妊娠悪阻の時期や症状、原因を解説!入院は必要?仕事や食事はどうする?

妊娠初期に多くの人が経験する「つわり」。通常のつわりでは治療は必要ありませんが、症状が悪化すると「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼ばれる治療が必要な状態になります。妊婦の1~5%が発症する妊娠悪阻の原因はどのようなもので、症状はいつまで続くのでしょうか。点滴や入院、仕事や食事についても解説します。

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この記事の監修

杉山 太朗
産婦人科医
杉山 太朗

目次

  1. 妊娠悪阻の原因と時期は?
  2. 妊娠悪阻の症状は? 
  3. 妊娠悪阻の治療とは?点滴・入院は必要?
  4. 妊娠悪阻の入院期間・費用は?
  5. 妊娠悪阻で保険は適用される?
  6. 妊娠悪阻がひどいとき仕事はどうする?
  7. つわりがつらいときは無理せず病院へ
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妊娠悪阻の原因と時期は?

妊娠悪阻とは、吐き気や嘔吐といったつわりの症状が悪化した状態のことを指します。食事が摂取できなくなるため、栄養不足で体重が減少するなどさまざまな症状があらわれます。妊娠悪阻はどのような原因でいつごろ起こるのでしょうか。

妊娠悪阻の原因

妊娠悪阻の原因は明確には特定されていませんが、つわりと同様に妊娠によるホルモンバランスや代謝、精神状態の変化が原因であると考えられています。また、若い人や胞状奇胎、多胎妊娠、妊娠高血圧症候群になったことがある人、前回の妊娠でも妊娠悪阻になったことがある人は、症状がでやすいといった意見もあるようです。

妊娠悪阻の時期

妊娠悪阻は、通常のつわりが起こる時期と同じく妊娠5週~16週頃にあらわれるのが一般的です。症状の程度や治療の経過に個人差があるため、いつまで続くかは人によって異なります。

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妊娠悪阻の症状は? 

頻繁な嘔吐(おうと)

妊娠悪阻になると1日中嘔吐を繰り返すことになるでしょう。つわりは早朝の空腹時に症状が強くなる傾向があり、吐き気・嘔吐も一時的である場合が多いですが、妊娠悪阻では嘔吐がずっと続くのが特徴です。

摂食障害

吐き気や嘔吐が続くため、食べ物を口にすることが困難になります。食事を摂取しないため身体に栄養をとりこむことができなくなり、栄養障害や代謝障害につながることがあります。

体重減少

食べ物から糖分を摂取できないため、代わりに体内の脂肪を分解してエネルギーを得るようになり、体重が減少します。一般的に5%以上体重が減少している場合には、妊娠悪阻を疑います。また、脂肪を分解するときに生じる「ケトン体」という物質の血中濃度が上がるため、尿検査をすると通常の尿からは検出されないケトン体が検出されるようになるでしょう。

脱水、飢餓状態

妊娠悪阻が悪化した場合には、嘔吐で水分を失うとともに摂食障害で栄養不足になるため、脱水状態・飢餓状態に陥ることがあります。さらに重症になると、ごくごくまれに、意識障害や小脳障害をきたす「ウェルニッケ脳症」という脳疾患に発展する場合もあるようです。

妊娠悪阻の治療とは?点滴・入院は必要?

妊娠悪阻と診断された場合、原則的に入院して治療を行います。脱水や栄養失調、心身の不安状態を改善するため、症状の程度に応じて以下の治療を組み合わせるのが一般的です。

食事指導

妊娠悪阻の症状が軽い場合には、好きな食べ物を少量ずつ何度にも分けて摂取するように指導されます。吐き気や嘔吐がひどく食事をとることが難しいケースでは、絶食にして点滴による治療(輸液療法)に変更するのが一般的です。

輸液療法

脱水症状や電解質の異常を補正するため、ブドウ糖を含んだ電解質液を点滴で投与する方法です。妊娠悪阻の症状が悪化して意識障害などを伴うウェルニッケ脳症にいたらないよう、ビタミンB1の補給も行います。

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精神療法

入院して休養し精神を安定させることで症状が和らぐ場合もあります。妊娠悪阻は、妊婦の抑うつや不安が原因で発症することもあると考えられているためです。家庭内の問題など、周囲の環境が原因で心理的ストレスを感じている場合には、入院して日常生活から離れて安静に過ごすだけで効果がみられる場合もあるでしょう。

