妊娠中の貧血の原因と対策は?胎児への影響はある?
妊娠中は母体内の水分が増えたりお腹の赤ちゃんへ送る栄養が増えたりすることによって貧血が起こりやすくなります。貧血が妊娠による生理的範囲内であれば、食事に気をつけることなどで改善されますが、まれに重度の貧血になることがあるため注意が必要です。ここでは、妊娠中の貧血による胎児への影響や、貧血の原因、対策について解説します。
本ページはプロモーションが含まれています
この記事の監修
目次
妊娠中は貧血に注意
妊娠すると、循環血液量が非妊娠時に比べ増加します。赤血球などの血球成分がそのままの状態で血液中の水分が増え、血が薄まった状態になる「水血症」になることがあります。水血症は妊娠を維持するために必要な身体の変化ですが、貧血の症状を引き起こす場合があります。
水血症や胎児に送る栄養が増えることなどが引き金となり、鉄が不足して貧血になることを「鉄欠乏症貧血」と言います。3割から5割にあたる妊婦が経験するといわれており、妊娠中の貧血のほとんどを占めます。
貧血の代表的な症状としては、立ちくらみ・めまい・動悸・息苦しさを感じるなどがあります。立ち上がるのが困難になる・倒れるといった入院が必要になるケースもあれば、なかには症状がない人もいます。妊娠すれば症状や程度は人それぞれでも、貧血の症状に悩むといっても過言ではないかもしれません。上手に対処していきたいですね。
なお、妊娠中の貧血は「鉄欠乏症貧血」が多いですが、鉄不足以外の原因で貧血になる人もいます。原因に応じた対応が必要になるので、病院で診断してもらうと安心ですよ。
妊娠中の貧血の症状
貧血の症状
貧血とは、血液内の赤血球や血色素(ヘモグロビン)が正常よりも減少している状態のことを指します。酸素を運ぶ役割があるヘモグロビンが減ると、身体が酸素不足になります。
具体的な症状としては酸欠のような状態になり、疲れやすい・だるい・めまい・動悸・息切れ・眠気などの症状が起きる場合があります。頭痛や肩こり、頭重感、吐き気といった症状から爪が割れやすくなる、肌がカサカサする、抜け毛が増える、といった症状が出ることもあります。
ひどくなると症状が悪化する
貧血状態が進み重症化すると、日常生活に支障が出る可能性があります。症状としては、ひどい息切れ、息苦しくなり立っていられなくなる、立ち上がると同時に目が回って立てなくなるなどです。妊娠中の貧血だからと甘く見ず、重症化した場合の胎児への影響や他の病気の可能性も考え、貧血の症状が続く・ひどい場合には必ず医師に相談しましょう。
妊娠前から貧血の人は自覚しにくい
貧血は日々少しずつ進行するため、貧血であるということに自分ではなかなか気づかない場合があります。貧血症状には個人差があり、なんとなくだるくて疲れやすい、日常起こりそうな体調不良があるといった場合でも、仕事や日々の疲労のせいだと済ませてしまう人も多いようです。
もともと貧血気味の人が妊娠し、貧血の度合いが増しても、普段と同じようなだるさだとして気づくのが遅れるケースもあります。妊婦健診の採血で貧血が判明し、驚く方もいます。
貧血は妊娠後期以降に強くなることも
一般的に妊娠性貧血は、妊娠月数が進むにつれて症状が現れやすくなります。特に7〜8ヶ月ごろから臨月にかけて頻繁に症状が現れるようになった、症状が強くなったと訴える妊婦が多いようです。一方で、もともと貧血の症状があった妊婦の場合には、妊娠初期から症状が強く現れることもあります。妊娠前の体調により個人差があるため、いつから必ず貧血が現れると断言するのは難しいでしょう。
妊娠中の貧血検査
一般的な貧血検査では、血液を調べることでヘモグロビン濃度を確認し、貧血の有無を判断します。ただし、妊娠性貧血の場合には、鉄分の欠乏による貧血症状ではない場合もあるため、ヘモグロビンとヘマトクリットの数値を確認します。
妊娠性貧血の診断基準は、Hb(ヘモグロビン値)が11.0未満、またはHt(ヘマトクリット値)33%未満が目安となります。健常な一般女性のHb値は、12~15ほどで、13前後が一般的です。重症度の分類としては、軽症はHb11.0未満~10.0、中等度がHb10.0未満~9.0、重症がHb9.0未満となります。
