卵巣腫瘍の治療・手術の費用と時間は?保険の適応と妊娠中の手術について|産婦人科医監修
卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)は、卵子を作る器官である「卵巣」にできる腫瘍です。卵巣は最も腫瘍のできやすい臓器であるといわれ、年齢によっては妊娠に関わる病気であるだけに、女性にとってはデリケートな病気のひとつかもしれません。ここでは卵巣腫瘍の原因や症状・治療法・不妊との関係について産婦人科医監修で解説します。
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この記事の監修
目次
卵巣腫瘍の原因と種類
卵巣腫瘍とは
卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)とは、卵巣にできる腫瘍(しこり)を指します。日本婦人科腫瘍学会によると、腫瘍といっても悪性の「がん」であるケースは腫瘍全体の10%程度とのデータがあり、腫瘍が見つかった場合、良性の腫瘍であるケースが全体の90%程度とされています。
しかし、たとえ良性であっても、初めは良性腫瘍だったものが悪性化したり、一定の大きさを超えることで手術が必要になったりします。そのため、腫瘍が見つかった場合は定期的な検査をすすめられることになるでしょう。
卵巣のう腫とどう違うの?
卵巣腫瘍は内部に液体がたまっている場合も充実性(固形成分でできたもの)の場合もすべてを総称した呼び方ですが、卵巣のう腫(らんそうのうしゅ)とは、卵巣に液状成分がたまって腫れている状態のことを指します。卵巣のう腫には、以下の種類があります。
・漿液性(しょうえきせい)のう腫…身体の表面を覆う上皮にできる、のう胞性の中の液体成分がサラサラしている
・粘液性(ねんえきせい)のう腫…のう胞の中の成分が粘りのあり、上皮にできる代表的なのう腫
・皮様(ひよう)のう腫…のう腫の中に、脂肪・毛髪・歯などが含まれたのう腫
・チョコレートのう腫(内膜症性のう胞)…内膜症による腫れ・内部に血液がたまる
以上のように、卵巣の内側に液体を含んだのう胞性の袋状のものができて卵巣全体が大きくなっている状態を指します。
卵巣腫瘍の原因
卵巣は、正常であれば月に1回起こる排卵により毎月壁が傷つきます。また細胞分裂が激しい臓器のため、腫瘍ができやすい器官とされています。妊娠・出産の機会がなく、排卵の回数が多いほど卵巣が傷つき、腫瘍の原因になりやすいと考えられています。
卵巣腫瘍の症状は?
自覚症状はほとんどない
卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)は種類を問わず、よほど大きくなるまで自覚症状はほとんどありません。そのため、卵巣腫瘍は、妊娠中の検査やがん検診などで発見されることが多く、症状が出てから見つかったときにはかなりの大きさになっていることがほとんどです。まれに軽い捻転を繰り返して腹痛が出現し、それほど大きくなる前に発見できるケースもあります。
通常の卵巣は2~3cmですが、超音波検査で明らかなのう胞性の病変があったり、卵巣全体が正常卵巣よりも大きくなっている場合に「卵巣が腫れている」と診断されます。腫瘍ができたとしても痛みがほとんどないことから、卵巣腫瘍ができたとしても初期のあいだは自覚症状がないまま進行し、気づいたときには進行がんになっていたということもあり得ます。
腫瘍が大きくなると腹部に違和感を覚える
自覚症状がほとんどないとはいえ、卵巣腫瘍が大きくなると、以下ような症状があげられます。
・下腹部がぽっこりとふくらんできた
・月経のときに激しい下腹部痛を感じたり、月経以外にも腰痛や腹痛をおこしたりと、腹部の違和感を覚える
・頻尿になったり、便秘がちになったりと排泄がスムーズにいかない
・胃痛などから食欲がなく、体重が落ちた
卵巣腫瘍がある場合、放っておくと時間とともにさらに腫瘍が大きくなっていくことがあります。
また、卵巣腫瘍が5~7cmほどの大きさになると、卵巣の根元が回転して激しい痛みを感じる「茎捻転(けいねんてん)」がおこる場合があります。茎捻転がおこると、血流が滞り、放っておくことで卵巣はうっ血して機能しなくなります。機能しなくなった卵巣は摘出しなければいけません。
そのため、卵巣腫瘍の早期発見のためにも下腹部に違和感を感じたり、不正出血があったりする場合は早めに婦人科を受診しましょう。
