【産婦人科医監修】妊婦が注意したい溶連菌!種類や母子への影響、予防・対処法
上の子がいる家庭では、のどの痛みを感じると溶連菌を疑う人もいるかもしれません。子どもを中心に流行する「溶連菌」ですが、妊婦健診でも溶連菌の検査を行うことがあります。溶連菌の種類や症状、母子への影響、予防・治療法などを解説します。
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目次
妊婦が注意すべきウイルスや細菌などの感染症
妊娠中は薬が胎児に与える影響などに注意が必要なため、風邪などのさまざまな病気に気をつけている人は多いかもしれません。特にインフルエンザを始めとした感染症は、感染者との接触が感染の原因となる場合もあり、注意を払っている妊婦は多いでしょう。
寒い季節に流行するインフルエンザやノロウイルス、深刻な胎児への影響が懸念される風疹、食べ物から感染する感染性胃腸炎、子どもがかかりやすい溶連菌など、気をつけなければならない感染症は多くあります。どのようなウイルス・細菌にどのように注意すべきかを把握し、適切に予防を講じていくのが大切です。
「溶連菌」にも複数ある!妊婦が注意すべき溶連菌は?
溶連菌は、正しくは「溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)」と呼ばれる細菌です。α溶血とβ溶血があり、さらに後者にはA群・B群・C群、G群と細かく分類されています。一般的に「溶連菌」と呼ぶ際には、のどの痛みと子どもがかかりやすい「A群溶血性連鎖球菌(GAS)」を指すことが多いでしょう。
ただし妊婦健診の際に検査する場合がある「B群溶血性連鎖球菌(GBS)」は、ママから赤ちゃんに感染し、新生児の髄膜炎などの原因となる場合があります。C群またはG群連鎖球菌は、成人の敗血症を引き起こす場合があります。どの溶連菌も妊婦や胎児に影響を与える可能性があることは同じため、すべての溶連菌に注意する必要があります。なかでも一般的なA群とママから赤ちゃんに感染するB群には注意が必要だといえるかもしれません。
妊婦健診で調べる「B群溶血性連鎖球菌(GBS)」
妊婦健診では、必要に応じてママから赤ちゃんに感染する細菌やウイルスの有無を検査することがあります。風疹やHIV、梅毒、B型・C型肝炎などの抗体を妊娠初期に調べる血液検査が有名かもしれません。
妊娠中期・後期にも、必要に応じて妊婦健診で「B群溶血性連鎖球菌(GBS)」「性器クラミジア」「HTLV‐1抗体」の検査が行われる場合があります。
「B群溶血性連鎖球菌(GBS)」という菌の名前はあまり馴染みのある言葉ではないかもしれません。「溶連菌(ようれんきん)」と呼ばれる妊婦の腟や直腸から検出されることがある細菌の一種です。
妊婦の10〜20%は菌を保有しており、健康な成人への影響は少ないといわれています。一方で新生児は髄膜炎を引き起こすケースがあり、後遺症が残る可能性もあります。分娩時に産道を通ることで感染する場合があるため、必要であれば分娩時に抗生剤が点滴で投与されます。
子どもがかかりやすい「A群溶血性連鎖球菌(GAS)」
のどが痛いと感じると、風邪を疑う人が多いかもしれません。多くの場合、のどがウイルスや細菌により炎症を起こしていることで痛みを感じます。
「A群溶血性連鎖球菌」は、略して「A群溶連菌」とも呼ばれ、「溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう)」の一種である「A群溶血性連鎖球菌咽頭炎」を引き起こすことが知られています。のどの痛みや発熱など、いわゆる風邪症状が出る溶連菌感染症は、ほとんどがA群溶血性連鎖球菌によるものです。
溶連菌感染症の主な症状は、のどの痛みと発熱、リンパ節が腫れる、舌の表面が赤くブツブツになる、脇の下や首など柔らかい部分にかゆみを伴う赤い発疹などがみられます。8歳以下の子どもの発症率が高いといわれていますが、大人にも感染します。2023年12月には、溶連菌感染症が大流行し、A群溶血性連鎖球菌咽頭炎の患者数は過去10年で最多を更新しました。
溶連菌感染症は例年11月から4月に流行します。妊娠中に風邪の症状がある場合は、無理せず早めに医療機関を受診しましょう。感染症の重篤化や産後に劇症型A群溶連菌感染症を発症するケースも稀に報告されているため、感染しないように注意することも大切です。
溶連菌の検査方法は?
