保育園に通い始めた子どもが熱を繰り返すのはなぜ?予防法や対処法は?【パパ小児科医コラムvol.9】
春から保育園や幼稚園に通い始めた子どもが、何度も熱を出してなかなか登園できないと「何か大きな病気ではないか?」と心配になりますよね。集団生活を始めた子どもが熱を出す理由や対応について、パパ小児科医の加納友環(ぱぱしょー)先生に教えていただきました。
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春先にお子さんが保育園に通い出したご家庭の中には、子どもが熱を出して仕事中に呼び出し…ということを何度も経験している人も多いのではないでしょうか?
子どもが集団生活をするようになると、感染を繰り返すのはある程度仕方がない…と覚悟を決めてはいたものの、あまりに何度も熱を出すと、何か大きな病気なのではないか?と不安になる人も多いと思います。
今回は子どもが熱を繰り返す場合の考え方、対応について説明します。
子どもが何度も熱を出す理由
毎年春になると「保育園に入園してからほとんど登園できていません(=仕事にいけません)」と嘆く親御さんに出会います。どうして子どもは何度も熱を出すのでしょうか?
小さい子どもは免疫機能が未熟
年齢にもよりますが、特に保育園に入るくらいの子どもは免疫機能が未熟です。
生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんの身体の中でもらった免疫グロブリンIgGという感染防御に重要なたんぱく質をたくさん持っています。しかしこの免疫グロブリンは、生後6ヶ月までに徐々に減少していくのです。
生後6ヶ月〜2歳頃までは人生で一番免疫グロブリンが少ない時期のため、しょっちゅう風邪をひきます。多くの場合1年に6~8回ほど、15%の子は9~12回ほど風邪をひくといわれています(※1)。
おまけに、子どもたちは咳エチケットを身に付けておらず、手洗いも十分にできませんし、鼻をかむこともできません。鼻水をだらだら流したり手でふいたりして、周りの子たちと風邪を移しあってしまいます。
もちろん、徐々に免疫がついてきて子どもが熱を出す機会は減っていきますが、個人差もあってなかなか落ち着かない場合もあります。ほとんどの場合は、何か根本的に病気があるのではなく、感染の機会が多いなど偶発的な要因の影響が大きいのです。
免疫不全症が疑われるケース
まれに免疫機能に原因がある場合があります。それには次の「原発性免疫不全症を疑う10の徴候(※2)」を参考にします。
1.乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良が見られる。
2.1年に2回以上肺炎にかかる。
3.気管支拡張症を発症する。
4.2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎(ほうかしきえん)、敗血症や皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる。
5.抗菌薬を服用しても2ヶ月以上感染症が治癒しない。
6.重症副鼻腔炎を繰り返す。
7.1年に4回以上、中耳炎にかかる。
8.1歳以降に、持続性の鵞口瘡(がこうそう)、皮膚真菌症、重度・広範囲ないぼが見られる。
9.BCGによる重症副反応、単純ヘルペスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貪食(たんしょく)症候群に罹患したことがある。
10.家族が乳幼児期に感染で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある。
免疫不全症はまれな病気で、診断には専門的な施設での検査が必要になります。これらの兆候のうちいくつか当てはまる場合は、免疫不全の疑いなどないか一度相談してみてはどうでしょうか。
子どもが熱を繰り返す病気
原発性免疫不全とは少し異なりますが、熱を繰り返す病気でしばしば見かけるものをふたつ紹介します。
■1.自己免疫性好中球減少症
血液の中の白血球の一種である「好中球(こうちゅうきゅう)」が少ないことで、感染を繰り返すものです。一般に生後6ヶ月くらいで発症して、頻繁に熱を出してしばしば入院を繰り返します。2歳くらいになると好中球は年齢相当に回復するので感染の機会が減ります。
好中球の説明は下記の記事も参照してください。
■2.PFAPA症候群(周期性発熱)
周期性発熱という言葉の通り、3〜6週の一定周期で発熱を繰り返すものです。5歳以下で発症して、周期的に発熱が3~6日続き、口内炎、扁桃腺炎、頸部リンパ節炎といった症状が現れます。PFAPAとはこの症状の英語の頭文字をとったものです。
PFAPA症候群は免疫機能の異常によるもので、抗生剤を投与しても効果はありませんが自然に解熱します。診断がついていれば、発熱期間を短くするためにステロイド剤など投与することがあります。PFAPA症候群も子どものころのみの病気で、だいたい12歳までには落ち着くものです。
このふたつの病気はしばしば見かけるといっても、私の外来では多くて年間数人程度見かけるのみです。しょっちゅう熱を出しているとしても特別な理由がなく、ただ普通に風邪を繰り返しているだけの場合がほとんどです。
子どもの熱の予防法
では予防など何かできることはないでしょうか?
子どもの風邪を防ぐ決定的な方法はないので、できることをしていくしかないと思っています。
予防接種を打とう
まず予防接種を打つことは絶対条件です。ロタウイルス、水痘、おたふく・・・受けられる予防接種は全部受けましょう。もしこれらの病気にかかれば、長期で休まなければなりません。
しっかりと睡眠を取ろう
ただ、ワクチンでは全ての感染症を防ぐことはできません。風邪ウイルスには繰り返しかかることを前提に対策をする必要があります。
風邪にかかりにくくするために、また、もし風邪をひいても早く改善するためには、睡眠や栄養をしっかりとることが大切です。睡眠と風邪とは密接に関わっていて、睡眠時間が短いと風邪にかかる頻度が増えるというデータがあります(※3)。
熱が下がっても丸一日は様子を見よう
体温は朝には低くて午後には上がっていきます。熱が下がったからと子どもをすぐに保育園に登園させても、昼には熱が上がって呼び出されるということを経験したことがある方は多いのではないでしょうか。
子どもが風邪をひいて発熱した場合、丸一日熱がないことを確認してから登園させることが望ましいのです。まだ十分に回復していない状態で子どもを登園させると、新たな風邪をもらい、結果的にずーっと熱が出ている、ずーっと咳をしているという状態になってしまいます。
子どもが体調を崩したら保護者をしっかり休ませる社会に
子どもの体調不良時にはしっかり休むということが重要…とはいっても、ママやパパのお仕事の状況から難しいこともあるかもしれません。これには会社及び社会の理解が必要です。
子どもはしょっちゅう熱が出ることが当然なのです。
子どもが風邪をひいたらしっかり休ませて治すことが重要ですし、子どもの風邪が長引けば大人の感染の機会も増えます。大人が病気に感染すると職場に感染症が流行するなど生産性が低下するので、会社にとってリスクとなりうるでしょう。
小児科医の立場からは、子どもが熱を出したら子どもと保護者をしっかり休ませるということが、社会全体にとって一番大切なことだと思います。
パパ小児科医(ぱぱしょー)先生の過去のコラム
著者:加納友環(ぱぱしょー)
二児(2歳、4歳)の父で小児科専門医。
TwitterやInstagramを中心に子育て当事者の立場から、また医療者の立場から子育てに役立つ情報を発信しています。