サル痘とは?妊婦は重症化しやすいって本当?胎児への影響や感染対策のまとめ【産婦人科医監修】
新型コロナウイルス感染症がいまだ収束しない中、2022年5月に入り、新たにサル痘に関するニュースが取り上げられています。世界で急速に拡大し、日本でも感染者が確認されたことで心配になっている妊婦さんも多いのではないでしょうか。サル痘の主な症状や胎児への影響、感染予防対策について現在の見解を産婦人科医監修でご紹介します。
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この記事の監修
目次
サル痘とは?
ウイルスによる感染症
サル痘は、サル痘ウイルス感染により起こる疾患です。1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)ではじめて人への感染が確認されました。1980年に根絶宣言が出された天然痘(てんねんとう)と同じオルソポックスウイルスに属し、発熱と発疹があるなど天然痘と似た病態を示します(※1)。
しかし、致死率や感染のしやすさは天然痘ほど高くありません。現時点では天然痘ワクチンによる感染予防効果や重症化予防効果があるとされ、治療薬に関しても日本国内で臨床研究が進められています(※2)。
世界的な感染が懸念されている
サル痘はこれまで、アフリカ大陸において流行が確認されている感染症でした。しかし2022年5月以降、イギリスをはじめポルトガル、スペイン、ベルギーなど世界各国からアフリカへの渡航歴がない人からの感染例が相次いで報告されています。
この報告を受け世界各国はサーベイランス(※)体制を強化していますが、気付かないうちにすでに感染が拡大している可能性が懸念されています。
現在判明しているだけでも発生国数や症例数が桁違いに増えており、世界保健機関(WHO)は2022年7月23日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。日本では7月25日に感染者が初確認されています。
(※)サーベイランス…感染症などの動向を監視すること
サル痘の症状は?
潜伏期間 | 7日〜14日(最大5日〜21日) |
発症から1日〜5日 | 発熱、頭痛、筋肉痛、リンパ節(首や足の付け根)の腫れ |
発症から3日〜5日後 | 上記の症状の後に、発疹がでる ※前駆症状がない場合もあり |
発症から2週間〜4週間 | 発疹が水疱からかさぶたとなり治癒する |
サル痘の潜伏期間は最大で5~21日、通常は感染してから7~14日で症状があらわれます。発症すると発熱、頭痛、筋肉痛などが1~5日続きます(※2)。首や足の付け根のリンパ節が腫れる症状もみられます。
これらの症状の後にあらわれるのが特徴的な発疹です。発疹ははじめ顔や口腔内に出現し、その後手や足へと広がります。平坦な状態から盛り上がった発疹が、水疱・膿疱・かさぶたとなって2~4週間ほどで自然に治癒するのが一般的です。
5月以降に欧米で確認されている症例では典型的な経過と異なり、発疹が口腔や性器など身体の一部に限られて出現するといった違いがみとめられています。発熱やリンパ節の腫れがないのも特徴です。発熱などがなくても、特徴的な発疹がみられる場合は注意が必要です。
サル痘の感染経路は?
動物からヒトへの感染
サル痘の感染経路のひとつは、ウイルスに感染した動物からヒトへの感染です。サル痘は最初にカニクイザルから発見されたことでこの名が付きましたが、自然宿主はリスやネズミに代表されるげっ歯類などの動物だと考えられています。
ウイルスに感染した動物にかまれたり、血液や体液などに触れたりするとヒトへの感染が起こります。2003年にはガーナからアメリカに輸入されたげっ歯類の動物からペット用のプレーリードッグに感染が広がり、それを介してヒトに感染した事例が報告されています。
ヒトからヒトへの感染
サル痘はヒトからヒトへの感染はまれな事例であると考えられてきました。ところが、5月以降の感染状況により、ヒトからヒトへの感染が想定以上に起こりやすい可能性が取りざたされています(※2、3)。
ヒトからヒトへの感染は、感染した人の発疹や体液・血液への接触感染、感染した人からの飛沫感染と考えられています。感染者が使った寝具やタオルなどのリネン類からの感染も報告があります。
空気感染が起こるのかも気になるところでしょう。動物実験においては、かさぶたをエアロゾル化(※)して空気感染させた実験が報告されていますが、ヒトに対して空気感染が起こった事例は確認されていません。
(※)エアロゾル…気体中に液体ないしは固体の微粒子が広がった状態
サル痘の治療法は?
