【産婦人科医監修】精子とは?いつどこで何個作られる?寿命や質を高める方法はある?
男性の精子は老化しないと考えられていましたが、近年は研究が進み、精子の役割、精子が作られる過程、精子の質などが解明されてきました。毎日数千万~1億もの精子が作られ、1回の射精で1~4億もの精子が放出されるのに、卵子と受精できるのはたったのひとつです。妊娠の奇跡を成し遂げるために、精子の質の高め方を解説します。
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目次
精子の役割とは
精子は50~60μm(マイクロメートル)、単位を変えると0.05~0.06mmという、顕微鏡でなければ見えないサイズの細胞です。おたまじゃくしのような形をしていて、頭部、中片部、尾部の3つに分かれています。頭部は先が細くなった形状をしており、受精の際に卵膜を溶かして卵子に侵入しやすくする「先体」と、遺伝情報を持つ染色体が詰まった「核」で構成されています。
頭部とつながる中片部は、精子ミトコンドリアで形成されています。ミトコンドリアは細胞が生きていくためのエネルギーを生産する器官です。腟内へと射精された精子はミトコンドリアが作るエネルギーで中片部、尾部からなる「鞭毛(べんもう)」を動かし、卵子との出会いを求めて腟から子宮、卵管、卵管膨大部へと移動します。
卵管膨大部で精子と卵子が出会うと受精が開始します。従来、精子は受精によって遺伝情報を伝達することがその働きととらえられていました。しかし、精子の役割は遺伝情報を伝達するだけではなく、卵子と融合した後に卵子を活性化させたり、特定の遺伝子の出現を担っていたりすることがわかっています。
精子はいつ、どこで作られる?
精子を作るのは精巣
精子は「陰茎(いんけい)」を挟んで左右にひとつずつある「陰嚢(いんのう)」内の「精巣(せいそう)」で作られます。精巣は「睾丸(こうがん)」とも呼ばれ、陰嚢の上から形を確認することができます。精巣は楕円形をしており、長い方の径が4cm以上、容積が15mLあると正常です。
精巣の内部は「精巣小葉(せいそうしょうよう)」という小さな部屋に区切られています。部屋の数はおよそ200~300区画あり、その中を複雑に曲がりくねった「曲精細管(きょくせいさいかん)」が通っています。精子はこの曲精細管の中で作られるのです。曲精細管で作られた精子は精巣の上部から背面に続く「精巣上体」に集められます。
精巣上体の中には、6mの長さになる「精巣上体管」が通っています。精子はこの管の中で、約10日かけて運動能力と受精に必要な能力を獲得します。性的興奮を受けて視床下部から勃起(ぼっき)の信号が伝わると、精子は精巣上体から精管を通って射精管へと流れます。
射精の信号が届くまで精子を貯蔵しておく場所は、精巣上体と精管です。精巣上体の貯蔵量は約4億個、最大で約10億個と考えられています。貯蔵されているあいだ、精子はエネルギーを消費しないよう休眠して出番を待ちます。
思春期を過ぎると毎日作られる
精子はもともと「精粗細胞(せいそさいぼう)」という状態で休眠しています。思春期を迎えると精粗細胞は成熟をはじめ、精粗細胞から「精母細胞(せいぼさいぼう)」、「精娘細胞(せいじょうさいぼう)」、「精子細胞」へと分裂を繰り返し、一定のリズムで増殖しています。
しかし、すべての精粗細胞が分裂を続けるわけではなく、精粗細胞としてストックされるものもあります。
精母細胞からふたつの精娘細胞に分裂するとき、XとYの性染色体はどちらかにひとつずつ入ります。X染色体を持つ精娘細胞は、X染色体を引き継ぐふたつの精子細胞に分裂します。同様に、Y染色体を持つ精娘細胞からはY染色体を持つ精子細胞がふたつ誕生します。このような流れでひとつの精母細胞は、合計で4つの精子細胞に分裂するのです。
精子細胞は曲精細管の基底膜(きていまく)に接する「セルトリ細胞」に潜り込み、栄養を補給します。セルトリ細胞の中で成熟した精子細胞は形態を変化させ、頭部、中片部、尾部に分かれた精子が形成されます。精粗細胞から精子ができるまでのサイクルはおよそ74日間です。
1日に作られる精子の数は?
精巣内では絶えず精粗細胞の分裂が行われており、1日に作られる精子の数は数千万~1億個といわれています。これは1分間に7万個の精子が作られている計算です。
毎日たくさん作られる精子ですが、貯蔵できるのはおよそ4億ほどです。そこで、不妊治療で精液検査をするときは、2日以上7日以内の禁欲期間が設けられます。射精のタイミングを指定するのは、質の良い精子を多く得るためです。妊娠を望んでいるときは、精子の貯蔵量と生産量を意識すると妊活に役立つかもしれません。
1回の射精で出る精子の数は?数によって精液は変化する?