卵巣腫瘍の診断
医師による問診
下腹部痛などから産婦人科を受診した場合、月経周期や初潮の時期・性行為の有無・妊娠・出産・流産経験があるかを聞かれます。家族構成や家族・親族の病歴を聞かれることもあるでしょう。正確な情報を医師に把握してもらうためにも、月経は過去2~3周期ぶんののメモがあると安心です。
超音波検査
問診から卵巣腫瘍が疑われる場合、卵巣は腹腔内にある臓器であることから経腟または経直腸的に超音波検査を行うことになります。
まずは内診やで、卵巣の大きさ・形・卵巣の癒着の有無などを診察します。さらに、卵巣や子宮の細部を診察するために経腟超音波検査でモニターに映し出し、正確な卵巣の大きさや内部の状態を観察することになります。
経腟超音波を初めて受ける場合は不安があるでしょう。しかし、子宮や卵巣・卵巣周りがどのような状態かを正確に知るためにも、超音波検査が有効といえます。挿入しやすいゼリーをつけて内診を行うので、痛みを感じない方がほとんどです。リラックスして医師の判断に従いましょう。
また、腫瘍が確認された場合は、MIRやCTの検査を行うことになります。子宮・膀胱・直腸など、他臓器との関係性や、腫瘍内部の性状や、リンパ節が腫れているかなどを観察して、良性か悪性かを診断します。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、血液検査から「がん」かどうかを診断する検査方法です。マーカーは腫瘍があることにより、血液中に増加する物質を測定材料にして、腫瘍の種類やがんを診断します。
しかし、場合によっては悪性であっても陰性となることや、悪性の腫瘍でなくても反応してしまうことがあるので、判断材料のひとつとしている医師がほとんどです。一般的に悪性が疑われる場合は、腫瘍マーカーだけではなく、いくつかの検査をしたうえで最終的な診断のために手術を行うことになります。
卵巣腫瘍の治療法
経過観察の場合
卵巣腫瘍が見つかった場合、卵巣腫瘍の大きさや自覚症状によって治療法が異なってきます。
卵巣の腫れが小さく自覚症状がほぼないようならば、経過観察になることがほとんどです。また、卵巣が腫れている診断されても、月経後に卵巣の腫れが治まり自然と腫瘍が消えるケースも少なくありません。
腫瘍が見つかった場合は医師の診断をしっかりと理解して、悪化するのを防ぐためにも必ず定期的な検診を受けるようにしましょう。
手術の場合
卵巣腫瘍が大きくなると、腫瘍がねじれて激痛が走る茎捻転(けいねんてん)の危険性があることから、症状によっては摘出手術をすすめられることがあります。だいたい5cmの腫れを目安に、手術となるケースが多いようです。
卵巣腫瘍の大きさ・状態によって、摘出する卵巣の範囲が変わってきます。明らかに良性で今後妊娠を希望する可能性がある年齢の場合は、基本的には腫瘍の部分だけを切り取って正常な卵巣組織は残します。悪性の疑いがある場合や妊娠を希望する年齢でない場合は卵巣全体を切除します。
妊娠に関わる臓器であるため、手術内容については腫瘍の状態によって患者さんの希望が考慮され、医師と入念な話し合いが必要になってきます。
卵巣腫瘍の入院期間は?
開腹手術
開腹手術(かいふくしゅじゅつ)とは腹部を切り開いて手術を行う方法です。手術中は部分麻酔が可能で、手術時間が短くすむことが多いでしょう。
しかし、お腹に小さな穴をあけて腫瘍を切除する、腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)と比べて回復に時間がかかるため、入院期間が長く、傷跡が大きくなってしまいます。また傷跡が大きい分、術後に傷口に触れやすい内蔵と癒着してしまうリスクが高いとされています。
お腹の傷が癒えるのを待つため約10~14日間の入院が必要です。
腹腔鏡手術
腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)は、おへそのあたりと下腹部の両側の合計3~4ヶ所に小さな穴を空けて、そこから内視鏡カメラや手術器具を入れて行う手術方法です。現在の卵巣腫瘍の手術方法は、腹腔鏡手術が主流となってきています。開腹手術よりも傷口が複数になりますが、傷跡が小さく済み、術後の回復が早いとされています。
入院期間は5~7日間が一般的です。ただし子宮内膜症が原因で癒着がある場合など、入院期間が長びくことがあるでしょう。
手術費用はどのくらい?健康保険の適用はできる?
