【産婦人科医監修】羊水過少症とは?羊水が少ない原因・症状・治療法は?対策はある?
お腹の赤ちゃんを守り、成長を促してくれる羊水。前期破水などが原因で正常より量が極端に少なくなると「羊水過少症」と診断され、場合によっては赤ちゃんの命に関わることがあります。ここでは、羊水過少症の原因や症状のほか、赤ちゃんへの影響、治療・分娩の方法、羊水過少症のリスクを下げる対策について解説します。
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目次
羊水過少症とは?
妊娠中、お腹の赤ちゃんにとってなくてはならない羊水。外部からの圧迫や衝撃から赤ちゃんを守るほか、赤ちゃんの肺や筋肉の発達を促す大切な役割があります。
通常、羊水の量は妊娠8週頃から増え始め、妊娠30~35週頃に最大約800mLに達します。その後はしだいに減り、出産のころには200~400mLくらいになるといわれています。
ところが、この羊水の量が何らかのきっかけで正常より少なくなり、自覚症状や他覚症状があらわれることがあり、これを「羊水過少症」といいます。
羊水過少症の原因
羊水は、妊娠初期には羊膜の表面の細胞や母体の血液から作られていますが、妊娠中期以降には胎児が羊水を飲み込んで尿として排泄する胎児尿が主成分になります。通常、胎児が吸収・排泄する羊水量はバランスが保たれていて、羊水が過剰に少なくなることはありません。しかし、何らかの原因で羊水の主成分である胎児尿の生成が減るか、羊水の流出量が多くなると、羊水過少症が引き起こされます。
胎児尿の生成が減る
胎児の尿が減る原因として考えられるのは、胎盤機能不全になって胎児の腎臓への血液量が減ることです。胎盤機能不全は、「妊娠高血圧症候群」「膠原病(こうげんびょう)」「血栓症」といった母体側の疾患によって引き起こされます。また、喫煙や飲酒によって招かれることもある「胎児機能不全」や高齢妊娠も胎盤機能不全の原因です。
一方、非ステロイド系の消炎鎮痛薬を飲むと、胎児尿の生成に影響を与えることがわかっています。
胎児側の原因としては、腎臓が形成されない「腎無形成(ポッター症候群)」や、腎臓にぶどうの房のような嚢胞(のうほう)ができる「多嚢胞性異形成腎(たのうほうせいいけいせいじん)」といった先天異常が考えられます。
双子で胎盤を共有している「一絨毛膜二羊膜双胎(いちじゅうもうまくにようまくそうたい)」の場合も羊水過少症を引き起こすことがあります。胎児のあいだを行き来する血液のバランスが崩れる「双胎間輸血症候群(TTTS)」を発症し、受け取る血液量が少ない方の胎児(供血児)の尿が減る可能性があるからです。
羊水が流出する
羊水の流出量が増える原因の多くは「前期破水」です。前期破水とは、本陣痛が始まる前に胎児を包んでいる卵膜が破れて羊水が流れ出してしまうことです。羊水過少症の約半数は、前期破水によるものだといわれています。前期破水の多くは臨月に起こるため、羊水過少症もそのころに発症するケースが目立つようです。
羊水過少症の初期症状
羊水過少症は、自覚症状がない場合が多いのですが、妊婦さんによっては、妊娠週数のわりにお腹が小さい、体重が増えないといった症状がでるようです。
胎動については、強く感じられるという人もいれば、弱くなったように感じられる人もいるようです。
また、前期破水が原因の羊水過少症の場合、尿もれのような症状や、ザーッと流れるように水がもれることがあります。妊娠中期以降は大きくなった子宮に膀胱が圧迫され、尿もれしやすくなるのですが、前期破水でもれる羊水は、尿のようなアンモニア臭がないのが特徴です。
羊水が少ないと胎児に影響がある?
