【産婦人科医監修】和痛分娩とは?無痛との違いやリスク、出産の流れと費用の相場|体験レポあり
和痛分娩は分娩の痛みを和らげるとして関心が高まっている出産方法です。最近は取り扱う扱う産院や体験談レポも増えてきました。硬膜外麻酔や静脈注射など和痛分娩の方法、メリットデメリットやリスク、無痛分娩や普通分娩との違い、出産までの流れ、費用のことなど、気になる情報を先輩ママの和通分娩レポとともにまとめて解説します。
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この記事の監修
目次
和痛分娩とは?
和痛分娩とは、「分娩の痛みを和らげる(やわらげる)」お産のことを指します。痛みを和らげるための方法は医学的な定義が確立されておらず、病院によって手段が異なります。
以前は麻酔薬の筋肉注射や麻酔ガスの吸入が一般的に行われていましたが、現在主流となっているのは、腰付近の背骨にカテーテルを挿入し、「硬膜外腔(こうまくがいくう)」とよばれるスペースに麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔(こうまくがいますい)」です。ほかに麻薬性鎮痛薬を静脈注射で投与する方法や、局所的な神経ブロック注射も行われています。
病院によっては呼吸法やイメージトレーニングなど、薬を使わずに痛みを和らげることを和通分娩としている場合もあります。和痛分娩を希望する場合は、病院の考える和痛分娩と自分の希望する和痛分娩が同じ方法か、あらかじめ確認することが大切です。
和痛分娩のメリット・デメリット
・メリット
自然な陣痛の発来や破水から始まる分娩を普通分娩といいます。普通分娩は初産で11~15時間、経産婦で6~8時間かかります(※1)。このあいだ、痛みをやわらげるための特別な措置は行われません。そのため、痛みに対する不安が強い、体力に自信がない、妊娠高血圧症候群や心臓疾患などの持病があるといった場合は、和痛分娩のメリットが大きくなります。
麻酔を用いた和痛分娩では、痛みを抑えることで心身がリラックスします。すると、筋肉の緊張がゆるみ、いきみが伝わりやすくなるため、分娩時間の短縮や産後の早期回復につながります。
・デメリット
和痛分娩にもデメリットはあります。ひとつは、硬膜外麻酔を使う場合、病院によっては、夜間や休日では対応できないことがある点です。薬による副作用も起こる可能性があるため、リスクを理解しておくことが大切です。
無痛分娩と和痛分娩の違い
無痛分娩とは、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔などにより、痛みを抑える分娩方法です。無痛分娩というと完全に痛みを取り除くというイメージがありますが、実際には耐えられる程度まで痛みを和らげることを指す場合が少なくありません。
そのため、無痛分娩と和痛分娩が同じ意味で使われることも多く、このような場合は双方の違いはなくなります。
一方、無痛分娩は硬膜外麻酔、和痛分娩は静脈注射や陰部神経ブロック注射と手段を明確に区別している場合、使用する薬剤による副作用や分娩の流れに違いが出てきます。静脈注射で使われる鎮痛剤は全身に作用するため、硬膜外麻酔と比べて眠くなりやすく、意識がはっきりしないことがあります。また、痛みが十分に抑えられないと感じられる人もいます。
陰部神経ブロックは陰部の神経に局所的に麻酔をかけるため、腟や肛門の痛みは抑えられますが、子宮収縮の痛みを取ることはできません。痛みが抑えられる時間と部位は限定的です。その分、自然に近い子宮収縮が得られるため、無痛分娩と比べ赤ちゃんを押し出す力が維持できます。
和痛分娩のリスクは?