診察・検査・手術ともに健康保険の適用になります。しかし、保険が適用になるといっても15~30万円の手術代と、検査・入院費用を含めると大きな負担となります。
医療費が高額になる場合は、限度額適用認定証を申請することで負担を軽く済ませられることがあります。社会保険の加入者は会社の保険担当、または保険組合に、国民健康保険の加入者は役所の担当窓口に問いあわせましょう。病院によっては病院の担当者が健康保険組合に直接問いあわせてくれる場合もあります。入院、手術をする病院の係りの人に聞いてみると良いでしょう。
任意の医療保険に加入している場合は、卵巣腫瘍の手術をすると決まったら、入院や治療の費用に対して保険が下りるかか確認してみると良いでしょう。適用になるとしても、開腹手術と腹腔手術では保険のおりる額が違う場合があるので、あわせて確認すると安心です。
妊娠中の卵巣腫瘍
もし妊娠中に卵巣腫瘍が見つかった場合、サイズが大きくなければ経過観察するケースがほとんどです。妊娠初期には「ルテインのう胞」と呼ばれる良性の腫瘍ができ、妊娠16週までに自然に消えていきます。また、良性の腫瘍ができていても5cm以下ならば出産に問題ないとされています。
しかし、腫瘍のサイズが大きいと分娩の妨げとなったり途中で捻転を起こしたりする可能性があるため、手術が行われることがあるでしょう。
卵巣摘出の手術になった場合、基本的には妊娠12週~20週ごろに行われます。 妊娠初期の卵巣は黄体ホルモンを活発に分泌して妊娠を維持しているため、初期に黄体が切除されると流産となる可能性が考えられます。そのため、妊娠10週以前に妊娠黄体のう胞(にんしんおうたいのうほう)を切除しなければいけないときは、妊娠継続のために黄体ホルモンの補充を行うこととなります。
■筆者の体験談
筆者は妊娠8週ごろに、右の卵巣が腫れていると診断されました。卵巣腫瘍の疑いがあることから手術が対応できる病院をすすめられ、大学病院の受診を余儀なくされました。
はじめての妊娠だったので、順調に妊娠・出産ができるのかとても心配になりましたが、妊娠12週ごろには自然に消えて大学病院から個人病院の健診に移ることができました。
妊娠中に卵巣腫瘍の診断が下りると不安になりますが、妊娠初期に卵巣の腫れがみつかることは、わりと多いようです。筆者は、妊娠初期はつわりや体調不良から、いつも以上に不安になっていたと思います。不安を和らげるためにも医師からしっかりと話を聞き、できるだけ穏やかに過ごすことが大切だと感じました。
卵巣腫瘍手術後の妊娠の可能性
卵巣を摘出しない場合
卵巣を摘出しない場合は、妊娠することが可能です。
しかし、のう腫が卵管に癒着して、排卵された卵子が卵管采(らんかんさい)に取り込まれにくい状況になっている場合は、不妊につながることがあります。症状に応じて医師に相談しましょう。
片側の卵巣摘出した場合
片方の卵巣を摘出しても、妊娠の可能性は十分にあります。
また、片方の卵巣を摘出することで妊娠の確率が下がるのではないかと懸念されがちですが、残った方の卵巣が正常な排卵をすることにより、卵巣がふたつあったときと変わりなく月経や妊娠は可能だといわれています。
両側の卵巣を摘出した場合
手術の手法によって、卵巣の必要な部分が温存されていれば妊娠することは可能です。
もし、卵巣全てを摘出している場合は、卵子のもととなる原始卵胞がないため、自然妊娠をすることはできません。しかし、手術の際に卵子を保存してもらい、その卵子を用いて妊娠することは可能です。
卵巣腫瘍は再発する?
卵巣を摘出した場合は、腫瘍が再発することはありません。ただし、卵巣を摘出する場合は、ふたつあるうちの異常が診断された片方の卵巣を摘出するため、もう片方は残すことになります。そのため、残した片方の卵巣に、卵巣腫瘍が再発する可能性はあります。
また、再発率は卵巣のう腫の種類によって違ってきます。漿液性(しょうえきせい)のう瘍や粘液性(ねんえきせい)のう瘍などは、再発率は低いとされています。
しかし、チョコレートのう腫の場合は、他の卵巣のう腫よりも再発率が高いと言われています。これは、チョコレートのう腫は、子宮内膜症が元となる卵巣のう腫であることが原因と考えられています。
子宮内膜症は、女性ホルモンのひとつである卵胞ホルモンと密接な関係にあります。卵胞ホルモンは閉経しない限り分泌されるため、閉経前の完治が難しい病気のひとつとされています。そのため、チョコレートのう腫をいちどわずらうと、手術をして卵巣のう腫を摘出したとしても、子宮内膜症が完治しない限りは再発の可能性が高くなると考えられているのです。
卵巣腫瘍の予防方法は?
卵巣は、正常な月経サイクルであれば月に一度排卵をするために細胞分裂が繰り返されているので、腫瘍ができやすい器官のひとつです。さらに、年齢があがるほど悪性の卵巣がんと診断されるケースが増え、40~60代がピークとされています。
妊娠を希望していないときはピルを服用することで、不要な排卵を抑えて卵巣が傷つくことを防ぐことができます。ピルを半年以上服用することで卵巣がんのリスクが下がるというデータがあります。
また、生活習慣で予防するだけでなく、がんの定期的な健康診断を受けることが重要になってきます。
早期発見のためにも、定期検診を受けるようにしよう
卵巣腫瘍は、大きな自覚症状がないために発見が遅れがちな病気のひとつです。そのため、ひどい月経痛があったり下腹部に大きなしこりがあったりする場合は必ず婦人科を受診しましょう。何も症状がなくても1年に1回は超音波検査による検診を受けることをおすすめします。
もし卵巣腫瘍の手術をしても、症状や摘出方法により妊娠する可能性は十分にあります。未婚や、今後妊娠を望む場合は、医師に妊娠したい意志をしっかり伝えて、納得のいく選択とともに術後のサポートもお願いしていきましょう。また、早期発見のためにも、定期的な健康診断は必ず受けるよう心がけてくださいね。
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