のどが痛み子どもがかかりやすい「A群溶連菌」は、のどを綿棒でこすって菌の有無を確認する検査方法が主流でしょう。5分から10分程度で検査結果が出る方法です。
ママから赤ちゃんに感染する「B群溶連菌」は、妊娠後期の妊婦健診で検査が行われる場合があります。細菌培養検査と呼ばれる方法で、おりものから菌が検出されるかどうかで陽性・陰性の判定をします。
溶連菌はどこでうつる?
子どもがかかりやすいことで有名な「A群溶連菌」は、咳や唾液などの飛沫・接触感染が原因で菌がうつることがあります。幼稚園や保育園、家庭で感染が広がることもあります。上の子がA群溶連菌に感染し、ドアノブなどのよく触る場所や口移しといったさまざまな感染経路で妊婦にうつることも少なくありません。
子どもや夫など家族に感染者がいる場合には、タオルは共有しない、除菌をこまめにするといった細かな点に注意が必要です。お風呂は念のため、しばらくは感染者が最後に入ると良いかもしれませんね。
「B群溶連菌」は老若男女問わず多くの人が菌を保有しているといわれますが、健康な成人に何か特別な症状が出ることはないといわれています。一方で新生児や老人、糖尿病などの患者には重大な感染症を起こすことがあります。B群溶連菌は一時的に保菌者となっているケースが多いため、出産間近の妊娠後期に検査が行われることが多いようです。赤ちゃんが産道を通る際にママから感染することがあります。
のどの痛み・かゆみに発疹、発熱、溶連菌の症状は?
子どもがのどの痛みや発熱を訴える場合、風邪だけではなく溶連菌の可能性も考える必要があります。子どもがかかりやすい「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」の症状としては、発熱・のどの痛み・頭痛・腹痛・吐き気・嘔吐・腰痛といったものは風邪と共通しています。
特徴的なものとしては脇の下や首など柔らかい部分に赤み・かゆみのある発疹が現れる、苺舌と呼ばれる舌の表面に赤くブツブツしたものができる、といったものがあげられるでしょう。風邪とは異なり、咳や鼻水は出ません。2日間から5日間ほどの潜伏期間があります。大人も感染することがあり、症状が出ない人もいます。
新生児の肺炎・髄膜炎・敗血症を引き起こすことがある「B群溶連菌」は、健康な成人が感染していても症状は何もないことが多いといわれています。妊婦自身で感染を確認することはできないため、妊婦健診で検査を受けることが重要になってきます。
溶連菌は出産や胎児に影響を与える?
妊婦であれば、やはり出産にどのような影響が出るのかが気になるでしょう。のどが痛くなり子どもがかかりやすい「A群溶連菌」は、適切な治療をすれば4〜6日程度で熱やのどの痛みは緩和されることが多いといわれています。一方で急激に重症化するケースもあり、高熱による胎児への影響が懸念される場合もあるようです。
「B群溶連菌」は、分娩時に産道を通る際にママから新生児へ感染する可能性があります。このため産道を通らない帝王切開では感染のリスクは少ないといわれています。
新生児がB群溶連菌に感染すると肺炎・髄膜炎・敗血症を引き起こす可能性があり、髄膜炎は運動や学習障害などの後遺症が残る場合もあり、死亡例もある深刻な病気です。このため事前に検査で菌の有無を把握し、分娩時の感染リスク対策を行うことが重要になります。
溶連菌の治療法や対策はある?
