産婦人科医監修|妊活中の睡眠はなぜ大切?睡眠不足を解消するためにどうすればいい?

睡眠には身体を回復させる働きがあります。妊活中の睡眠不足は不妊につながるのではと、不安に思う人もいるかもしれません。ここでは、睡眠のメカニズムと、妊活中の睡眠の大切さ、睡眠の質を高める方法について解説します。

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この記事の監修

杉山 太朗
産婦人科医
杉山 太朗

目次

  1. 眠りのメカニズム
  2. 妊活中の睡眠はなぜ大切?
  3. 妊活中におすすめの睡眠時間と眠る時間帯は?
  4. 妊活中の睡眠の質を高めるためには?
  5. 妊活中には生活習慣を見直し、質の高い睡眠を目指そう
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眠りのメカニズム

人間は一般的に朝起きて昼活動し、夜眠るというサイクルを繰り返しています。人間の睡眠は、どのようなメカニズムでできているのでしょうか。

睡眠欲求とは

人間の睡眠は、睡眠欲求と覚醒力のふたつが作用して成立しています。睡眠欲求は起きてから時間が経つにつれて強くなり、目覚めている時間が長いほど強くなります。いったん眠りに入ると睡眠欲求は減少し、十分な睡眠をとると睡眠欲求がなくなり目が覚めます。

覚醒力は人間を目覚めさせる力で、一日の決まった時刻に増大し、睡眠欲求に打ち勝つことで人間を目覚めさせています。ナルコレプシーの原因として話題になったオレキシンという神経ペプチドが、覚醒の維持を担っています。暗くなるとメラトニンというホルモンが増加し睡眠欲求が強まり、オレキシンが減少し覚醒力が弱まることで、眠気を感じるようになるのです。

睡眠中の身体の状態

睡眠に入るとき、手足の甲の皮膚血管が開き、身体に対する手足の相対的温度が上昇することで、体温が下がり脳を冷やします。また、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンは入眠前から血中濃度が上昇し、脳が夜になったと認識するころには高い濃度を示します。身体のさまざまな働きが機能することで、人間の身体は睡眠と覚醒を調整しているのです。

レム睡眠とノンレム睡眠とは

人間の脳活動は眠っている間に、レム睡眠とノンレム睡眠というふたつの睡眠状態を繰り返すということが分かっています。ノンレム睡眠は大脳を休ませ回復させる働きがあり、レム睡眠は大脳をノンレム睡眠の状態から目覚めさせる働きがあるとされています。睡眠はノンレム睡眠から始まり、睡眠欲求が低下するとともに徐々に浅いノンレム睡眠が増えていきます。その間に約90分周期でレム睡眠が繰り返し現れ、徐々にレム睡眠の時間が増えていきます。

このように人間の睡眠は複雑なメカニズムを持っており、生活習慣を整え、質の高い睡眠を目指すことが大切です。

妊活中の睡眠はなぜ大切?

身体の回復を促し、ストレスを解消する

睡眠には体の修復と大脳の疲労回復の働きがあります。身体をつくったり修復したりするために重要な成長ホルモンの大半は、眠り始めて最初の90分の深い眠りのときに分泌されます。人間はぐっすり眠っているときに、身体を成長させ修復する働きを持っているのです。また、眠っている間に訪れるノンレム睡眠には、大脳を休ませ回復させる働きがあります。質の良い睡眠をしっかりとることが、身体と脳を回復させ、ストレスを解消することにつながります。

自律神経が整い血流を改善する

自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、ふたつのバランスが整うことで正常に働きます。睡眠時に優位になる副交感神経には、身体をリラックスさせる効果があります。自律神経には体温や睡眠を調整する働きがあるため、自律神経が乱れてしまうと冷えを招き、血流が悪化する場合があります。骨盤内の血流が悪くなると、子宮や卵巣といった妊娠に影響のある臓器の働きが悪くなり、妊娠しにくくなる恐れがあるのです。質の良い睡眠によって自律神経を整えることで、子宮や卵巣の機能を正常に働かせることができるでしょう。

