食物アレルギーの最新の治療とは?知識を持った医師と一緒にアレルギーを乗り越えよう!【パパ小児科医コラムvol.8】
子どもが食物アレルギーと診断された場合、親として子どもに何をしてあげれば良いか悩みますよね。最近ではアレルギーのある食べ物でも、少しずつ食べる量を増やしていくことで、食物アレルギーを乗り越える方法が出てきています。パパ小児科医の加納友環(ぱぱしょー)先生が、食物アレルギーの治療法について教えてくださいました。
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目次
以前の記事で食物アレルギーの診断について述べました。
今回は診断がついたあとの治療についての記事です。
子どもが食物アレルギーだと診断がつけば、それは一生つきあっていかなければならないものなのでしょうか?答えはNOです。
ではどのようにしていけばよいでしょうか?
最新の食物アレルギーの治療法は、少しずつ食べていくこと
10年ほど前、食物アレルギーの診療は除去が基本でした。該当食物を食べなければ症状は出ないので、できるだけ避けていく方法がとられていたのです。しかし近年は、該当食物を少しずつ食べていくという方法に切り替わってきています。だんだんと量を増やしていくことで、将来的にその食べ物を食べられるようになる、つまり食物アレルギーが治るということです。
専門施設で行われる「経口免疫療法」
アレルギーのある食べ物を少しずつ食べていく治療法を「経口免疫療法」といいます。アレルギー症状がでる危険性がありますので、医師の指導のもと行われる治療法で、どのくらいの食物量で症状が出るかを確認し、少量の食品摂取を開始して目標量まで計画的に増量していきます(※1)。現在この治療は、一部の専門施設のみで行われています。
経口免疫療法では、ごくごく少量でも症状がでてしまうお子さんであっても、症状がでないレベルのわずかな量…たとえば牛乳を0.1mlにしたり、そこからさらに水で100倍にうすめたりして摂取してくと、だんだんと摂取量を増やせる場合があります。
食事指導を行う医師も
軽症~中等症の食物アレルギーに対しては、医師による食事指導が行われる場合があります。専門施設ではなくても可能な治療法で、医師の裁量で進められるものです。
自宅で食品摂取量を増やすことにはリスクもあるため、病院で安全に食べられる量を確認する経口食物負荷試験を行い、自宅では摂取可能だと確認できている量を食べていくという食事指導をする施設もあります。この場合安全性は高まりますが、増量は病院でのみ行うため治療の進み具合は緩やかになります。
経口免疫療法も食事指導も、アレルギーの食物を食べていくことは共通しています。どのような方法をとるかは、子どもによっても異なりますし、その病院の医療体制(もしものときの救急受診ができるかなど)によっても異なります。リスクのある治療法ですのでよく医師と相談してください。
食物アレルギーの治療と湿疹には深い関係がある
2008年に海外のある研究で、下記の説が提唱されました(※2)。
・食物が湿疹を通じて皮膚から身体の中に入ることにより、食物アレルギーを発症する
・逆に食べて消化管の中に食物を入れると、食物アレルギーを発症しにくくなる
その後それらを裏付ける報告が相次ぎ、日本でも湿疹の治療をすることで卵アレルギー発症のリスクを抑えることができるという報告がなされています(※3)。
食物アレルギーの原因となる食物を食べていく練習をするとしても、湿疹が落ち着いていない状態ではなかなかよくなっていきません。まずは皮膚状態を改善させ維持していくことが前提です。
また食物アレルギーにはアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎など、アレルギーに関連した疾患を伴うことが多いものです。これらの症状が落ち着いていないと、食物摂取により喘息症状や全身の発疹などが誘発されやすくなりますので、これらを一緒に治療していくことも重要です。
今のところ食物アレルギーを治すための特効薬はありません。しかし現状では、保湿やステロイド軟膏でしっかり湿疹をケアするなど、ほかのアレルギー疾患の治療を並行してすすめながら、可能な範囲で該当食物を安全な範囲で摂取していくことで改善が見込めます。
食物アレルギーの治療は泳ぎの練習のようなもの
かつて食物アレルギー診療は「アレルギー=危険」としていて、食べて治していく治療はなされていませんでした。これは、たとえば海に入ると溺れてしまう人がいたとして、徹底的に海に近づかないようにするようなものです。確かに、海に入らなければ溺れる可能性はゼロですので、それも選択肢のひとつです。しかし偶発的に海に落ちてしまい溺れてしまう可能性だってあるのです。
現在の治療は、まずはもし偶然海に落ちてしまっても溺れないようにして、さらには海でスイスイと泳ぐことを目指すようなものです。最初は顔付けや、浅いところで水になれるところから始め、だんだん深いところへ。1m泳げたらだんだん距離を伸ばしていく、それを繰り返すことでいつか25m泳げるようになるかもしれません。泳げない子どもに、いきなり25m泳げと言っても無理です。できることを少しずつ積み上げていくことが大切です。
人には背が高いとか低いとか、絵が得意とか不得意とかいろんな特性があります。食物アレルギーもその特性のひとつで、誰のせいでもありません。かつてはその特性があれば、ずっと付き合っていかなければならないものでした。しかし現在は、泳ぐことが苦手であっても、それを補うための練習方法があります。
病院であれば医師や看護師がコーチとして見張っているので、安全を確保しながら練習することができます。アレルギーの知識を持ったコーチ(医療者)がいる施設は、下記から探すことができます。
湿疹をコントロールしながら安全な量を食べていく、このシンプルながらも難しく根気のいる治療を親身に支えてくれるコーチに出会ってください。そして、「泳ぐことが苦手」という特性をこれからの練習で少しでも乗り越えられますよう願っています。
著者:加納友環(ぱぱしょー)
二児(2歳、4歳)の父で小児科専門医。
TwitterやInstagramを中心に子育て当事者の立場から、また医療者の立場から子育てに役立つ情報を発信しています。