無痛分娩のリスクとは?赤ちゃんへの影響はない?麻酔の副作用は?【産婦人科医監修】
無痛分娩(むつうぶんべん)は陣痛を和らげながら出産する方法です。産後の回復が早いなどメリットがあり欧米では一般的になっています。しかし医療体制の問題などから死亡事故につながるケースもあり不安を感じる人もいるでしょう。ここでは無痛分娩の麻酔薬の一般的な副作用や、まれに起こる重大なリスクについて産婦人科医監修で解説します。
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この記事の監修
目次
無痛分娩(むつうぶんべん)とは
痛みを軽減するお産の方法
無痛分娩とは、麻酔薬を注入して陣痛を軽減する出産方法です。お産の痛みが完全になくなるわけではありませんが、通常の陣痛の10分の1程度の痛みで済むといわれています。意識がある状態ですので、分娩時は自分でいきみ、赤ちゃんの誕生の瞬間もしっかりとわかります。また、お産時の体力の消耗が少なくてすむことから、産後の回復が早いといわれています。
高齢出産のリスクも下げる
無痛分娩は、陣痛に強い恐怖感を持つ妊婦さんが希望するケースが一般的ですが、場合によっては医師からすすめられることもあります。
無痛分娩は陣痛中に母体が消費する酸素量が少なくて済むとされており、心臓や肺に持病を持つ妊婦さんの負担を軽くするために選択されることもあります。妊娠高血圧症候群の妊婦さんも、お産の痛みを感じる影響で血圧が上昇する恐れや、赤ちゃんへの血流や酸素量が減る恐れがあるため、無痛分娩が検討される場合が多いようです。
一方、無痛分娩は高齢出産のリスクを下げる点でも有利な分娩方法です。高齢出産では産道の柔軟性が弱くなり、お産が長引きやすいのですが、無痛分娩で痛みを和らげることで産道の緊張がとれて、スムーズにお産を進めることが期待できます。高齢出産の場合、体力を温存しながら分娩でき、産後の回復が早いのも大きなメリットでしょう。
硬膜外麻酔が多い
無痛分娩で行う麻酔には、背骨の脊髄に近い硬膜外腔に注入する「硬膜外麻酔(こうまくがいますい)」と、静脈から麻酔薬を注入する「点滴麻酔」のふたつの方法があります。硬膜外麻酔は点滴麻酔に比べて鎮痛効果が高く、赤ちゃんへの影響もほとんどありません。そのため、海外では硬膜外麻酔が一般的で、日本でも選択されるケースが多いようです。
計画分娩が一般的
無痛分娩は、あらかじめ決めた日に、陣痛誘発剤で人工的に陣痛を起こしてお産を進める計画分娩が一般的です。硬膜外麻酔による無痛分娩の一般的な流れは以下の通りです。
1.分娩予定日の前日に入院し、腰のあたりに硬膜外麻酔のカテーテルを挿入します。子宮口を開く処置を行う場合もあります。
2.出産日当日に点滴で陣痛促進剤を投与し、陣痛が起こり、子宮口が開くのを待ちます。
3.陣痛に耐えられなくなった時点でカテーテルから麻酔の注入を始めて、子宮口が全開大になるまでベッドで安静にします。
4.子宮口が全開大となり、赤ちゃんの頭も下りてきたら分娩台で出産します。麻酔が効いていても、お腹の張りの感覚は残っていますので、いきむことができます。もし、いきむタイミングがわからない場合は、助産師さんが教えてくれるので安心してください。
無痛分娩は本当に痛みがないの?
陣痛は「10ヶ月分の便秘を出したいのに出せない痛み」「腰をドリルでぐりぐりえぐられる痛み」など、さまざまな表現がされていますが、無痛分娩ならばそうした激痛をかなり和らげることができます。お産への恐怖心や陣痛による痛みは、妊婦さんにとって強いストレスになり、場合によっては分娩が長引いて赤ちゃんにも悪影響をおよぼしかねません。無痛分娩はそうしたリスクを減らすメリットが期待できるといえます。
ただし、無痛分娩と言っても完全に痛みがなくなるわけではありませんし、そもそも痛みの感じ方には個人差があります。麻酔薬の濃度やカテーテルの状況などによって麻酔の効き方も変わってくるため、「思ったよりも痛かった」という人も多いようです。なお、いきむタイミングがわからないといった場合に、麻酔薬の濃度を薄くするなどして麻酔が効きすぎないようにすると、痛みの感覚が強くなります。
無痛分娩の麻酔による副作用は?