メラトニンが活性酸素を抑制することを期待できる

適度な活性酸素には、生殖機能を正常に維持するための働きがあります。しかし、活性酸素が過剰になりすぎると、生殖機能に異常が起こる恐れがあります。排卵時期の過剰な活性酸素は卵子の質を低下させ受精障害を引き起こし、黄体期の過剰な活性酸素は黄体機能不全につながるとされています。

睡眠と深い関係のあるメラトニンには、活性酸素を抑制する抗酸化作用があるといわれています。卵巣にもメラトニンが存在しており、特に卵胞液中にはメラトニンが高濃度で存在し、卵胞の発育に比例して増加します。メラトニンが活性酸素による酸化ストレスを抑制し、メラトニン投与により卵子の質が改善し、妊娠率の向上につながるという臨床成績も報告されています。また、精子が受精する力を得る過程で、メラトニンやメラトニンの抗酸化作用が関係しているという研究成果も報告されています。卵子や精子の質を保つために、男性も女性も適切な睡眠をとることが望ましいといえるでしょう。

女性ホルモンの分泌を整える

眠っている間に分泌される成長ホルモンには、他のホルモンの分泌を促す働きがあり、女性ホルモンの一種である卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌にも影響するといわれています。また、生理前の黄体期に入ると、女性ホルモンのプロゲステロンの分泌により基礎体温が高まり、睡眠の質が低下するといわれています。女性の睡眠は女性ホルモンと関係が深く、質の良い睡眠は女性ホルモンの分泌を整え、妊娠しやすい身体に導いてくれるでしょう。

妊活中におすすめの睡眠時間と眠る時間帯は?

質の良い睡眠のために適切な睡眠時間は、90分の倍数であると良いという説があります。これはノンレム睡眠とレム睡眠の周期が約90分で訪れることから、眠りの浅いレム睡眠の時間帯にすっきりと目覚めることができるという考えです。しかし、この説には否定的な意見の医師もいるのが事実です。睡眠のリズムは個人によって違いますし、また季節によっても変動があります。90分のサイクルにこだわりすぎる必要はないでしょう。

22時~2時までが睡眠のゴールデンタイムという説がありますが、これは成長ホルモンが活発に分泌されるという考えに由来するものです。しかし、最近の研究では、成長ホルモンは時間帯で分泌されるのではなく、眠り始めて3時間頃までに訪れる深い眠りのときに分泌されるとわかっています。

すっきりと目覚められる睡眠時間には個人差があります。ただし、身体と脳を休めるためにも十分な睡眠時間は大切です。自分にとって快適な睡眠時間を見つけ、遅くとも午前0時までには就寝するように心掛けましょう。

妊活中の睡眠の質を高めるためには?

寝具を見直そう

寝具は就寝中に身体を保温し、良い姿勢・寝相を保つという働きがあります。睡眠中は脳を冷やすために体内から熱を放出し、体温が下がります。また、熱を体内から外に出すために、汗をかきます。寝具は保温性が高く、吸湿性・放湿性が高いものを選びましょう。

人間の姿勢は、後頭部から首・胸にかけてと胸から腰にかけて、背骨が二つのS字カーブを描くようになるのが理想的とされています。ベッドマットや敷布団が柔らかすぎると胸から腰にかけての部分が沈みこんでしまい、寝心地が悪く、腰痛の原因になる場合があります。逆に硬すぎると血流が悪くなる恐れがあります。ベッドマットや敷布団は適度な硬さのものを選びましょう。枕は、後頭部から首・胸にかけてのS字カーブをサポートしてくれます。自分の頭に合った高さの枕を選ぶと、首や肩への負担が少なく快適に眠ることができます。

人間は、寝ている間に同じ姿勢を続けると血液循環が滞るため、寝返りをうつことで体の負担を和らげています。適度な硬さのベッドマットや敷布団は、寝返りの回数を減らし、快適な睡眠をサポートしてくれます。枕にも、寝返りをして横向きになった場合の肩先から側頭部全体を支える働きがあります。