子どもを中心に唾液などの飛沫・接触感染が原因で広まる「A群溶連菌」と分娩時に産道を通ることで感染する「B群溶連菌」では、同じ溶連菌とはいえ異なる部分があります。ともに菌に対して抗生物質療法で対処するケースが多いようですが、対処するタイミングは異なります。
予防方法
A群・B群ともに菌は一時的な保有になることもあるため、妊娠初期・中期・後期を通して注意は必要でしょう。特に子どもがかかりやすくのどが痛くなるA群溶連菌は、飛沫・接触感染で広まります。
このため、一般的な感染症予防と同じように手洗い・うがい・マスクをはじめ、家族間でも極力タオルなどの共有も控えると良いでしょう。B群では母子感染の予防のために、分娩中に点滴の形で抗生物質(抗菌剤)が投与されるケースが多いようです。予防方法としては、必要であればB群溶連菌の検査が実施されるため、妊婦健診を確実に受けることが大切です。
治療、対処方法
A群ではすでに症状が現れている症状に対しての治療のために、一定期間の抗生物質などの薬の服用で治療を行なっていくケースが多いかもしれません。A群では症状が治ったからといって抗生物質の服用を止めてしまうと再発する恐れがあります。
また対処せずとも快方に向かうケースもあるようですが、重症化しやすいともいわれています。B群では深刻な影響が懸念される新生児をふくめ大人も治療には抗生物質を用います。
のどの痛みは溶連菌かも?何科を受診すべき?
のどの痛みを感じたとき、家族や会社などに溶連菌に感染している人がいたら、子どもがかかりやすい「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」の可能性を考えてみましょう。妊娠中の風邪症状で受診するときは、一般的にかかりつけの内科などの病院もしくは産婦人科のどちらでも問題ないでしょう。
ただし溶連菌のような感染症の疑いがある場合に産婦人科に相談したい場合には、通常の受診とは異なり注意が必要です。産婦人科は自然と妊婦が多く集まるところであるため、溶連菌のみならずインフルエンザなどの感染症の拡大にはいっそうの注意を払う必要があります。感染症の疑いがある場合には事前に病院に電話で連絡し、指示を受けてから受診しましょう。
GBS(溶連菌)以外の母子感染も知っておこう
細菌やウイルスなどの微生物が、ママから赤ちゃんに感染することを「母子感染」と呼びます。母子感染にはお腹の中で胎児に感染する「体内感染」、分娩中に産道を通るときに感染する「産道感染」、母乳で感染する「母乳感染」の3つがあります。
妊娠前から細菌やウイルスなどを保有している人もいれば、妊娠中に感染する妊婦もいるでしょう。赤ちゃんへの感染リスクを最小限に抑えるために、妊婦健診で検査が行われる菌・ウイルスもあります。
妊婦健診では、B型・C型肝炎ウイルス、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、梅毒、風疹ウイルス、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス-1型)、性器クラミジアなどを調べる機会があるかもしれません。それぞれ先天性疾患や深刻な症状を引き起こす可能性があるものです。
ただしこれらの検査の実施は医療機関の方針や妊娠の経過により異なります。検査で感染症が判明した場合には状況に応じて適切な治療や指導が行われるため、慌てず現在の状況や今後の治療方針、治療に伴う薬の副作用や影響などを医師とよく相談しましょう。
溶連菌はひとつじゃない!種類にあわせた対策を
「A群溶血性連鎖球菌咽頭炎」は子どもを中心に感染が広がる感染症のため、上の子がいる家庭では特に気になる病気のひとつかもしれません。さらに妊婦健診で「B群溶連菌」の検査があると聞くと、子どもから溶連菌がうつると赤ちゃんに深刻な影響を与えるのではないかと心配になる人もいるでしょう。同じ「溶連菌」とはいえ、異なるものであることは知っておくと良いかもしれません。
一方で、A群も重症化した場合には妊婦や胎児への影響も懸念されます。他の感染症の予防もかねて、手洗い・うがいといった感染症対策は日頃から心がけておくと安心かもしれませんね。
※この記事は2024年1月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。