無痛分娩は海外では一般的ですが、日本ではまだまだ浸透しておらず、安全性について不安に思う方は多いでしょう。もちろん、麻酔医は重い合併症などが生じないよう、細心の注意を払って処置を行ないます。しかしやむを得ず、以下の副作用が起こることも多いです。
血圧低下
背中の神経には血圧を調節する神経が含まれていますが、硬膜外麻酔はその神経にも影響を与え、血圧を下げてしまうことがあります。通常は問題にならない程度ですが、血圧が極度に低下すると、心臓や脳に十分な血液が送り出せなくなり、母体に吐き気や嘔吐の症状が出てしまいます。したがって、硬膜外麻酔を行う際は、血圧のチェックを怠らず、血圧が下がった場合には速やかに点滴で治療します。
排尿障害
硬膜外麻酔の効果があらわれると、尿をしたい感覚を脳に伝えたり、尿を出したりするための神経が麻痺します。そのため、尿を出そうと思っても上手く出せないといった排尿障害が起こり、麻酔が効いているあいだは管を通して採尿することになります。しかし、排尿障害は一時的なものであり、退院時まで症状が続くことは非常にまれです。
かゆみ
硬膜外麻酔に医療用麻薬を組み合わせて使うと、その影響で皮膚にかゆみが生じることが約50%の割合で起こります。かゆみががまんできないほど強い場合は薬を使って治療しますが、ほとんどの場合、治療しないですむ程度のかゆみです。また、麻酔が切れるとかゆみもなくなることが多いようです。
発熱
硬膜外麻酔の影響により、38 ℃以上の発熱を起こす確率が約10%あるといわれています。発熱の原因としては、子宮の収縮に伴って代謝が高まっているのに加え、痛みが和らいでいるため母体の呼吸が速くならず、熱が身体の外に放出されにくいことが考えられます。また、何らかの炎症が起こっている可能性もあります。
無痛分娩のリスクは?重大事故の可能性は?
無痛分娩は麻酔薬による一般的な副作用のほかに、重大な事故につながる恐れのあるリスクがあります。こうしたリスクが生じる背景のひとつには、日本国内では無痛分娩の体制が十分に整っておらず、病院ごとにリスク管理や方針が異なるという点があげられます。
欧米ではすでに無痛分娩の安全性が確立されており、無痛分娩そのものが危険なわけではないという認識が浸透しています。日本でも共通のガイドラインの制定など、安全に無痛分娩を行うための体制づくりが始まっています。
鉗子分娩・吸引分娩
無痛分娩では、麻酔薬の影響で妊婦さんがいきむ力が少し弱まるために、子宮口全開大から出産までの「分娩第2期」が長引く傾向にあると言います。分娩第2期が著しく長くなると、器具を使って赤ちゃんを引っ張り出す「鉗子分娩(かんしぶんべん)」や「吸引分娩」を行う可能性が高まります。
帝王切開については、無痛分娩により緊急帝王切開になる確率が高まることはないという見解が主流です。しかし、各病院の分娩方針によっても異なるため、事前に確認しておきましょう。もしも硬膜外麻酔による無痛分娩の最中に帝王切開が必要となった場合、挿入していたカテーテルを引き続き使用できるため、スムーズに帝王切開に移行することができます。
陣痛促進剤によるトラブル
無痛分娩は陣痛促進剤を使って人工的に陣痛を誘発するケースが多いのですが、この陣痛促進剤によるトラブルが起こらないよう細心の注意が必要です。陣痛促進剤の効果が強く出すぎると、子宮の収縮が強くなりすぎる「過強陣痛」のリスクが高まります。過強陣痛によって、胎児が圧迫されて胎児機能不全になったり、子宮破裂を起こしたりすることがあります。
こうしたリスクを未然に防ぐために、無痛分娩で陣痛促進剤を使う際は、分娩監視装置で陣痛の間隔や胎児の心拍を確認しながら、投与量を慎重に調節します。
神経障害
硬膜外麻酔は、脊髄の近くにある硬膜外腔という場所にカテーテルで麻酔薬を注入し、子宮や腟からの痛みを伝える神経に作用させる方法です。このカテーテルが神経の一部にあたっていると、分娩後に足のしびれなどの神経障害があらわれることがあります。カテーテルの挿入時に刺す針で神経の一部を傷つけてしまった場合、しびれの症状が残ることがありますが、ほとんどが一過性で、2~3ヶ月で治るようです。
背骨が変形していたり、背中の神経に病気があったりすると、神経損傷のリスクが高くなるため、無痛分娩ができない場合があります。
