【小児科医解説】コロナ流行の中で小さな子どもの「こころのケア」のためにできることは? 山口有紗
ままのてチャンネルで活躍中の小児科医・山口有紗先生の記事をお届けします。記念すべき第1回目は「小さな子どものこころのケア」。2020年5月現在、コロナウイルスの影響で、ご家族の皆様はまだまだ気を張ることがたくさんありますよね。ここでは山口先生がご家族の悩みに寄り添い、子どものこころのケアなどを教えてくださいました。
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目次
【山口有紗先生より】
コロナウイルス流行により、生活の変化を余儀なくされているご家族も多いのではないでしょうか。まだ言葉の通じない小さな子どもとの生活の中で、不安に感じたり、どうしたら良いか迷ったりすることもあるかもしれません。
今回は、主に0~2歳ごろのお子さんをお持ちのご家族のこころが少しでも軽くなるように、生活の中で無理なくできるヒントご紹介します。
※コロナウイルスに関する情報が含まれています。最新の状況は政府などの公式発表や下記参考資料を参照ください。
「小さな子どものこころのケア」、子どもに起こりやすい変化、声かけのコツ、日々の過ごし方についてみていきましょう。
新型コロナウイルスの流行により子どもに起こりうる変化
子どもは変化に敏感
小さな子どもは必ずしも状況を理解できるわけではありませんが、身近な大人の生活の変化やストレスなどを感じて、影響を受ける可能性があります。あらかじめお子さんに起こりやすいことを知っておくと、慌てずにすむかもしれませんね。
・ぐずることやかんしゃくが増える
・ひとりになることを嫌がる
・食欲の変化
・トイレット・トレーニングがうまくいかなくなる
・寝つきが悪くなる
・コロナウイルスに関する遊びをする
こうしたことは、小さなお子さんのストレスのサインであることが多いです。
でも、慌てないで。これらは子どもたちが(少し不器用かもしれませんが)自分たちなりの方法で状況に対処しようとしている証でもあります。こうした症状は長く続かず、安定した生活リズムや周囲の関わりがあれば、自然に良くなっていくことがほとんどです。
「コロナごっこ」はやめさせなくても大丈夫
子どもは遊びの中で不安やストレスに折り合いをつけているので、コロナウイルスに関する遊びをしても過度な心配は必要ありません。
もしも、コロナウイルスに関する遊びに大人が参加するのであれば、武器を与えてウイルスをやっつけたり、魔法の薬で病気になった人が回復したりするような、ポジティブなストーリーに持っていくお手伝いをしてあげると良いでしょう。
子どものしつけは焦らずに
日常が落ち着かず、大人もざわざわしているときは、トイレットトレーニングや新しいスキルの習得は避けたほうが良いかもしれません。こうしたことは大人にも子どもにも負荷がかかるので、大急ぎでないことは少し先に延ばしましょう。
いつもよりも声かけやスキンシップを
普段よりも丁寧にお子さんを観察し、声かけや抱っこをしたり、スキンシップをとったりしてみましょう。
変化に敏感な子どもへの対処にもなりますし、予防としても効果的です。ご家族も大変な中だと思いますので、もちろんできる範囲で大丈夫です。
子どもの気持ちを代弁してあげる
お子さんの言葉にならない思いを「怖かったかな?」「今日は食べたくない気分だったかな?」などと声にして代弁してあげましょう。また、トントン、という周期的なリズムはお子さんを安心させることが多いので、背中や手を優しくさすったりたたいたりしてあげると良いでしょう。
ポジティブな声かけで子どもに安心を与える
子どもたちの生活にも、手洗いをしたり、触れるものや遊べる場所が少なくなったり、会える人が減ったり、いろいろな制限がかかっていることでしょう。
2歳ごろまでの子どもの場合には、まだ理由を理解することは難しいことが多いので、「手を拭かないと病気になるよ!」とネガティブな結果を伝えるよりは、「おててを拭いてキレイになったね」と、今していることが良いことだとわかる声かけをしましょう。
「ばあばと会えなくて寂しいね、でもまた会えるからね」と自分の気持ちや少し先の見通しを身近な大人に言葉にしてもらうことで、子どもたちは安心します。
ルーチンを大切にする
ルーチンというのは、毎日同じように行う日課のことです。小さなお子さんは、特にご家族との関わりの中で「いつも通りのこと」があると、安定して過ごすことができます。
寝る時間、起きる時間はもちろん、寝る前の読み聞かせと背中トントン、週末の祖父母とのビデオ電話など、「少し楽しみな日課」が組み込まれていると良いでしょう。コロナウイルスの影響で、今まで行なっていた日課ができなくなることもあるかと思いますので、その場合には、新しいスケジュールを作って家族で試してみましょう。
下記では、外出についての考え方、マスクや病院の受診について、そしてご家族の心のケアについてお伝えしたいと思います。
遊びや外での運動の時間を持つ
まだ言葉で十分に表現することが難しいお子さんにとっては、身体を動かしたり、五感で感じたりすることがとても大切です。
外におでかけするのは心配、と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本小児科学会、米国小児科学会など多くの子どもの専門的な学会は、こうした時期でも屋外で子どもが遊ぶことは可能であり、遊びは心身の発達にとって重要であると強調しています。安心しておでかけするために、たとえば日本小児科学会では、以下のような注意点をあげています。
・外出自粛要請が出ている地域では、同居しているきょうだい、家族等同士で遊び、屋外では他人との接触を避ける
・風邪症状(のどの痛み、咳、発熱など)があるときは、外出は控える
・みんながよく触れる場所に触った後は手洗いをする
・飲食の前にも手洗いをする
こうしたことを守ったうえで、安心してお子さんと一緒に散歩に出てみましょう。ご家族にとっても、外気を浴びることはリフレッシュになりますよ。
マスクは必要?嫌がる場合は?
