プロラクチンとは?正常値より高いと男性・女性ともに不妊の原因になる?
プロラクチンは妊娠・出産に深く関わるホルモンで、授乳中は母乳の分泌を促す働きがあります。しかし、男性・女性ともに妊活中にプロラクチンの数値が高いと、不妊の原因になるといわれています。ここでは、プロラクチンの作用と正常値の他、プロラクチンの数値が高い・低い場合のそれぞれの症状と治療法について解説します。
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目次
プロラクチンとは
プロラクチンとは、脳の下垂体から分泌されるホルモンの一種です。妊娠、出産をつかさどっており、主に授乳と深い関係があります。女性だけでなく男性の体内でもプロラクチンは生成され、前立腺などの生殖機能の発達を促しています。
プロラクチンの作用
プロラクチンには、赤ちゃんを育てるうえで重要な働きがあります。プロラクチンの作用は以下の通りです。
乳腺を発達させる
乳腺とは、乳房の乳頭から放射状に張りめぐらされた、母乳(乳汁)を分泌するための組織です。妊娠中にプロラクチンが多く分泌されることで、乳腺が発達します。
母乳の生成を促進する
プロラクチンには母乳の生成を促進する作用があります。妊娠中は、胎盤から分泌されるプロゲステロンとエストロゲンの影響で、母乳の生成が抑えられていますが、出産すると、これらの働きが弱まり、母乳の生成が活発になります。さらに、母乳を外に放出させる働きのあるオキシトシンの分泌量が増えることで、母乳が出るようになるのです。
赤ちゃんが乳首を吸うと、その刺激によってプロラクチンとオキシトシンの分泌がさらに促されるため、母乳は飲ませるほどたくさん出るようになります。
排卵を抑制する
プロラクチンには、産後すぐに妊娠してママの身体の負担が増えることがないよう、排卵を抑制する働きがあります。プロラクチンの分泌量が増えると、脳の視床下部で性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑制され、無排卵・無月経になります。この作用が妊活の妨げになる場合があります。
プロラクチンの正常値と検査のタイミングは?
プロラクチンの正常値は検査方法によって上下します。EIA法の場合は2.7~28.8ng/mL、IRMA法では1.4~14.6 ng/mL、CLIA法では4.3~32.4 ng/mLが基準値です。
妊娠していないときのプロラクチンの分泌量は少なく、プロラクチンは作用しませんが、妊娠するとプロラクチンの数値は約20〜200ng/mL上昇します。正常分娩後、授乳のあいだは約150〜200ng/mLから急激に50〜100ng/mLまで減り、産後3~4ヶ月で妊娠前のレベルに戻るといわれています。
一方、男性の正常値は女性よりも低く、たとえばIRMA法による基準値は1.5~9.7ng/mLとなっています。
プロラクチンの分泌量は、食事や睡眠などさまざまな生理的要因によって変動します。こうした要因の影響を受けないよう、プロラクチンの数値を測定する検査は、起床数時間後、できる限りストレスがない、食事前の状態で行うのが望ましいです。
プロラクチンの数値が高いとどうなる?
妊娠・授乳中ではないのにもかかわらず、血液中のプロラクチンの数値が高い状態を「高プロラクチン血症」と言います。
高プロラクチン血症になる原因は、脳下垂体に腫瘍ができる「プロラクチン産生下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)」が約35%を占めています。この他、ストレスなどによる視床下部の異常、甲状腺機能の低下、抗うつ剤や胃腸薬といった薬剤の影響も考えられます。
高プロラクチン血症の症状は以下の通りです。
母乳が出る
高プロラクチン血症になると、妊娠や出産していないのに母乳が出ることがあります。これを「乳汁漏出」と言います。プロラクチノーマが原因の高プロラクチン血症の場合、女性の50~80%、男性の10%で乳汁漏出があらわれるようです。
生理不順・無月経
高プロラクチン血症は性腺機能を低下させ、女性の場合は生理不順を引き起こすことがあります。軽症では、プロゲステロンの分泌が不十分になる「黄体機能不全」になり、生理周期が短くなったり、不正出血が起こったりする可能性があります。重症化すると、生理はあるものの排卵していない「無排卵月経」や、排卵も生理も止まる「無月経」になってしまいます。
不妊
生理不順や無月経により、結果として女性は妊娠しづらくなってしまいます。
また、男性側も高プロラクチン血症になると、性欲低下や勃起障害(ED)といった症状がみられることがあります。
なお、高プロラクチン血症を発症すると、流産を3回以上繰り返す「習慣流産」になりやすいという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、高プロラクチン血症は不妊の原因になるものの、不育症との関連は否定的です。一説には、高プロラクチン血症に合併する黄体機能不全が不育症に関わっているのではないかとされていますが、明らかになっていません。
視野障害・頭痛
プロラクチノーマが原因の高プロラクチン血症の場合、下垂体の腫瘍によって周囲の組織が圧迫され、視野が狭まったり視力が低下したりする他、頭痛が起こることがあります。
プロラクチンの数値を下げる治療法は?