鉄分不足による貧血の場合には、鉄分を含んだ注射や点滴を用いた治療が行われることもあります。
妊娠中の貧血による胎児への影響
鉄分は妊婦より胎児に優先して供給されるので、貧血による影響がすぐに赤ちゃんに出ることはありませんが、鉄分不足は胎児発育遅延や早産などを引き起こす可能性があります。月経によりもともと貧血である人も多いため注意が必要でしょう。
妊娠性貧血になると、分娩時に出血多量の場合、母体死亡や輸血のリスクが高くなる可能性があります。また、産後に疲労・回復の遅延などが見られたりすることもあります。
妊娠中に貧血になる原因
血液量の変化
妊娠によって循環血液量は非妊娠時に比べ約1,000mL増加します。血球成分と血漿成分はともに増えますが、特に血漿成分、いわゆる水分が著しく増えるため相対的に血色素量や赤血球量が減少し、貧血になります。これを「水血症」と呼びます。循環血液量が最大になる、妊娠32週頃~34週頃に最もHbの値が低下し、貧血が強くなる傾向があるので注意しましょう。
なぜ妊娠による血液の増加が起こるかというと、循環血液量を増やして胎盤にたくさんの血液を送り、血液の濃度を下げることで血栓予防をしているためと考えられています。また、血液の量を増やして分娩時の出血に対処するためでもあります。
赤ちゃんに栄養を送る
妊娠中は胎児の成長のため、たくさんの鉄分が必要になります。鉄分は胎児への供給が優先されるので、妊婦の鉄分摂取が追いつかないと「鉄欠乏性貧血」になる場合があります。母子ともの健全な妊娠経過のためにも、貧血の値には敏感になっておきましょう。
つわりによる栄養不足
妊娠による血液量の変化により通常でも貧血になりやすいのに加え、つわりでほとんど食事がとれない場合、さらに貧血の症状が進む可能性があります。つわりのときは無理をせず、食べたいものを食べるのが原則ですが、食べやすいものばかりを食べていると栄養が偏り、貧血を促進してしまう場合があるため注意が必要です。
その他の原因
妊娠中の貧血は鉄欠乏性貧血が多いといわれています。しかし、原因によって貧血への対処法が異なるため、自分で決めつけずに担当医に相談すると良いでしょう。他の原因としては、非常に稀なケースですが「再生不良性貧血」、「溶血性貧血」などがあります。また、血液量の増加によって合併症を起こすなど新たな病気が発症するケースもあります。
妊娠中の貧血対策
妊婦は鉄欠乏性貧血になりやすいといわれています。おなかの赤ちゃん、そして自分のためにも食べ物・飲み物などから鉄不足の改善を試してみると良いでしょう。
ヘム鉄を摂取できる食事
食物に含まれる鉄には2種類あります。肉や魚などの動物性食品に含まれているヘム鉄と、野菜や海草類などの植物性食品に含まれている非ヘム鉄です。ヘム鉄が10~20%、非ヘム鉄が1~6%と吸収率には大きな差があります。
そのまま小腸から消化吸収されるヘム鉄は、動物性食品に多く含まれます。赤身の肉や魚に鉄分が多いのは、ヘム鉄を含むミオグロビンが豊富なためです。筋肉色素タンパク質のミオグロビンは酸素と結びついて筋肉組織の中で酸素を蓄える働きをしています。
鉄分の吸収を促す食品を摂る
レバーやひじき、ホウレンソウなど、鉄分を多く含むものを食べることも大切ですが、人間の身体への吸収率は10%程度です。1日に身体からおよそ1mgの鉄が排出されるため、これを補うためには毎日10mgの鉄分を摂取する必要があります。さらに妊娠時は倍以上の鉄分が必要となります。
鉄分だけではなく、鉄分の吸収を促進する食材も摂る必要があります。血液を作るために必要な栄養素にはビタミンB12・葉酸・ビタミンB6があります。ビタミンB12は「赤いビタミン」とも呼ばれ、レバー・肉類・卵・牛乳などに多く含まれています。これらの食品を日常的に摂取していれば不足することはないでしょう。
ビタミンB群のひとつである葉酸は、レバー・貝類・キャベツ・パセリ・ニンジン・トマトなどの野菜類、バナナやメロンなどの果物類に多く含まれています。ヘモグロビン生成に欠かせないビタミンB6は、ホウレンソウ・ピーナッツ・大豆・バナナなどに含まれています。
