胎盤(たいばん)とは?位置や重さは?完成はいつ?食べる風習があるという噂も【産婦人科医監修】

胎盤は妊娠とともに形成される組織で、ママの栄養や酸素を赤ちゃんに届ける大切な役割を果たしています。胎盤機能が低下すると赤ちゃんの発育や出産の進行に影響するため、定期健診で位置や大きさをしっかりと把握することが重要です。胎盤の構造や機能をもとに、気にかけるべき生活のポイントや注意したい異常・トラブルについて解説します。

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この記事の監修

池田 貴子
産婦人科医
池田 貴子

目次

  1. 胎盤とは?役割は?
  2. 胎盤の位置や構造は?
  3. 胎盤はいつ完成する?重さはどれくらい?
  4. 胎盤剥離や癒着、胎盤の異常・トラブルとは?
  5. 胎盤を食べる人がいるという噂は本当?
  6. 健康な胎盤で赤ちゃんに元気を届けよう
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胎盤とは?役割は?

胎盤は、大きくわけて内分泌器官、消化器、呼吸器、排泄器としての機能を担っています。胎盤は、胎児の生命の維持装置と言っても過言ではないほど、とても大切な組織なのです。

妊娠を維持するホルモンを分泌する

人間の身体は脳下垂体や甲状腺などにホルモンを分泌する内分泌腺が存在しますが、胎盤も妊娠を維持するためのホルモンを分泌し、内分泌器官としての役割を担っています。胎盤が分泌するホルモンには、妊娠の維持に欠かせないヒト絨毛性ゴナドトロピン、胎児への栄養供給に影響するヒト胎盤性ラクトゲンがあります。

ヒト絨毛性ゴナドトロピンは妊娠初期に黄体を維持し、生理が始まらないように作用して受精卵が子宮内にとどまるのを助けます。男児の性分化なども担っています。ヒト胎盤性ラクトゲンは、母体の脂質を分解してエネルギー源にするエネルギー代謝を成立させたり、母体の抗インスリン作用を発揮してタンパク合成を促進したりして胎児への安定した栄養供給を助けています。

また、もともと卵巣でつくられている女性ホルモンのエストロゲン、プロゲステロンも胎盤が完成すると分泌場所が胎盤へと移動します。エストロゲンとプロゲステロンは子宮環境を整えたり乳汁の分泌に向けた準備をしたりと妊娠・出産のプロセスに大きく関わる重要なホルモンです。

栄養や代謝物質を運ぶ

胎盤には絨毛(じゅうもう)という細かな突起がたくさんあります。絨毛は胎盤の中を流れる母親の血液から血中の栄養素を取り込んで、胎児へと供給しているのです。ママから胎児へは、エネルギー源となる脂質や糖、アミノ酸などの栄養が運ばれています。

胎盤を通じて胎児に伝わるのは栄養だけではありません。薬の成分や母親の免疫機能によって産生された抗体にも、通過性を持っているものが存在します。抗体は外部から侵入する細菌やウイルスに抵抗するために必要ですが、薬は赤ちゃんの身体の形成に影響することがあります。妊娠初期は重要な器官が作られる時期のため、アルコールや薬の摂取は避けたいですね。

酸素と二酸化炭素を交換する(ガス交換)

羊水の中にいる胎児は、肺呼吸ができません。どのように酸素を得ているかというと、絨毛間腔に伸びる絨毛を介して呼吸をしているのです。絨毛は母体の血の中に溶け込んだ酸素と、胎児が排出した二酸化炭素を交換する肺の役割を果たしているのですね。

以前は母体の血液が、胎児の身体の中をめぐっていると考えられていました。しかし、現在では母体と胎児の血液が交わることはないことがわかっています。胎児に由来する組織の中では、絨毛が母親の血液に触れる唯一の器官と言えます。

胎児の排泄物を運ぶ

胎盤は胎児から排出された老廃物を運ぶ、排泄器の役割も果たします。排泄物というと便がイメージされますが、胎児は基本的に排便をしません。それでは胎児の排泄物はなにかというと、胎児が呼吸の練習のために飲み込んだ羊水からの老廃物となります。

羊水は常に澄んでいる状態ではなく、剥がれた皮膚や抜けた髪の毛が混ざり汚れていきます。大きなカスは胎便として腸にためておきますが、羊水の中に溶け込んでいた小さな汚れは老廃物として排出されるのです。胎盤は腎臓の役割を果たしながら羊水をきれいにしているのです。

胎盤の位置や構造は?

正常な胎盤は子宮の上側にある

胎盤は受精卵が着床した場所に形成されます。通常は子宮の上側にしっかりと付着しています。妊娠38週以降では子宮口から5cm以上離れた場所にあれば正常な状態です。胎盤からは臍帯(さいたい)、いわゆるへその緒が伸びていて、臍帯の先は胎児のへそにつながっています。

妊娠中期となり、胎盤が付着している場所が子宮口に近かったり子宮口を覆っていたりすると、前置胎盤と診断され慎重な管理が求められます。ただし妊娠初期に前置胎盤と診断された場合、妊娠後期になるにつれ前置胎盤でなくなるケースも見られます。

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母体の血液と絨毛からなる構造

胎盤は母体側の子宮内膜が肥大化した「基底脱落膜(きていだつらくまく)」と、胎児側の「絨毛幕板(じゅうもうまくばん)」のあいだに広がった空間内で栄養のやり取りをしています。この空間を「絨毛間腔(じゅうもうかんこう)」と言います。胎盤はこれらの組織が結合して構成されていて、ホットケーキのような円盤状をしています。