薬物療法

食事指導、輸液療法、精神療法でも症状が改善しない、あるいは悪化する場合には、「メトクロプロミド」という制吐薬(せいとやく)や「ピリドキシン」と呼ばれる薬を使用して治療を行うことになります。妊娠悪阻が起こる妊娠5週~16週は胎児の器官が形成される時期です。胎児に悪影響を与えないために、使用する薬剤の量を必要最小限に抑えるよう医師が調整します。

つわりがひどくなったと感じたらしっかり治療を

あまりにも妊娠悪阻の症状が重く水分もとれないような状態が続くと、脱水症状をおこしたりウェルニッケ脳症に陥ったりすることがあります。ごくまれにではありますが、どの治療を行っても効果がみられず症状が悪化してしまう場合に、母体を守るためにやむを得ず人工妊娠中絶をすすめられるケースもあるようです。

ただし近年では、しっかり病院で治療・管理していればこうした選択をとることはめったにありません。つわりがひどくなったと感じたらできるだけ早く病院を受診しましょう。

妊娠悪阻の入院期間・費用は?

つわりがひどくなり妊娠悪阻で入院することになった場合、入院期間・費用はどのくらいなのでしょうか。

入院期間

入院期間は症状の程度や回復の度合いによって大きく変わります。1週間弱で退院した人もいれば、1~2ヶ月ずっと病院で点滴を打ち続けたという人もいます。一度退院したものの再び症状がひどくなり、入退院を繰り返すというパターンもあるようです。

入院費用

入院費用は入院期間や治療内容などあらゆる要素に左右されます。費用には診察代や点滴代、ベッド代、食事代が含まれ、点滴や食事の回数、部屋の種類(個室か大部屋か)によって変わってきます。3~4万円以内で収まるケースもあれば、数十万円かかったというケースもみられるため、治療を受ける病院に確認して大体の費用を把握しておくと良いでしょう。

妊娠悪阻で保険は適用される?

健康保険の適用対象

妊娠悪阻は病気なので、病院で治療を受ける場合には健康保険が適用されます。そのため入院・治療費の負担は3割です。

民間の医療保険の対象の場合も

民間の医療保険でも、妊娠悪阻による入院を給付対象としている場合があります。加入している保険があればプランを確認してみましょう。

高額療養費制度の対象となることも

治療費が高額になった場合には、「高額療養費制度」の対象となる可能性があります。

高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った額が1ヶ月間の上限額を超えた場合に超えた金額を支給する制度で、基礎となる上限額は年齢や所得に応じて異なります。対象は保険適用の場合に患者で自己負担した金額で、食事代など一部の費用は対象になりません。

高額療養費の支給を希望するときは、ご加入の公的医療機関に支給申請書を提出または郵送して申請します。医療保険によっては支給申請をすすめたり、自動的に支給される仕組みをとったりしている場合もあるようです。

妊娠悪阻がひどいとき仕事はどうする?

診断書をもらって休職

妊娠悪阻は病気なので、医師に診断書を書いてもらうことができます。治るまでは入院治療や自宅療養が続くため、勤務先に診断書を提出し、休職することになるでしょう。無理に出勤する必要はありません。

ただ、つわりか妊娠悪阻か曖昧で、妊娠悪阻とまでは言えないと判断されると、診断書を作成してもらえない場合もあります。その場合には病院を変える、医師に相談して他の症状で診断書を書いてもらうといった対処法が考えられます。医師によっては通常のつわりの症状でも自宅療養が必要である旨記載してもらえる可能性があるため、症状がつらい場合は相談すると良いでしょう。

仕事中のつわりで休める?休む期間や診断書の有無について

傷病手当金を申請する

休職期間中は、原則的に給料が支払われません。しかし病気やけがで休職した場合には、「傷病手当金」の支給を申請しましょう。以下の条件を満たし申請が認められると、休職期間中の給料のおよそ3分の2を受け取ることができます。

1.業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
2.仕事に就くことができないこと
3.連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
4.休業した期間について給与の支払いがないこと

つわりがつらいときは無理せず病院へ

妊婦の50~80%が経験する「つわり」ですが、1日中続くときやあまりにも症状がつらいときには「妊娠悪阻」かもしれません。

つわりは多くの人が経験することなのだから、と無理に我慢していると、ごくまれにですが、症状がどんどん悪化して脱水・飢餓状態に陥り、深刻なケースにまで発展する場合もあるかもしれません。赤ちゃんとママである自分の身体を守るため、つらい症状があるときはひとりで抱え込まず、我慢しすぎず病院で診てもらいましょう。

妊娠悪阻と診断された場合には入院治療が基本となります。しっかり休んで身体を回復させましょう。保険の給付金や高度療養費制度、休職中の傷病手当金は忘れず申請してくださいね。

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