欧米などでは動物実験において有効性が示されたテコビリマットというカプセル型の飲み薬が承認されていますが、日本国内においては特定臨床研究が行われている段階です。現在国内で承認されているサル痘に有効とされる抗ウイルス薬はなく、治療として行われるのは対症療法となります。
一方で、サル痘の発症を予防する効果があるとして、天然痘ワクチンの使用が8月2日に承認されました。接種対象者は患者との接触リスクが高い医療従事者や検査担当者、保健所の職員が検討されています。
このワクチンはウイルスにさらされてから4日以内に接種すれば感染予防効果があり、14日以内に接種すると重症化予防効果があるというものです。生ワクチンのため妊娠中は接種することができませんが、サル痘ウイルスがまったく未知のものではなく、なんらかの手立てが残されている点については安心材料のひとつといえるでしょう。
妊婦が感染すると重症化しやすい?胎児への影響は?
サル痘ウイルスはコンゴ盆地クレードと西アフリカクレードの2系統に分類され、コンゴ盆地クレードの致死率が10%程度なのに対し、西アフリカクレードの致死率は1%程度です(※1)。現在欧米諸国で確認されているのは西アフリカクレードによるものです(※4)。
一般的に、妊娠中はウイルスなどに感染すると重症化リスクは高まる傾向にあります。サル痘も同様に、妊婦さんや授乳中のママが感染した場合は通常と比べ重症化リスクが高いと考えられています。
WHOによるとサル痘は母子感染も報告されています(※5)。感染の可能性が示されているのは胎盤を通じて感染する胎内感染や、分娩時に感染する産道感染です。母乳を介した感染については明らかにされていません。
サル痘に有効な感染対策は?
マスク着用と手洗い・消毒
家庭内感染や市中感染の対策としてあげられるのは、新型コロナウイルス対策と同じくマスクの着用、アルコールによる手指の消毒、流水と石けんによる手洗いです。かさぶたも感染源となるため、感染者と接触するときはマスクを着用してください。使用した寝具類はビニール袋などに入れて運び洗濯します。
食器類は共有せず、洗剤を使って洗いましょう。可能であれば、洗濯や食器洗いは温水を使用することが推奨されています。トイレやドアノブなど感染者が触れた場所を掃除するときは、使い捨ての手袋を着用し消毒を行いましょう。掃除や洗濯をする際は、十分な換気も行ってください。
流行地での動物や感染者との接触を避ける
現在感染が拡大している地域における症例の多くは男性であり、そのほとんどが男性同士の性的な接触があったことが確認されています。こうしたことをふまえ、感染が直ちに身近な脅威となるリスクは低いといえるでしょう。
ただし、感染経路が特定できていない事例やヒトからヒトへの感染が広がっていくと変異株が出現する可能性があるため、経過は注意深く見守る必要があります。
流行地では動物との触れ合いを避け、ペットを購入する際は信頼のおけるところを選びましょう。サル痘の発疹は水ぼうそうとの見分けが難しいため、感染者はもちろん、疑わしい症状がある人との接触も避けたほうが良いでしょう。
サル痘の情報を確認して正しい対策を
サル痘の世界的な広がりに不安を感じることもあるでしょう。ヒトからヒトへの感染が続くと変異株が出現する可能性がありますが、現時点では国内感染者の感染経路が特定されているため、過度に心配する必要はありません。
厚生労働省や国立感染症研究所の公式サイトでは、サル痘に関する情報が随時更新されています。最新の情報を踏まえ、正しい知識で正しく対策を取っていきましょう。
※この記事は2022年8月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。