鉄分の吸収を妨げる食品を避ける
コーヒーや緑茶に含まれるタンニン、ふすま、玄米などの穀類の外皮に含まれるフィチン酸、ごぼうやさつまいも、キノコ類に含まれる食物繊維は鉄分の吸収を阻害します。コーヒーなどの嗜好品は控えることもできますが、食物繊維は人間の身体に必要なもので、妊娠中の悩みのひとつである便秘にもなりかねません。食物繊維を多く含む食品を食べるときは、鉄分を意識した食事とは30分以上ずらして食べるようにしましょう。
サプリを摂る
鉄剤のサプリメントには、さまざまなものがあります。妊娠中にサプリメントを選ぶ際には、葉酸やビタミンといった鉄吸収を促進する栄養素を含むものが良いでしょう。また、つわりなどによる食欲不振時でも飲みやすく、摂取しやすいサプリメントの大きさや形状のものを選びましょう。
ただ、サプリメントはあくまでも食事を補助するものです。上手く活用し、貧血予防に役立てましょう。
鉄剤を処方してもらう
医師に鉄剤を処方してもらう場合は、2週間程度の長い期間処方されることが多くなります。毎食後の服用が必要となるので、忘れず服用し、飲み切るようにしましょう。ただ、フェロミアなどの鉄剤には副作用もあり、人によって身体にあう、あわないの差もあります。
便が黒くなるといった症状は気にする必要はありません。胃がむかむかする、便秘・吐き気や下痢になる、などの消化器などの症状が副作用としては多く見られるので、あらかじめ知っておきましょう。消化器系の症状が出たときには、鉄剤入りの点滴に切り替えることもあります。鉄剤の服用でつらい症状がある場合には無理せず主治医に相談しましょう。
妊娠中の貧血対処法
安静にする
妊娠中は出産時の体力をつけるためにも、可能な範囲で身体を動かした方が良いですが、貧血症状がひどいときは立ちくらみやめまいで転倒することもあるため無理は禁物です。息苦しくて動くのがつらい、常にだるくて家事などが困難であるといったこともあるかもしれません。貧血が改善すればまた自然に動けるようになるので、無理をせず身体を休めましょう。
栄養を摂る
妊娠すると、つわりや子宮の増大などで、食欲がない日々が続く人も多いかもしれません。しかし、妊婦の大事な仕事は、豊富な栄養を摂り、赤ちゃんを子宮で育て、かつ出産や産後に耐えられる母体を作ることです。つわりのときなどは無理をせず、徐々に少量ずつでもよいので、鉄欠乏性貧血対策の食事などをとるようにしましょう。
浴室の環境を整える
貧血状態で湯船に浸かると、のぼせたときに急に立ち上がることでも起こる、いわゆる「脳貧血」を起こすことがあります。脳貧血が起こると、意識を司る脳を循環する血液量が追いつかず、立ち上がった際に一気に脳血流が減ることで意識を保てない状態になります。お腹の重い妊婦がお風呂で転んだり倒れたりすると、お腹をぶつける可能性があり危険です。
お風呂に入るときは、あまり長湯をしない、すべり止めマットや椅子を用意する、とっさにつかめる手すりを用意する、立ち上がるときにはゆっくりと立ち上がる、などの工夫をしましょう。
仕事中や外出先ではこまめに休憩する
外出時には太陽の照りつけや、階段や人混みなどの意外な危険が伴います。外出する際にはこまめに休憩をとりながら移動し、できれば誰かと一緒にでかけましょう。貧血状態のときは、自分自身で気づいていなくても身体は疲れている状態なので、無理は禁物です。
自分なりの貧血対策をしましょう
妊娠中の貧血を始めとする自己管理は、完璧を目指さないことが大切です。料理が得意または好きな人は食事で鉄欠乏性貧血の対策などをするのは良いですが、料理があまり得意でない人は初めから食事療法に固執してしまうと、余分なストレスを抱えることになるかもしれません。
鉄分を多く含む食材で料理を作ることができないなら、鉄分が強化されているヨーグルトやシリアル、プルーンなどの食品をとると良いでしょう。妊娠中の貧血は意外にしつこく、自覚しにくいものです。血液検査で自分の値をチェックし、自分にできる範囲の対処をしていきましょう。