1回の射精で出る精子の数は個人差がありますが、平均で数千万から数億個もの精子が放出されます。WHOの基準では、1回当たり1.5mL以上の精液の中に、3,900万以上の精子があれば正常です。
精液には精嚢(せいのう)、前立腺(ぜんりつせん)、カウパー腺から分泌された液が含まれています。精嚢からは精子の栄養となるビタミンやホルモンが含まれたゼリー状の液が分泌されます。前立腺から分泌される液は白色で、栗の花のようなにおいを放ち、精子を活性化させる働きがあります。カウパー腺から出る液は無色透明です。
これらの液と精子が混ざった精液は、射精直後は粘性があり白~黄色をしています。射精後30分ほどすると、サラサラとした透明な液に変わります。精液の中にある精子は見た目では判別がつかないほど小さく、精液が多く出ていても精子がまったくない場合もあります。
禁欲すると精液が濃くなるといいますが、これは精子の数や濃度の問題です。見た目やにおいでは精子の質は判断できません。色や粘り気が「いつもと違う」と感じても、それは精子の問題ではなく前立腺や精嚢から分泌される液が関係していると考えられます。精子の状態について心配なことがあれば、医師に相談することが大切です。
精子の運動率とは?質が良い精子の基準は?
腟内に放出された精子は、卵子との受精を目指し卵管へと進んでいきます。しかし、なかには活動していても卵管を目指さない精子や、ほとんど活動していない精子も存在します。そこで、精子の運動性を4項目に分け、動いている精子の割合を示した数値が精子の運動率です。
精子の運動性は速度が速く直進する精子、ゆっくり動くもしくは不活発な直進運動をする精子、頭部や尾部が動いていても前進はしない精子、まったく動かない精子の4つに分けられます。このうち上位ふたつの動いている精子の割合で精子運動率を算出します。WHOが定めた基準では、前進運動率は32%以上、総運動率は40%以上あると正常です。
精子の寿命と受精可能時間は?
射精後の精子の寿命
精液は弱アルカリ性を示し、酸性の腟内では精液は長く生きることができません。生存期間は約24~72時間といわれています。
男女の産み分けを希望する人のあいだでは、X染色体を持つ精子のほうがY染色体を持つ精子よりも寿命が長く、生命力が強いと考えられています。そのため、女の子を望むときには排卵日の2~3日前に、男の子を望むときは排卵日当日に性交すると良いといわれています。
この説は、女性の平均寿命のほうが男性よりも長いことなどに起因していると考えられます。しかし、実際に性染色体が精子の寿命や運動に影響しているかどうかは定かではありません。
受精可能時間
腟内に射精された精子は1秒間に0.025~0.05mm進みます。1分間で約1.5~3mm進む計算です。射精後は約15~60分で卵管膨大部に到着しますが、この時点では受精に適した能力を獲得していません。
受精能を獲得するには約5~6時間かかります。しかも、受精可能な状態は36時間程度しか維持できないとされています。
一方、卵子の寿命は排卵後およそ24時間で、そのうち受精可能な時間は6~8時間程度です。したがって、受精可能な精子が卵管膨大部で卵子が排卵されるタイミングを待っていることが、妊娠の確率を高めるといわれています。
精子は老化するの?
これまで卵子が加齢により老化することは広く知られていましたが、精子も加齢とともに産生される数の減少や質の劣化が起こることがわかってきました。精巣の大きさも小さくなり、男性ホルモンの分泌も低下していきます。
30歳代と50歳代の精液を比較した結果、精液量は3~22%、精子運動率は3~37%、精子正常形態率は4~18%の低下がみられました(※1)。しかし正常に精子が作られている男性の場合、閉経のように加齢が原因で造精機能が停止してしまうことはないと考えられています。
とはいえ、生活習慣病のようにライフスタイルが精子の劣化や造精機能の低下に影響しているのではないかという考えもあります。喫煙や睡眠不足といった習慣があるときは、生活習慣を見直すと精子の状態が回復するかもしれません。
精子の数や質を検査する方法
精子の数や質を検査するには精液そのものを調べる精液検査のほかに、精巣や陰茎に異常がないかを確認する泌尿器系の検査、ホルモンを分泌する内分泌系に異常がないかを調べる血液検査が行われます。
診察や基本的な検査で異常が確認されると、MRIや勃起機能検査などさらに詳細の検査が行われます。これらの検査は不妊治療を行っている産婦人科や泌尿器科で受けられます。医師による問診、陰嚢や精巣の診察のあと、2~7日間の禁欲を経て精液を採取し、精液検査をする流れが一般的です。
一般的な精液検査では、医療施設内に用意された個室でマスターベーションを行い、専用の容器に精液を採取します。施設で精液を採取するのが難しいときは、自宅で精液を採取する方法もあります。ただし、温度を20~30℃に維持し、採取してから1時間以内に検査することが必要です。
採取した精液は粘度、pH度、精液量のほか、精子濃度、総精子数、精子の運動率や奇形の割合などを調べられます。精液の状態は日によって異なるため、異常が認められたら再検査を実施することが大切です。
精子の数を増やす・質を高める方法はある?