羊水は胎児を保護したり、成長を促進したりする大切な役割があります。したがって、羊水が少ないと、胎児にさまざまな悪影響をもたらします。
羊水が少なくなることで、へその緒である臍帯(さいたい)が圧迫されて血行障害が起こり、胎児に栄養や酸素が十分に供給されなくなります。その結果、胎児が低酸素状態に陥る「胎児機能不全」となり、最悪の場合、胎児死亡になります。死亡にいたらなくても、脳性まひのような重い後遺症が残る可能性があります。
また、羊水が少ないと肺が正常に発育しない「肺低形成」のリスクがあるほか、子宮壁に圧迫されやすくなり手足が変形してしまったり、関節に障害が残ったりします。特に、肺低形成は胎児の予後を直接左右する重大な疾患です。
さらに、羊水が少ないために胎児と羊膜がくっついてしまう「羊膜癒着」になりやすく、外観で奇形がわかる「外表奇形」が起こりかねません。
羊水過少症の診断法
羊水過少症かどうか診断するためには、経腹超音波(エコー)検査で「羊水インデックス(AFI)」か「羊水ポケット」を測って羊水量を推定します。
AFIは、子宮内を4分割してそれぞれの羊水の深さを合計した数値で、羊水ポケットは、羊水腔が最も広くなる断面で、胎児とへその緒を含まずに描く最大の円の直径を指します。
AFIが5cm未満、あるいは羊水ポケットが2cm未満の場合に羊水過少症と診断されます。
羊水過少症は胎児発育不全や胎児奇形、染色体異常によって引き起こされることも多いです。羊水過少症と診断されたら、原因を探る検査を積極的に行い、先天異常が認められたら、出生後の治療方針などを決めていきます。
羊水過少症の治療法
羊水過少症は本質的な治療法がなく、妊娠の時期や原因によって適切に対応することになります。
妊娠初期に羊水過少症が見つかった場合には、先天異常を伴っている可能性が高く、予後が不良です。しかし、状態によってはお腹の中の赤ちゃんに手術を施して救えるケースもあるといいます。
妊娠中期以降の羊水過少症は前期破水が原因のことが多いのですが、前期破水かどうかで処置が変わります。
前期破水が原因の場合
前期破水が起こった場合は基本的に入院管理となります。
妊娠34週未満ならば、抗生剤を投与するなどして子宮内感染を防ぎ、胎児が十分に成長するまで妊娠期間を延ばすように努めます。場合によっては、破水によって不足した羊水を補うため、人工羊水を注入するケースもあるようです。
妊娠34~36週の前期破水では、胎児の肺の成長を見て、外の世界で呼吸できる状態だと判断されたら分娩の処置をします。
妊娠37週以降ならば、陣痛促進剤で分娩を誘発するか、緊急帝王切開を行います。
前期破水が原因でない場合
前期破水が起こっていなければ、正期産の時期まで安静にしながらできる限りお産を先に延ばし、胎児が成熟するのを待ちます。
胎児の疾患が原因の場合、胎児が仮死状態になる危険もあるため、胎児の健康状態をエコー検査や胎児心拍モニタリングで定期的に観察し、分娩方法や時期を決定します。ただし、腎無形成など胎児の腎臓に異常がある場合は、予後が極めて悪く、お腹の外に出ても生きられない可能性が高いです。医師の説明をしっかりと受け、家族とともに今後の方針を決める必要があります。
妊娠高血圧症候群など母体の疾患に原因がある場合は、その治療を行います。薬の服用の影響が考えられれば、薬を変更することも検討します。
分娩時の管理
軽度の羊水過少症であれば、自然分娩が可能な場合もあるようです。ただし、羊水過少症は微弱陣痛になりやすいため、陣痛促進剤の使用を検討し、場合によっては緊急帝王切開をします。
また、羊水過少症は、赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれる「胎盤早期剥離」や、赤ちゃんが低酸素状態になることで胎便を排泄し、羊水と混ざる「羊水混濁」を合併する確率が高くなります。そういった場合も緊急帝王切開になることが多いようです。
分娩中は、羊水が少ないことで臍帯が圧迫され、胎児機能不全を引き起こしやすいため、人工羊水を注入することもあります。
羊水過少症の対策は?
羊水過少症には確立された予防策がないのが現状ですが、羊水の生成をさまたげる行動を控えることで、リスクを減らせる可能性はあります。
羊水過少症の原因の約半数を占める前期破水を引き起こさない生活を心がけましょう。前期破水の原因の多くは、子宮内の感染症だと考えられています。性行為をする際は避妊具をしっかりと装着して、感染症を予防しましょう。また、喫煙も前期破水のリスクを高めるといわれています。妊娠中の喫煙は避けるのはもちろん、周囲の人に禁煙をお願いするなど、副流煙対策も行ってください。
また、妊娠高血圧症候群を発症するリスクを高めないことも大切です。栄養バランスが整った食事を心がけ、高血圧の原因になる塩分の摂取量を減らします。体重が増えすぎないように適度な運動もしましょう。
お腹の赤ちゃんの生きる力を信じて
羊水過少症は胎児の先天異常が原因の場合も多く、無事に出産するのが困難なケースがあることは否めません。しかし、その一方で、適切な処置を迅速に行なうことで、元気な赤ちゃんが生まれてきたという声もたくさん聞かれます。異常を早めに見つけられるよう、妊婦健診はしっかりと受けましょう。
羊水過少症には根本的な治療法がなく、基本的にママは安静にして過ごすしかありません。どうか、赤ちゃんの生きる力を信じて、出産まで待っていてくださいね。