薬の副作用
硬膜外麻酔の方法は、和痛分娩でも無痛分娩でも変わりません。そのため、副作用の内容も同じです。よく起こる副作用には低血圧、足のしびれ、かゆみ、膀胱麻痺といった症状があります。まれに強い頭痛や下半身の筋力低下がみられ、けいれんや呼吸困難のような重篤な合併症も報告されています。
お産の経過
分娩の進行においては、分娩時間が長くなる傾向がみられます。吸引分娩や、金属製の器具を胎児の頭にかけて引き出す鉗子分娩となるケースも増加します。
硬膜外麻酔が原因で帝王切開にいたる確率は鎮痛薬を投与した場合と比較して高くなるという意見もあれば、変わらないという説もあります。こうしたさまざまなリスクに対応するため、医療の現場では硬膜外麻酔を安全に行うための体制や指針作りが進められています。
赤ちゃんへの影響
麻酔が赤ちゃんに影響しないかも気になるところです。硬膜外麻酔では麻酔薬の一部がママから赤ちゃんに移行します。しかし、一般的な使用量であれば赤ちゃんの身体や意識状態、刺激への反応は正常であると報告されています。
痛み止めの方法として鎮痛薬を用いた場合は、眠気、むかつき、嘔吐、呼吸抑制が副作用にあげられます。呼吸抑制は赤ちゃんにもみられ、最初の呼吸に遅れが生じることがあります。また、赤ちゃんに眠気の副作用が出ると、薬が効いているあいだは哺乳がしづらくなります。
和痛分娩の費用の相場は?保険の適応内?
和痛分娩は異常分娩ではないため、健康保険の対象となりません。自然分娩と同じく自費での出産となります。通常は普通分娩の費用とは別に、和痛分娩の費用として技術費と薬剤代が加算されます。
和痛分娩にかかる費用は10万円前後が相場ですが、病院によって大きなばらつきがあり、数万円程度で済むこともあれば、20万円ほどの費用がかかることもあります。夜間や休日の対応でも料金が変動するため、あらかじめ値段を確認しておきましょう。
和痛分娩費用は10万円ほどでした。年末年始の休日料金と個室利用料金など諸費用が加算されて、助成金を差し引いて約60万円の支払いとなりました(特に豪華な設備ではない普通の総合病院での出産です)。病院の出産費用自体が上の子のときより値上がりしていたので、思ったよりも金額が高くて会計時に驚いたのを覚えています。
和痛分娩の流れ
硬膜外麻酔の流れ
硬膜外麻酔による和痛分娩は計画分娩で行われる場合と、自然な陣痛が始まってから麻酔を開始する場合があります。計画分娩では正期産になったタイミングで赤ちゃんの発育状況や骨盤内への下がり具合、子宮頸管熟化の様子などから分娩日を決定します。
入院初日に行う処置は病院によって異なりますが、子宮口をやわらかくしたりカテーテルを挿入したりという準備が進められます。カテーテル挿入時に痛みが出ないよう、あらかじめ皮膚に痛み止めの麻酔をします。入院翌日は必要に応じて陣痛促進剤を点滴し、子宮口が2~5cmまで開いたら硬膜外麻酔を開始します。
麻酔薬を注入すると15~30分ほどで効果があらわれます。麻酔の効果を確認できたら、PCAポンプを使い痛みをコントロールしながら子宮口全開となるのを待ちます。子宮口が全開したら、お腹の張りに合わせいきみ出産となります。自然な陣痛を待って入院する場合も、子宮口開大以降は同じ流れでお産が進行します。
PCAポンプは薬剤を自分で投与できる装置で、痛みが増したときにボタンを押すと、規定量が投与されます。お産の進行は心電図や血圧計、赤ちゃんの心音モニターによるチェックに加え、定期的に医師が麻酔の効き目や足の動きなどを確認します。
なお、麻酔中は食事ができません。トイレにも行けないため、数時間おきに導尿します。
そのほかの和痛分娩の流れ
静脈注射や陰部神経ブロック注射などを行う場合は、陣痛が自然に始まってから鎮痛剤を投与します。
静脈注射では、点滴ルートを確保したら硬膜外麻酔同様、PCAポンプを使って痛みをコントロールします。赤ちゃんの呼吸低下を防ぐため、子宮口が全開となったら鎮痛剤の投与は中止します。
陰部神経ブロックでは子宮口が全開になるタイミングに合わせ麻酔を開始します。薬剤の投与後4~5分後に効果があらわれ、90~120分ほど痛みが抑えられます。
【和通分娩レポ】実際どう?先輩ママの体験談
和痛分娩を決めた理由
