっていますが、浸潤がんになると、がん細胞が増殖して乳房の周りの組織に入りこみ、血管やリンパ管を通って全身に移行します。
乳がんになりやすい人とは?
日本では乳がんが増えており、2016年には9万人の女性が乳がんにかかったといわれています。乳がんによる死亡数も増加傾向にあり、2016年は約1万4千人となりました。
乳がんは30歳代から増え始め、40歳代後半から50歳代前半でピークを迎えますが、どの年代でも発症する可能性はあります。
乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深くかかわっています。エストロゲンの分泌量が多い期間が長く続くほど、乳がんの発症リスクが高く、「初潮の年齢が早い」「妊娠や出産の経験がない」「閉経が遅い」という人は注意が必要です。また、遺伝的な要因もあるとされ、乳がんにかかった家族がいる人も発症のリスクが高まります。
乳がんの症状とは?検診の流れは?
乳がんの症状
乳がんのおもな症状は乳房にできる「しこり」です。このほか、「ひきつれる」「乳房や乳首がえくぼのようにくぼむ」「湿疹」「ただれ」「乳頭の先から血の混じった分泌液がでる」といった症状もあります。
乳がんのセルフチェック
乳がんは自分で発見できる可能性が高いため、月に1回は乳房のセルフチェックをしましょう。乳房の表面を指4本でさわってしこりがないか確認したり、鏡の前に立って目で乳房の様子を観察したりします。生理前は乳房が張りやすいため、生理が始まって1週間後くらいに行います。
乳がんの定期検診を受けよう
乳がんは早期に発見できれば、ほとんどが治るといわれています。普段からセルフチェックをするだけでなく、2年に1回は定期検診を受けましょう。検診では、乳房を見てさわって診断する「視触診」、乳房に超音波をあてる「超音波検査(エコー)」、乳房専用のX線装置を使う「マンモグラフィ検査」が行われます。
マンモグラフィ検査によって、乳腺内に石灰化(カルシウムの沈着)があるかどうかを確認できます。石灰化の原因にはさまざまなものがあり、石灰化が良性なものか、がん細胞によるものなのかを精密検査で調べることになります。
乳がんの精密検査の内容は?
マンモグラフィや超音波検査でがんが疑われる場合には、精密検査をします。乳がんが疑われる箇所に細い針を刺して細胞を採取する「細胞診」、やや太めの針で組織の一部を採る「組織診」などがあります。
乳がんの診断
乳がんは進行の程度によって病期(ステージ)が決められています。「しこりの大きさはどれくらいか」「周囲のリンパ節(せつ)に転移しているか」「乳房から離れた臓器に転移しているか」という要素を総合的に判断し、ステージ0からステージ4までに分類されます。ステージ0はがん細胞が乳管内にとどまっている極めて早期の「非浸潤がん」で、ステージ4は肺や脳、骨などの臓器に転移している状態です。
乳がんの治療法
乳がんは治療法がどんどん進歩しており、しこりの大きさが2cm以下でリンパ節への転移がないステージ1ならば、約90%の人が治るとされています。早期がんの場合には、乳房温存手術で乳房を部分的に残せる場合が多いようです。また、治療後に妊娠・出産をしても乳がんが再発しやすくなることはありませんし、赤ちゃんに何か異常がでる可能性が高くなるということもありません。
乳がんの治療は手術、放射線治療、薬物療法の中から、患者の希望やステージにあった方法を選んで組み合わせて行います。
手術
乳がんの治療は手術でしこりを取り除くのが基本です。手術法は「乳房温存術」と「胸筋温存乳房切除術」に大きく分けられます。「乳房温存術」はしこりと乳房の一部分、リンパ節を切除します。乳房を残せるため、最近では手術の6割がこの方法で行われているようです。「胸筋温存乳房切除術」は胸の筋肉を残し、乳房とリンパ節を切除する方法で、「全摘」「乳房切除」とも呼ばれます。
手術と同時に「センチネルリンパ節生検」という検査を行うことがあります。センチネルリンパ節とは、乳房からがん細胞が転移する際に、最初にたどりつくリンパ節のことです。検査でそこへの転移がないとわかれば、乳房周囲のリンパ節を切除する「リンパ節郭清(かくせい)」を行わず、リンパ節を残すことができます。
乳がんの手術を行うと、「腕や肩を動かしにくくなる」「腕や手がむくむ」といった症状があらわれることがあります。「手術の傷あとをみるのがこわい」「乳房の形が変わってつらい」など、精神的なショックや苦痛を感じる女性も多いようです。
手術で乳房が失われた場合、患者の脂肪・筋肉またはシリコンなどの人工物を使って新たに乳房を形成する「乳房再建術」を希望することもできます。
放射線治療