睡眠の質を上げるために、正しい寝具選びが大切です。自分にあった硬さや高さのベッドマットや敷布団、枕を選ぶのは難しいもの。デパートの寝具売り場や寝具専門店には専門のアドバイザーがいる場合が多いので、相談してはいかがでしょうか。

日中に適度な運動をしよう

運動習慣がある人には、不眠が少ないということがわかっています。習慣的に運動を続けることが、質の良い睡眠につながります。特に効果的なのが、夕方から就寝3時間ほど前までの運動だといわれています。就寝の数時間前に運動することで脳の温度を上げると、就寝時の脳温の低下が大きくなります。脳の温度が低下すると眠りに入りやすくなり、就寝の数時間前の運動は寝つきの改善を期待できます。

しっかりと朝食をとろう

これまでの研究で、睡眠と覚醒のリズムが不規則な人には、朝食を摂らなかったり、朝食の摂取量が少なかったりすることが示されています。しっかりと朝食をとって、心と身体をしっかりと目覚めさせ、健康的に一日をスタートさせましょう。

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朝は明るく、夜は暗くして過ごそう

人間の体内時計の周期はおよそ25時間といわれています。人間の本来の生活パターンは、太陽が昇る朝に目覚め、太陽が沈み夜になると眠りにつくというものであり、光を浴びることで体内時計の周期を昼夜リズムと同じ24時間に調整しています。目が覚めたらしっかりと光を浴びることで、後ろにずれがちな体内時計を早めることができます。朝起きたら、カーテンを開けて日光を部屋の中に取り込みましょう。

逆に夜の光は体内時計を遅らせる恐れがあります。特に日本で一般的な昼白色の蛍光灯は体内時計を遅らせるといわれています。夜はなるべく暗くし、電気は赤っぽい暖色系のものを使用すると良いでしょう。さらにパソコンや携帯電話・スマートフォンのブルーライトは、体内時計のリズムを遅らせ、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制するという研究も報告されています。夜寝る前のパソコンやスマートフォンの利用はなるべく控えるようにしましょう。

就寝の2~3時間前に入浴しよう

一般的に、寝る前に入浴するとよく眠れるといわれています。入浴すると体が温まり血行がよくなり、体の熱を外に逃がしやすくなります。寝る前の入浴で一時的に体温を上げ、就寝時に脳の温度の低下が大きくなると、寝つきが良くなると考えられています。ただし入浴後すぐに床に就くと、体の温度が高いまま保温されてしまい、逆に寝つけなく場合があります。寝つきを良くするためには、就寝の2~3時間前の入浴がおすすめです。

就寝前のカフェイン・アルコール摂取を避けよう

カフェインが含まれる食べ物・飲み物には覚醒作用があり、入眠を妨げたり、睡眠を浅くしたりする可能性があります。またカフェインには利尿作用があることから、夜中の尿意の原因にもなります。カフェイン=コーヒーとイメージする方も多いでしょうが、エナジードリンク、紅茶、緑茶、ココア、チョコレートなどにもカフェインは多く含まれています。カフェインの覚醒作用は3時間程度持続するといわれることから、就寝3~4時間前からカフェインの摂取は控えた方が良いでしょう。

眠る前にアルコールを飲むと寝つきやすいという方も多いでしょうが、質の良い睡眠のためには、アルコールも控えた方が良いでしょう。アルコールは一時的に入眠を促しますが、睡眠が浅くなることがわかっています。寝る前のアルコールはほどほどにとどめましょう。

妊活中には生活習慣を見直し、質の高い睡眠を目指そう

健康的な生活を送るために、質の高い睡眠は非常に大切です。特に妊活中は、女性だけでなく男性も睡眠の質を高めることが重要でしょう。妊娠を目指す20~40代の方は忙しく不規則な生活になりがちですが、睡眠の質を高めることは不妊の原因になるストレスの解消にもつながります。生活習慣を少し見直し、パートナーと一緒に妊娠しやすい身体づくりを目指しましょう。

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