一人目は普通分娩、二人目は和痛分娩をしました。出産の痛み自体にそこまで恐怖はありませんでしたが、産後は里帰りしない予定だったので、体力を温存したかったのが和痛分娩にした一番の理由です。無痛分娩・和痛分娩をした友人たちが「産後の身体の回復が早い」と言っていたことが決め手となりました。
最初はより痛みの少ない無痛分娩を検討していたのですが、通っていた病院では和痛分娩しか行っていなかったため、和痛分娩となりました。
夫は「産後の回復が早くなるなら良いのでは」と、和痛分娩を反対することはありませんでした。自分の親世代は無痛分娩・和痛分娩と聞くと心配する人が少なくないので、親には和痛分娩にすることは言いませんでした。分娩方法について親にあれこれ言われたり説明したりが面倒な場合は、あえて言わないというのもひとつの方法だと思います。
痛かった?出産の体験談
あらかじめ分娩日を予約し、予定日一週間前に計画出産で和痛分娩をしました。当日は、硬膜外麻酔のチューブを取り付ける→陣痛誘発剤→ある程度子宮口が開くまで待つ→麻酔投与開始→出産という流れでした。
硬膜外麻酔のチューブ取り付けは、背中に麻酔の注射を打ってから行うのでほぼ痛みはありませんでした。背中に細いチューブが入っていく感触が少し気持ち悪かったのを覚えています。
陣痛誘発剤で強制的に起こす陣痛はかなりの痛みを伴い、痛いわりには子宮口がなかなか開かなかったのがつらかったです。陣痛が弱まらないようにある程度子宮口が開くまでは麻酔を投与してもらえず、普通分娩と同様にひたすら陣痛室で陣痛に耐えました。立ち会い出産で夫に付き添ってもらったので心強かったです。
陣痛に耐える→内診→陣痛に耐える→内診を繰り返すこと約3時間。激痛で会話をするのもつらくなり、医師にお願いして麻酔を入れてもらうことにしました。このとき子宮口はまだ4cm。上の子のときの普通分娩では、子宮口4cmの陣痛はここまで痛くありませんでした。陣痛誘発剤で起こす陣痛は痛いのですね…。
麻酔が効き始めてからは徐々に痛みが引き、落ち着いて耐えることができるくらいになりました。痛みに余裕が出てきたので陣痛誘発剤を強めてもらい、その後は子宮口が順調に開いて分娩台へ。
分娩台に上がってから出産までは30分ほどでした(分娩中に時刻を確認する余裕がありました)。痛みはそれなりにありましたが、我慢できる程度だったので、分娩台では冷静に助産師の指示を聞きながら出産することができて良かったです。
普通分娩で出産したときはあまりの痛みに意識が朦朧としていたので、陣痛終盤から分娩までのことはあまり記憶がありません…。今回の和痛分娩では、分娩台で赤ちゃんを出産する瞬間のことをしっかりと見届けることができました。
今回の和痛分娩は陣痛誘発剤開始から出産まで10時間かかり、経産婦のわりには時間がかかってしまいました。無痛分娩ではないので、陣痛の痛みはありましたが、それでも体感的には普通分娩の半分以下の痛みだったと思います。
今回二人目を和痛分娩で出産し、とても満足できる良いお産になりました。今後もし三人目を出産することがあったら、迷わず和痛分娩を選択すると思います。産後の身体の回復が普通分娩のときより早く、里帰りなしでゆっくり休めない身としてはとても助かりました。
和痛分娩を正しく理解して分娩方法を決めよう
日本では和痛分娩や無痛分娩の歴史が浅く、「痛みを感じないと赤ちゃんへの愛情が育たない」「死亡リスクが高くなる」といった誤解も残っています。しかし、厚生労働省や日本産科麻酔学会が行った研究では、普通分娩と比比較しても無痛分娩や和痛分娩のリスクが極めて高いという報告はありません。
和痛分娩、無痛分娩、普通分娩それぞれの良さとリスクを理解したうえで分娩方法を決めていきましょう。
ただし、血液凝固異常や脊柱の変形、逆子、多胎など、妊娠の経過によっては希望する方法が選択できないこともあります。病院の体制や陣痛が始まるタイミングによって希望がかなわないこともあるかもしれません。「普通分娩になるかもしれない」という気持ちのゆとりをもっておくことが大切です。
※この記事は2024年3月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。