子癇(しかん)とは?子癇発作への対応や治療法は?子癇前症の症状についても解説
妊娠中に注意したい病気のひとつに「子癇(しかん)」があります。妊娠中に高血圧や蛋白尿になる「妊娠高血圧症候群」の妊婦さんがかかりやすく、痙攣(けいれん)発作を伴う危険な病気です。子癇発作が起こったらどのように対応すれば良いのでしょうか。子癇発作の前兆となる「子癇前症」や子癇発作の治療法についてもあわせて確認しましょう。
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目次
子癇とは?痙攣発作が起こる?
子癇(しかん)は痙攣(けいれん)発作を特徴とする病気で、日本産科婦人科学会によると日本における発症頻度は0.04%との報告があります。発症頻度は決して高くありませんが、妊娠中の危険な病気のひとつです。どのような病気なのでしょうか。
高血圧によって脳に水分がたまる
子癇は脳の血流量が急激に増えることで起こると考えられています。血流が増えすぎることで血液の成分である血漿(けっしょう)が血管の外に漏れ、脳に水分がたまってしまうためにさまざまな症状をきたします。最終的には痙攣(けいれん)発作が起こり、昏睡状態に陥ることになります。発作が起こる前に気づいて早く対処することが大切です。
妊娠20週~産褥期にかかる
子癇発作は妊娠20週~分娩期、産後の産褥期(さんじょくき)に起こります。子癇発作が発生する頻度は妊娠中が多い傾向にありますが、妊娠している期間や分娩期、産褥期をまたいで発生することもあります。近年では妊娠中の身体の管理がしっかり行われるようになってきたことから、妊娠期間や分娩期での子癇発作の発生は少なくなってきているとはいえ、油断してはならない病気のひとつです。
妊娠高血圧症候群の妊婦の発症が多い
妊娠高血圧症候群の妊婦さんは子癇にかかりやすいといわれています。妊娠高血圧症候群は妊娠中に高血圧や蛋白尿を伴う病気で、全妊娠の約3~7%に発症するとされています。このほか以下のような特徴のある人は子癇のリスクがあるため注意しましょう。
■若年妊娠(10代)
■初めて妊娠した人
■多胎妊娠の人(双子や三つ子)
■過去に子癇にかかったことのある人
■HELLP症候群の人
子癇発作の流れと子癇前症の症状は?
子癇発作はどのような流れで起こるのでしょうか。子癇は、子癇の予兆となる「子癇前症」から始まり子癇発作からの回復にいたるまで、いくつかの段階を経ます。各段階の症状を見ていきましょう。
0.子癇の前兆(子癇前症)
命にかかわることもある危険な子癇。できるものなら子癇発作が起こる前に対処してしまいたいですよね。子癇では、発作が起こる数日~数週間前から高血圧や蛋白尿(妊娠高血圧腎症)になり、さまざまな前駆症状(=子癇前症)がみられることがあります。頭痛や目のかすみ・チカチカ、上腹部の痛みが出ている人は子癇前症かもしれません。できるだけ早く医師に相談しましょう。
1.誘導期
子癇前症から一段階進むと、本格的な痙攣発作が始まる前の「誘導期」と呼ばれる段階にいたります。誘導期には突然失神して顔面が青くなり、顔面が口元から痙攣し始めます。顔面の痙攣は数秒から十数秒ほど続くでしょう。眼球が上に偏る点も特徴です。
2.強直性痙攣期
子癇の誘導期からさらに進むと、全身が強直性痙攣となり15秒~20秒程度続きます。強直性痙攣とは、筋肉が収縮・硬直した状態が続く痙攣のことです。強直性痙攣が続くあいだは呼吸が停止します。
3.間代性痙攣期
強直性痙攣を終えると、筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、手足をバタつかせるように痙攣する「間代性痙攣」に移行します。間代性痙攣が起こっているあいだは、まぶたや口を激しく開閉します。痙攣によって噛んだ傷ができてしまうこともあるかもしれません。
4.昏睡期
痙攣が治まると今度は昏睡状態に陥ります。昏睡状態とは誰が何を呼びかけても刺激を与えても反応しない状態のことを指し、呼吸はあるもののいびき呼吸が続きます。
5.回復
昏睡状態から抜け出すと、子癇発作からの回復となります。目が覚めてもとの状態に戻りますが、発作の直前や発作が起こっているあいだの記憶は残っていません。回復せずに昏睡状態が続いてさらに発作が起こった場合には、そのまま目覚めずに亡くなってしまうケースもあります。
子癇発作の母体・胎児への影響は?
