【産婦人科医監修】羊水混濁の原因と胎児への影響は?新生児に感染症の後遺症が残る?
いよいよ出産が近づくと、気をつけたいのが「羊水混濁」です。本来は出生後に出るはずの赤ちゃんの便が子宮内で排泄され、羊水が濁ってしまうものです。ここでは、羊水混濁の原因や胎児への影響、予防法について解説します。
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目次
羊水混濁(ようすいこんだく)とは?
羊水と胎便が混ざる
羊水混濁(ようすいこんだく)とは、羊水に胎児の便(胎便)が混ざることです。通常、胎児は子宮の中で胎便を出すことはなく、出生後に初めて排泄します。しかし、何らかの原因で胎便を出してしまうと、羊水混濁を発症します。
羊水の色によって分類される
本来、羊水は無色透明か乳白色ですが、羊水混濁になると、黒みがかった緑色の胎便と混ざることで濁って見えます。
羊水の色は、胎便が混ざる程度によって黄色~濃い緑色に変わるのですが、その色で羊水混濁のレベルが分類されます。黄色や薄緑色は程度が軽いのですが、色が濃くなるにつれて粘性も増してドロドロになり、胎児に与える影響も大きくなっていきます。
羊水過少症と合併しやすい
羊水のトラブルとしては、羊水の量が異常に少なくなる「羊水過少症」というものもあるのですが、羊水過少症は羊水混濁を合併しやすいといわれています。羊水の量が少ないと、胎便の濃度が高くなるため、重症化することもあります。
羊水混濁の原因は?
本来ならば、胎児は子宮の中で胎便を出しません。しかし、十分に成熟した胎児が低酸素状態になると、反射的に胎児の腸が活発に働きだして胎便を出してしまいます。
羊水混濁の原因である低酸素状態が起こるのは、胎児に酸素を供給する胎盤のトラブルが理由として考えられます。過産期で胎盤の機能が低下している場合や、胎児が子宮内にいるのにもかかわらず胎盤が剥がれてしまう「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」を発症しているケースがあります。
また、分娩時にへその緒である臍帯(さいたい)が赤ちゃんの首に巻きついたり、臍帯がつぶれたりして、酸素の供給が止まった場合も低酸素状態に陥ります。
羊水混濁はいつ起こる?
羊水混濁は、胎児が十分に成長し、排便反射が確立されてから起こることが多いといわれています。そのため、妊娠38週以前に発症することはほとんどなく、通常は正期産児、過期産児にみられます。妊娠42週以降の発症率は約30%に達します。
羊水の色はエコー検査などで確認するのが難しく、破水して初めて羊水混濁が起こっていたことがわかる場合が多いです。
羊水混濁の赤ちゃんへの影響は?
胎便吸引症候群
羊水混濁は低酸素状態をきっかけに発症することが多いのですが、低酸素状態では、胎児は呼吸が苦しくなり、あえぐように口呼吸をするようになります。そのため、お腹の中にいるときや分娩中に胎便が混ざった羊水を吸い込みやすく、「胎便吸引症候群(MAS)」を引き起こすリスクが高まります。
胎便吸引症候群の胎児は、出生後、胎便が気道や気管支に詰まって呼吸困難に陥ることで「新生児仮死」になります。また、肺の機能が低下することで、息を吸うときに胸がへこむといった障害(陥没呼吸)や肺感染症があらわれます。
一方、胎便が身体に付着することで皮膚が黄色く着色するほか、酸素不足で爪や唇が青紫色になる「チアノーゼ」がみられる場合もあります。
胎便吸引症候群は、重症化すると、肺の血圧が出生後も下がらない「新生児遷延性肺高血圧症(しんせいじせんえんせいはいこうけつあつしょう)」を合併し、新生児の予後にも大きな影響を与えます。
新生児敗血症
羊水混濁の状態で破水してから出産にいたるまで長時間かかると、母体がB 群溶血性レンサ球菌といった細菌による感染症にかかるリスクが高まります。新生児は免疫システムが未発達なため、子宮内で感染しやすく、細菌による全身症状があらわれる「新生児敗血症」を発症する可能性があります。
新生児敗血症は、脳の中枢神経系に炎症を起こす「細菌性髄膜炎(さいきんせいずいまくえん)」を合併する頻度が高く、予後は良くありません。細菌性髄膜炎を発症した新生児の致死率は約30%で、生存した新生児も脳性まひや難聴が後遺症として残ります。髄膜炎が完治したように見えても、後々、発達障害が発覚する場合もあるようです。
また、非常にまれではありますが、子宮内感染によってママが「母体敗血症」を発症するリスクもあります。
羊水混濁の治療法は?