温存した乳房やリンパ節でがんが再発するのを防ぐため、その部分に放射線を照射して、がん細胞の増殖を抑えます。副作用として皮膚の炎症や食欲不振、肺炎のような症状がでることがあります。
薬物療法
薬物療法は、手術前にがんを小さくしたり、手術で取りきれなかったがん細胞の増殖を抑えたりするために行います。他の臓器への遠隔転移がある場合や再発した際には、延命や症状を緩和するのが目的です。「ホルモン療法」、抗がん剤を使う「化学療法」、がん細胞にピンポイントで作用する「分子標的治療」があり、がん細胞の特徴によって分類される「サブタイプ分類」をもとに、どの薬剤を使うか決めていきます。
女性ホルモンのエストロゲンの影響で増殖が活発になるがん細胞に対しては、ホルモン療法でエストロゲンの働きや生成を妨げます。使われるホルモン剤はLH-RHアゴニスト製剤や抗エストロゲン薬で、副作用として更年期障害のような症状がでる場合があります。
化学療法は、抗がん剤を使って全身にちらばっているがん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする療法です。作用が異なるいくつかの抗がん剤を組み合わせると、がん細胞をより効果的に攻撃できます。抗がん剤は正常な細胞も傷つけてしまうため、白血球の減少による感染症、脱毛、吐き気などの強い副作用を伴います。
分子標的治療は、がんの増殖にかかわっている特有の因子の働きを薬で阻害する治療法です。乳がんには、HER2(ハーツー)というタンパク質の働きを妨げる「トラスツズマブ」という抗がん剤が使われます。正常な細胞にはほとんど影響を与えないため、副作用は一般的に軽度ですが、発熱や悪寒があらわれることがあります。
乳がんを治療しない選択はできる?
乳がんの女性の多くは、たとえ部分的であっても自分の乳房が切り取られてしまうことや、抗がん剤の強い副作用などに心も身体も苦しみます。治療がうまくいったようにみえても、数年後に再発するのではないかと不安に感じながら暮らす人もいるでしょう。そんななか、最近では乳がんの治療をしない女性もいるそうです。
乳がんを治療しないと決めた女性たち
乳がんと診断されても、手術、放射線治療、薬物療法の3大治療を行わない「無治療」を選択した女性は少なからずおり、ネット上ではそうした女性のブログがいくつか公開されています。緩和ケアを受けて痛みをやわらげている人や代替療法を行っている人もいますが、無治療を数年間続けたのち3大治療を開始したというケースも多いようです。
彼女たちが治療しない選択をした理由は「がんが悪いものだとは思えず、共存しようと思った」「抗がん剤に抵抗を感じた」「手術で乳房をなくしたくなかった」「延命するのが自然ではないと思った」など人によってさまざまです。
乳がんを治療しないとどうなる?
乳がんの無治療で有名な女性に吉野実香さんという方がいます。2009年にステージ3で余命2年と宣告された吉野さんは、「副作用に苦しんで、再発におびえるくらいならこのまま普通に生活して自分らしく最期を迎えたい」という思いから無治療を選択しました。彼女のブログは多くの人に読まれる人気ブログとなり、テレビにも出演するなど、彼女の生き方は大きな反響を呼びました。
吉野さんは2017年6月現在、月に1回ホスピスに通い、モルヒネで痛みを抑えていると言います。がん細胞が皮膚から飛びだし、大量に出血するといった症状とも付き合いながら、自分で納得して選んだ生き方を貫いています。
吉野さんのように、自分のライフスタイルを優先して無治療を選択することは不可能ではありませんが、がんの進行が早まるなどデメリットが多くあることは否めません。もしも治療しないと決めた場合は、がんの進行の程度を常に診てもらえて、悩みをすぐに相談できる主治医は見つけておくべきでしょう。
乳がんと向き合う方法を考えよう
もしも自分が乳がんだとわかったら、どんな女性でも「今後どうなってしまうのだろう」と不安に感じるでしょう。治療の方法にも悩むかもしれませんが、決断を焦らないでくださいね。乳がんは比較的進行が遅いがんだといわれています。がんに関する情報をしっかりと収集し、主治医以外の医師の意見もセカンドオピニオンとして聞くなどし、自分が本当に納得できる方法を見つけましょう。
現在のがん医療は、患者の生活の質(QOL)を維持・向上すること、つまり、がんに伴う心や身体の苦痛をやわらげ、その人らしく暮らせるようケアすることを重視しています。「抗がん剤は使いたくない」など特定の治療法を避ける人から無治療を選択する人まで、がんとの向き合い方は人によってさまざま。「自分は何を大切にしたいか」ということを考え、医師に伝えていってくださいね。