子癇発作が止まない場合、母体や胎児にはどのような影響があるのでしょうか。
母体への影響
子癇発作が何度も繰り返されると、脳に水分がたまってむくんだ状態が続き、「脳ヘルニア」という状態になる場合があります。最悪の場合には死にいたることもあるでしょう。
また痙攣時に食べ物や異物が気道に入り、誤嚥性(ごえんせい)肺炎にかかるリスクもあります。このほかHELLP症候群という病気にかかったり、肺に水がたまったり、臓器が正常に働かなくなったりすることも考えられます。赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれてしまう「常位胎盤早期剥離」という状態になる場合もあり、いずれにしろ子癇が続くと母体は危険な状態に陥ることがわかります。
胎児への影響
子癇は胎児の健康に何らかの問題が生じる「胎児機能不全」を引き起こすこともあります。胎児機能不全の中でも深刻な「胎児低酸素血症」や「胎児アシドーシス」という状態になると、脳性麻痺や胎児死亡につながるケースもみられます。母体のためにも胎児のためにも、子癇発作が起こったときには早急な対応と再発防止を行うことが大切です。
子癇発作への対応は?
本格的な子癇発作になると、妊婦さん本人は会話したり動いたりできる状態でなくなります。症状が軽いうちに病院へ行くことがもっとも大切な対応であるといえるでしょう。また体調が悪いときはひとりにならないようにすることも心がけてください。
急な子癇発作が起こったら、周囲の人はすぐに救急車を呼びましょう。救急車が到着するまでは自分にできる限りの救急処置を行ってください。まずは妊婦さんを暗くて静かな場所に移動させ、安静な状態にします。それから気道確保のためにあごを上げ、食べ物や異物が気道に入らないように顔を横に向けましょう。救急車の到着後は、救急隊員によって同様の処置や酸素吸入などが行われます。
子癇の治療法は?
救急救命措置
子癇で発作が起こったときには、まずは母体の命が失われないように救命救急処置を行います。救急車の中では気道確保や酸素吸入を行うほか、痙攣によって舌を怪我しないように舌を圧迫するヘラを口の中に入れる処置がとられます。
安静
強い光や大きな音は子癇発作を発症させたり悪化させたりする誘因になりえます。子癇発作を抑えるためにはそうした刺激から遮断された暗くて静かな場所で安静にすることが大切です。発作を抑制するとともに再発防止につながります。
薬の投与
痙攣を停止させるために硫酸マグネシウムを持続的に投与したり(点滴)、血圧を下げるために「ニカルジピン」や「ヒドララジン」と呼ばれる薬剤を注射したり、身体の状態を落ち着かせるために「ジアゼパム」などを注射したりすることがあります。こうした薬物療法も、発作の制御と再発防止を目的として行われます。
妊娠を中断する(帝王切開)
妊娠中の子癇の場合には、妊娠を中断して胎児を外に出す場合があります。帝王切開で分娩を行うのが一般的です。胎児は早産となって胎外で生き続ける場合もあれば、死産となることも考えられます。子癇全般に言えることですが、何らかの障害や重篤な病気を持って生まれてくるケースもあるでしょう。
子癇と間違いやすい病気は?
子癇のもっとも特徴的な症状は痙攣発作ですが、子癇以外にも痙攣発作を伴う病気は存在します。他の病気と判別がつきにくいために精密な検査を行うこともあるでしょう。子癇と間違いやすい病気にはどのようなものがあるのでしょうか。
子癇以外の痙攣発作
痙攣発作が起こりうる病気としては、くも膜下出血や脳出血、脳梗塞のような脳血管障害や、てんかん、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎、羊水塞栓(そくせん)症、精神疾患などがあげられます。
子癇と脳血管障害
子癇と間違いやすい病気として特に注意したいのが脳血管障害です。妊娠中の脳血管障害は症状が重い場合が多く、死亡率が高い傾向にあります。妊娠中は妊娠していないときに比べて脳血管障害のリスクが高いという報告もあるようです。
痙攣や昏睡状態がずっと続いていたり身体の片側の麻痺が起こっていたりする場合には脳血管障害を疑い、CT検査やMRI検査を行うことになるでしょう。脳血管障害があっても診断がなかなか確定しない例は少なくないことに加え、治療を行っても症状が改善しにくいため、妊娠時の脳血管障害は非常に厄介な病気であるといえます。
子癇発作に対応するには日頃のコミュニケーションが大切
子癇発作に対応するための鍵は、正しい知識を持ってできるだけ早く処置を行うことです。特に妊娠高血圧症候群の人は子癇になるリスクが高いため、子癇についてしっかりと正しく知り、少しでも気になる症状があればすぐに病院を受診しましょう。家族にも、どのようなリスクがあるのかを話しておくとより安心できますね。
妊娠中は、子癇発作に限らずさまざまなトラブルが起こる可能性があります。怖がりすぎる必要はありませんが、万が一のときに備え、周囲の人と緊急時の対応について話し合っておきましょう。日頃のコミュニケーションがいざというときに役に立つかもしれませんよ。