マスクの装着は2歳未満の小児には行ってはいけません。呼吸をさまたげたり、子どもがかえって顔を頻繁に触ってしまったりするからです。また、他者と2メートル以上離れている場合や家庭内ではマスクをする必要はありません。
より大きなお子さんは、マスクをすることを嫌がってしまうことがあるかと思います。そうした場合には、鏡や写真でお子さんがマスクをしている姿を見せたり、一緒にデコレーションしたり、何枚かのうちから好きなものを選んでつけたりするなど、子どもの不安を和らげ、興味を引く方法を試してみましょう。
3歳以下の場合には、病原体についての難しい説明はわからないことが多いので、「病気にならないようにマスクをするよ、おうちにかえったら外そうね」とシンプルな説明を心がけましょう。
健診や予防接種、病院の受診について
乳幼児健診について
乳幼児健診のうち、4ヶ月、1歳半、3歳の健診は保健所などで集団で行われることが多いですが、感染予防のためにお住まいの地域の集団健診が延期または中止になっているかもしれません。以下のチェックリストを参考に、気になることは地域の小児科や役所の子育て相談窓口に連絡してみると良いでしょう。
※自宅でのセルフチェックは下記のリンクを参考にしてみてください。
©佐久医師会 教えて!ドクタープロジェクト「乳幼児健診を知ろう」
病院やクリニックでの個別の健診は、病気の子どもとは別の時間帯に行っていることがほとんどだと思いますので、問い合わせた上で予定通り受けることをおすすめします。
予防接種について
予防接種は、日本では集団ではなく個別での接種がほとんどです。特に2歳までの予防接種は、その時期に必要な免疫をつけるのに重要ですので、自己判断で延期せず、予定通り受けましょう。
心配であれば、接種予定の小児科に連絡をして、ご家族にとって安心でき、子どもにとって不利益にならないようなスケジュールを立てましょう。
病院の受診について
熱があるときや湿疹があるときなど、受診について迷うこともあるかもしれません。熱があっても数日以内で、水分もしっかりとれて本人の活気もまずまずある場合には、急いで受診する必要はありません。下記のような状態、症状のときは受診をおすすめします。
・3ヶ月未満の赤ちゃんの発熱
・水分が取れない
・12時間以上おしっこが出ない
・ぐったりしている
・けいれんが起こる
迷った場合には、まずはかかりつけ医に電話で相談してみましょう。経済産業省がオンラインや電話で医師などに無料で相談できる健康相談窓口を設置していますので、利用してみるのも良いでしょう。
©経済産業省 遠隔健康相談事業
何より大切なのはご家族自身のケア
まずは自分優先でOK
働き方や家庭での過ごし方の変化など、今はご家族にとってもストレスの大きい時期かと思います。まずは「自分優先」で大丈夫。これは決して自分勝手なことではありません。
子どもにかまってあげられなくても、料理や家事ができていなくても、多少生活リズムが乱れても、優先すべきはご家族がほっとして過ごせることです。なぜなら、小さなお子さんにとっては、ご家族の心身の安定が何よりも大切だからです。
苛立ちや不安も正常な反応
世間が不安におちいるときは、個人も漠然とした不安、怒りや苛立ち、集中できない、気分の落ち込みといったことが多かれ少なかれみられます。それ自体は自分を守るための正常な反応で、多くは一時的なものです。
家事育児は手を抜けるところは思い切り抜きましょう。少し外気浴をしたり、好きな香りの入浴剤でお風呂に入ったり、おいしいものを食べたりして、自分を甘やかす時間を作るのも効果的です。
カッとなってしまったときの対処法
行き詰まったり、カッとなってしまったときには、目をつぶって10秒数えたり、子どもに予告してからトイレに行ってその場を離れたりすることをおすすめします。以下のように、簡単な呼吸法をやってみるのも良いでしょう。
・片手をおへそ、片手を胸に置く
・お腹に大きく息を吸って、手が動くのを感じる
・口をすぼめてフーッとスープを冷ますようにゆっくり息を吐く
・これを2~4回繰り返す
ポイントは、吸うことよりも吐く時間を長くする意識を持つことです。吐く息と一緒に嫌な気持ちが外に出ていき、良いものを思い切り吸い込むイメージを浮かべましょう。
コロナの後も使える方法ですので、ぜひ練習してみてくださいね。
大変なときこそ周囲を頼って
不安や落ち込みなどの症状は、状況が落ち着いて数ヶ月で良くなることがほとんどです。しかし、場合によっては、程度が重くて日常生活がままならなかったり、子どもに手をあげそうになったりすることがあるかもしれません。そうなる前に、ちょっとした自分の変化に気づき、周囲に相談できたら良いなと思います。
家族や友人に話したり、地域の子育て相談や児童相談所に連絡してみたりするのも良いですし、経済産業省の相談窓口には、大人向けのものや、心の相談窓口もあります。
このストレスは、子どものせいでも、ご家族のせいでもありません。こんなときこそ、ひとりで悩まないで、周りにたくさん甘えてくださいね。
※この記事は2020年5月時点の情報をもとに作成しています。
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著者情報:山口 有紗(やまぐち ありさ)
山口 有紗
小児科専門医 小児精神神経学会認定医
子ども•ご家族のこころのケアを専門にしています。
子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ安心してつながることのできる社会になるよう、やさしい情報発信を行っていきたいです。
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