絨毛間腔は、子宮から伸びる動脈から流れこんだ母親の血液で満たされ、血液のプールのようになっています。この血液のプールに向かって絨毛が伸び、酸素や栄養素のやり取りをしているのです。以前はママの血液が胎児に流れ込んでいると考えられていましたが、胎児とママの血液が交わることはありません。

胎児側の絨毛膜板は羊膜と接しています。羊膜は胎児に一番近い膜で、中は羊水に満たされている部分です。羊膜の外側には、胎盤から続く「絨毛膜無毛部」と「脱落膜」が薄く伸びて層を形成しています。

分娩の際は、赤ちゃん娩出後に後陣痛が起こり羊膜・絨毛膜・脱落膜が胎盤と一緒に子宮から剥がれます。この3つの膜が「卵膜」で、妊娠中は胎児を外の世界から隔離して守っているのです。

胎盤はいつ完成する?重さはどれくらい?

完成は妊娠4ヶ月頃

胎盤は妊娠7週頃から形成されはじめます。妊娠4ヶ月頃となる妊娠15週には完成して胎盤として十分に機能し始めます。エコー検査でも胎盤の位置や状態をはっきりと確認できるようになり、胎児との絆がますます感じられる時期です。一方で、出血や胎盤剥離、前置胎盤などの異常がみつかることもあります。

胎盤が完成するころになると、つわりがようやく治まってきます。つわりが起こる理由は完全には解明されていませんが、一説には胎盤が完成するまでのあいだ、母体が無理をして動き回らないようにするための危機回避策としてつわりが起こるのではないかと言われているのですよ。

妊娠後期には約500gの重さに

15週頃に完成した胎盤は、妊娠期間を通じて大きく成長します。妊娠後期には胎児の体重の約6分の1の重さになり、胎児に必要な栄養や酸素を届けています。最終的には500~600gほどの重さで厚さは2.5cm、直径が15~20cmまで大きくなるのです。

妊娠高血圧症候群にかかっていると、胎盤が十分に育たないことがあり、胎児に必要な栄養が届けられず胎児の発育が遅れる可能性があります。一方で感染症などが原因で胎盤が55mm以上に厚くなりすぎるのも懸念される点です。肥厚している胎盤は早期剥離を引き起こしやすいため、妊娠中は感染症にかからないよう健康管理に努めたいですね。

胎盤は出産を終えておよそ5分後に剥離がはじまります。その後、20~30分かけて体外に排出され、胎盤計測が行われます。出産後に希望すれば、胎盤を見せてくれる病院もあるようです。

胎盤剥離や癒着、胎盤の異常・トラブルとは?

全分娩数に対する発生頻度は低いものの、胎盤はしばしば常位胎盤早期剥離や前置胎盤といった異常やトラブルに見舞われます。また以前の妊娠で異常があったり、帝王切開だったりすると癒着や剥離が起こりやすい傾向がみられます。胎児の発育が悪い場合は、胎盤の機能不全が関係しているかもしれません。

癒着胎盤は前置胎盤と合併していることが多く、分娩の際の出血が多くなる可能性があります。癒着胎盤や前置胎盤は自覚症状に乏しいのが特徴ですが、ときに性器出血がみられます。

性器出血は胎盤剥離でも見られる症状です。胎盤剥離があると、腹部に激しい痛みが起こります。胎盤の機能低下がみられ、胎児への酸素や栄養供給が悪化するため、異常を感じたら早急に医療機関を受診しましょう。

胎盤を食べる人がいるという噂は本当?

産後の胎盤食は、一部の地域や助産師さんの介助で出産した人の体験談でもみられ、芸能人のブログや漫画の中でも取り上げられていることから、一定の認知があるようです。しかし、胎盤食についての効果や実施数が記された公のデータや記録は見受けられず、正確なところはわかっていません。

胎盤は英語で「placenta(プラセンタ)」と言い、アミノ酸やビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。動物の胎盤由来成分は化粧品の原料としても使用されているほどで、美容や健康に対する効果に注目が集まっています。

ヤギやウサギ、猿といった人間以外の哺乳動物では、出産後に胎盤を食べる行為が行われていることもあって、胎盤食は産後の体力回復に一役買うという話につながっているのかもしれませんね。しかし、人間社会では胎盤は医療廃棄物に分類され、胎盤を食べなくても食事や医療で体力の回復が可能なため、胎盤を食べる行為は一般的ではないと言えそうです。

健康な胎盤で赤ちゃんに元気を届けよう

胎盤は妊娠を機に作られる臓器で、もともとママの身体の中にあるわけではありません。どうやって胎盤の健康を保てば良いのか、意識することは難しい気がしますよね。しかし、方法は単純です。食生活や生活リズムに気を配り、太りすぎや過度のストレスに注意することが、健全な胎盤の形成へとつながっていくのです。

胎盤は血流が低下したり、出産予定日を大幅に超過したりすると機能が低下するといわれています。また、妊娠高血圧症候群やトキソプラズマ・風疹・梅毒への感染が胎盤の形成不全につながることもわかっています。

赤ちゃんの健やかな成長を助けるためにも、日常的に規則正しい生活を送れるように心がけ、胎盤の機能を維持していきたいですね。

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