プロラクチンの数値を下げる治療法は、原因によって異なります。
プロラクチノーマの場合
プロラクチノーマが原因の場合、腫瘍が1cm未満であれば、プロラクチンを抑えるドパミンのような働きをする「ドパミン作動薬」を投薬して治療を行います。ドパミン作動薬は「カバサール」「テルロン」「パーロデル」が一般的で、吐き気やめまいといった副作用を伴う場合があります。最低1年間は継続して治療する必要がありますが、妊娠が判明したら投薬を中止します。
一方、腫瘍が大きく、視野障害などを伴う場合や、薬剤抵抗性がある場合は、外科手術を検討します。
視床下部の障害の場合
視床下部に何らかの障害が起こり、ドパミンの生成が低下すると、プロラクチンの分泌が増加します。したがって、ドパミンと同様の作用があるドパミン作動薬によってプロラクチンを抑制し、ホルモンバランスを整える治療を行います。場合によっては、排卵誘発剤を併用することもあるようです。
視床下部は特にストレスに弱く、負荷がかかり過ぎるとホルモン分泌の指令がうまく出せなくなってしまいます。そのため、しっかりと睡眠をとったり、気分をリフレッシュする方法を見つけたりして、肉体的にも精神的にもストレスがたまらないようにすることも大切です。
甲状腺機能の低下の場合
甲状腺機能が低下して甲状腺ホルモンが少なくなると、甲状腺ホルモンをたくさん出そうとして、視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が分泌されます。TRHは甲状腺以外にプロラクチンの分泌も刺激するため、高プロラクチン血症となります。そのため、甲状腺ホルモンを補充する治療を行い、TRHの分泌を抑えます。
薬の服用が影響している場合
高プロラクチン血症の約9%は、抗うつ剤やピル、胃潰瘍の薬を服用することで発症するといわれています。そのため、高プロラクチン血症の治療では、まずは患者が服用している薬を問診で明らかにすることが大切です。原因薬を服用していると判明した場合、薬の変更や休薬を検討します。
プロラクチンの数値が低いとどうなる?
プロラクチンの数値が低いと、乳房が萎縮したり、授乳中の場合は母乳の分泌が不十分になったりします。
プロラクチンの数値が低くなる原因としては、プロラクチンを分泌する下垂体の機能が低下している「下垂体前葉機能低下症」が考えられます。下垂体前葉機能低下症では、プロラクチン以外のホルモンの分泌にも異常がみられる場合があります。たとえば、性腺刺激ホルモンの分泌が抑制されることで、エストロゲンとプロゲステロンの数値も下がります。その結果、無月経や性欲低下といった症状が引き起こされます。
プロラクチンの数値を上げる治療法は?
下垂体前葉機能低下症をきたす疾患としては、シーハン症候群が代表的です。シーハン症候群とは、分娩時の大量出血により、下垂体の血管に血の塊ができて血流が悪くなるものです。シーハン症候群では、プロラクチンの他、副腎皮質刺激ホルモンや甲状腺刺激ホルモンなど、下垂体から分泌されるホルモンが減少することで、さまざまな症状があらわれます。そのため、不足しているホルモンを補充するホルモン補充療法を継続して行うことになります。ただし、プロラクチン分泌不全については通常、補充療法は行わないとされています。
プロラクチンの数値が異常な場合、ホルモンバランスが整うよう、普段から規則正しい生活を心がけ、ストレスをためないようにすることも大切ですよ。
身体からのサインを見逃さないで
プロラクチンに限らず、どんなホルモンも分泌量が多過ぎても少な過ぎても問題です。ホルモンバランスが乱れることで、生理不順をはじめとして身体にさまざまな不調が生じてしまいます。食事や睡眠など生活習慣を改善しながら、ホルモンバランスを整えましょう。
ホルモンバランスは目には見えないので厄介ですが、体調の変化がホルモンバランスの乱れのサインになることがあります。その変化を見逃さないように注意しましょう。婦人科で一度、ホルモンバランスを検査してもらうのも良いかもしれませんね。