羊水混濁は一般的に破水してからでないと確認できません。そのため、特に出産予定日を過ぎてからは、胎児心拍数の異常や羊水過少など、胎児機能不全の兆候がないか定期的に確認する必要があります。もしも胎児機能不全によって低酸素状態になっていることが疑われれば、陣痛促進剤を使ってお産を促したり、帝王切開を行なったりする場合があります。
陣痛が来る前に破水して羊水混濁が認められた場合も、出産まで時間がかかればかかるほど胎児への影響が大きくなるため、緊急帝王切開が検討されます。
出産後、新生児に胎便吸引症候群が見られたら、すぐに新生児の口や鼻、のどから胎便を除去します。取り除いた胎便の粘性が高くて量が多ければ、さらに生理食塩水などで気管内を洗浄します。
その後は、肺感染症を防ぐために抗生物質を投与して、保育器で酸素吸入を行なうのが一般的です。症状が軽ければ酸素吸入だけで済み、経過も良好なことが多いようです。
一方、「母乳を飲まない」「無呼吸」といった症状がみられ、新生児敗血症が疑われる場合には、急激に病気が進行するため、ただちに治療を始めます。感染の原因菌の検査結果を待たずに、想定される原因菌をカバーする抗菌薬を投与し始めて、原因菌が判明しだい、有効な抗菌薬に変更する流れです。
羊水混濁を予防するには?
羊水が濁っているかどうかをエコー検査で見分けるのは困難で、ほとんどの場合は破水したときや分娩時に確認できるようです。
しかし、羊水混濁の原因となる胎児の低酸素状態については、胎児の心拍数に異常がないか、常位胎盤早期剥離の疑いがないかといったことを妊婦健診で調べることができます。そのため、妊婦健診をしっかり受けることが、羊水混濁のリスクを減らすために大切です。
また、妊娠期間を通じて、胎児を低酸素状態にさせないようにしましょう。低酸素状態を防ぐには、胎児に酸素が十分供給できるよう、血行を良くする生活を心がけることが重要です。過度のストレスは、血管を収縮させるストレスホルモンが大量に分泌されてしまうため、上手にストレスを発散できると良いですね。タバコも血管収縮による血行不良を起こすため避けましょう。適度に運動をして、栄養バランスの良い食生活を送りながら、赤ちゃんに会えるのを待ちましょう。
出産予定日が近づいてきたら、胎動が減っていないか、破水していないかなど母子の状態に注意を払い、気になることがあれば早めにかかりつけの病院に相談してください。
生活習慣の見直しなど、自分にできることを実践しよう
羊水混濁は全分娩の6~25%の割合で起こるとされ、決して珍しいものではありません。そのため、出産が近づくにつれ、不安が大きくなる妊婦さんは少なくないでしょう。しかし、羊水混濁は分娩時に発症することが多く、その場合、大きな問題になることはほとんどありません。もしも破水時に羊水混濁が見つかった場合も、処置を施すのが早いほど、後遺症が残る可能性は低くなります。
赤ちゃんが酸素不足で苦しくならないように生活習慣を見直す、いち早く異常に気がつけるように妊婦健診をしっかり受け、身体の変化に敏感になる。羊水混濁のリスクを高めないために、こうした自分にできることを意識して実践するようにしてくださいね。
※この記事は2024年4月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。