造精機能を促進する亜鉛やアルギニンをとる
たんぱく質の合成を助ける「亜鉛」と、たんぱく質を作るアミノ酸の一種「アルギニン」は精子の運動性を高めたり、造精機能を促進したりするという報告があります。亜鉛が不足すると精子を作る精巣や、精液を分泌する前立腺の発育が低下するともいわれており、質の良い精子を作るためには意識して摂取しておきたい栄養素です。
亜鉛やアルギニンを含む食べ物は牡蠣、牛肉、豚肉、大豆などです。アルギニンは鶏肉、牛乳、大豆製品などに含まれます。また、栄養を効率良く吸収するために欠かせないビタミンは、精子にも含まれる成分です。主食、主菜、副菜がそろったバランスの良い食事を心がけたいですね。
肥満を予防する
身長と体重の関係から適正体重を求める指数に「BMI(体格指数)」があります。BMIは22が適正で、25以上を指すと肥満と定義されています。BMIの求め方は体重(kg)÷(身長(m)×身長)で、たとえば体重90kgで身長が170cmの場合、90÷(1.7×1.7)=31となり肥満と判断されます。
肥満の人は男性ホルモンの「テストステロン」の分泌が低下する可能性が報告されています。テストステロンは思春期以降の男性器の発達や、精子の形成を促進する作用が知られており、加齢によっても分泌が低下してきます。
肥満とテストステロンの関係は解明されていない部分が多いものの、肥満の人は糖尿病の発症リスクが高く、糖尿病では勃起障害を発症する可能性が指摘されています。栄養バランスの整った食生活や適度な運動を取り入れて、肥満を予防するよう心がけたいですね。
タバコやお酒は控える
タバコには多くの有害物質が含まれています。精子の形成過程でタバコのどの物質が、どのように影響するのかは研究段階ではありますが、一般的に男性の喫煙は精子の変形、生殖能力の低下、精子数の減少、勃起不全をもたらすといわれています。
また、女性の生殖機能の低下と喫煙の関係を調べた研究では、喫煙に関連する物質が遺伝子を変異させていることがわかっています。このことから、喫煙は精子の遺伝子にもなんらかの影響を与えていると考えられます。流産や赤ちゃんの奇形のリスクを避けるためにも、妊活を考えるときには禁煙が推奨されているのです。
さらに過剰なアルコールの摂取も勃起不全や射精障害、奇形精子の増加に関連があることが報告されています。通常の飲酒量でもアルコールはテストステロンの分泌を抑制します。大量の飲酒が続けば、精巣の組織を傷つけ精子の生産をさまたげます。タバコやお酒は夫婦で協力し、控えるようにしたいですね。
睾丸を温めすぎない
睾丸(精巣)は、胃や腸などの臓器と違い、陰嚢に収まる形で身体の外にぶら下がっています。風通しの良い場所にあることで、通常の体温よりも3~4℃低い温度が保たれています。
睾丸の温度が低いのは、精子を作るのに適した温度が約32℃だからです。そのため、サウナや長風呂で睾丸を温めたり発熱したりすると、精子を作る能力が一時的に低下する可能性があります。
また、おたふく風邪(ムンプス精巣炎)で睾丸に炎症が起こると、精巣が萎縮し、長期間に渡り造精機能は低下してしまいます。最悪の場合、無精子症となってしまうためウイルス感染には注意が必要です。
下半身を締め付けない
タイトなパンツスタイルやブリーフなどで下半身を締め付けるのも、熱をこもらせ陰嚢周辺の温度を上げてしまう要因となります。血行不順を招くことも懸念されるため、締め付けすぎないデザインで、風通しの良いものを選ぶようにしましょう。
精子の質を意識して妊娠の可能性を高めよう
これまで妊娠の成立・維持には、女性の生殖機能が果たす役割が大きいと考えられていました。しかし出産年齢の高齢化が進むとともに不妊となる割合は増えてきており、研究を勧めた結果、不妊の原因は男女ともに半々の確率で存在することがわかってきています。
精子の質を高め妊娠の可能性を広げるには、女性の生理周期にはたらきかけるのと同じように、ホルモンバランスを整え、禁煙や飲酒量の調整など生活習慣を見直すことが大切です。妊娠を望むときは男性も自分の問題として妊娠をとらえ、パートナーとふたりで生活の改善に取り組んでいけると良いですね。