硬膜穿刺後頭痛
硬膜穿刺後頭痛(こうまくせんしごずつう)とは、硬膜外腔にカテーテルを入れるときに硬膜が傷つき、そこから脳脊髄液(のうせきずいえき)が漏れることで起こる頭痛です。約1%の割合で起こるとされ、産後2日までに症状が出ます。
頭痛のほかに首が痛くなったり吐き気がしたりして、特に上体を起こすと症状が強くなり、横になると軽快します。大抵1週間以内に治りますが、症状が重い場合は、妊婦さん自身の血液を硬膜外腔に注入し、血液を固まらせることで傷をふさぐ「硬膜外血液パッチ」という治療を行うことがあります。
局所麻酔薬中毒
硬膜外腔にはたくさんの血管があり、約8%の確率で、カテーテルの先端が血管の中に入ってしまうことがあります。そのまま麻酔薬が血管の中に注入されると、血液中の麻酔薬の濃度が上がる「局所麻酔薬中毒」になり、耳鳴りや舌のしびれといった症状が出る危険性があります。
さらに重症化すると、けいれんが起こったり、呼吸が止まったりして、母体の命に関わります。麻酔医はこの合併症が起こらないよう十分に注意して処置をしますが、万が一発生した場合には、治療薬の投与や人工呼吸を迅速に行います。
脊髄くも膜下腔への麻酔薬の注入
硬膜外腔にカテーテルを入れるときや分娩の経過中に、カテーテルが硬膜外腔の奥にある脊髄くも膜下腔に入ってしまうことがまれにあります。硬膜外腔に注入するはずの麻酔薬が脊髄くも膜下腔に入ると、麻酔の効果が急速にあらわれ、母体は意識をなくしてしまい、処置が遅れると呼吸停止する場合があります。
しかし、妊婦に異変がないか注意深く観察しながら、ゆっくりと麻酔薬を注入すれば、脊髄くも膜下腔への誤注入は防ぐことができます。また、万が一、脊髄くも膜下腔に誤注入してしまったとしても、人工呼吸などの処置を迅速に行なえば、死亡事故や重い後遺症といった最悪の事態を回避することは可能だといわれています。
血腫
数万人に1人と非常にまれですが、カテーテルを入れるときに先端が血管をこすると血の塊や膿(血腫)ができ、神経を圧迫することがあります。血腫が大きいと、下半身麻痺などが後遺症として残るリスクがあるため、できる限り早期に手術をして、血腫を取り除く必要があります。血腫は正常な人にもできることがありますが、特に血液が固まりにくい体質の人はできやすいため、 硬膜外麻酔を行えません。
無痛分娩で赤ちゃんに影響はある?
点滴麻酔による無痛分娩では、麻酔薬が胎盤を通して赤ちゃんの脳に届くため、生まれてきたばかりの赤ちゃんが眠たそうだったり、少し元気がなかったりすることがあります。しかし、これは一時的なもので、薬の影響がなくなれば元気になります。
一方、硬膜外麻酔による無痛分娩では、使用する麻酔薬の量が非常に少ないため、薬が胎盤を通って赤ちゃんに影響を与える心配はほとんどありません。ただし、麻酔薬の量が通常より多くなると、出産直後の赤ちゃんの音や光に対する反応や運動機能が一時的に低くなることがあるようです。
また、硬膜外麻酔が赤ちゃんのその後の成長に影響を与えるかどうか調べた研究があるのですが、学習に関する影響はないという結果が出ています。19歳までの子どもの学習障害を調べた研究によると、硬膜外麻酔を受けたママから生まれた子どもは、受けなかったママから生まれた子どもと比べて、学習障害が多くなることはありませんでした。
納得できるお産の方法を選ぼう
日本では、「お腹を痛めた子」「産みの苦しみ」といった言葉があるように、陣痛に耐えて出産することで、子どもへの愛情が深くなるという考え方が根強く残っています。しかし、無痛分娩で痛みを和らげながら出産したママの多くは、お産の痛みと愛情の深さはまったく関係なかったと実感しているようです。お産の痛みで疲れきってしまうことがない分、すぐに子育てに力を注げるのも大きなメリットですね。
しかし、無痛分娩には多くのメリットとともに、最悪の事態につながるリスクがあるのも事実です。無痛分娩で無事に出産したママもたくさんいますが、リスクもしっかりと考慮に入れたうえで検討しましょう。分娩の流れや緊急時の対応について医師にしっかりと確認したうえで、自分が一番納得できるお産の方法を選んでくださいね。