卵膜とは?絨毛膜・羊膜・脱落膜の3層構造?卵膜付着や遺残についても解説
ママのお腹の中で赤ちゃんと羊水を包んでいる卵膜は、3層構造になっています。妊娠を維持するために大切な組織のひとつで、卵膜が破けて羊水が外に流れ出ると、破水から出産にいたります。再生医療にも用いられるほどすぐれた性質を持つ卵膜の機能や成分、構造について解説します。妊娠・出産にともなうトラブルもあわせてみていきましょう。
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目次
卵膜とは?構造と機能
お腹の中の赤ちゃんと羊水を守るという、大切な役割を果たしている「卵膜」。多くの人にとっては聞き慣れない用語かもしれませんが、「卵膜が破れ、羊水が流れ出ることが破水である」と聞くとイメージがしやすいかもしれません。卵膜は3層構造になっていますが、それぞれどのような膜なのでしょうか。
羊膜
卵膜の一番内側にある膜が、「羊膜」です。羊膜は中が羊水で満たされ、外から受ける衝撃や外部から侵入するウイルス、細菌などから赤ちゃんを守っています。
羊膜を構成する成分は、「コラーゲン」や「ラミニン」といった「たんぱく質」です。厚さは1mmにも満たない非常に薄い半透明の膜で、よく伸びる性質を持っています。ママのお腹の中でのびのびと動けるのは、羊膜がすぐれた伸縮性を持っているからなのですね。この特性を利用し、羊膜は再生医療の現場でも使われています。
絨毛膜
「絨毛膜」は胎児由来の組織で、羊膜を外側から包んでいます。妊娠初期の段階では、絨毛膜は全体が絨毛で覆われています。しかし、妊娠が進むにつれ、のちに胎盤を形成する一部の絨毛を残し、ほかは退化していきます。
この絨毛が退化した部分は「絨毛膜無毛部(じゅうもうまくむもうぶ)」と言い、卵膜を構成する要素となります。一方で絨毛が残った部分は「絨毛膜有毛部(じゅうもうまくゆうもうぶ)」と呼ばれます。絨毛膜有毛部は母体側の脱落膜と接し、胎盤を構成する一部となります。
脱落膜
3層からなる卵膜のうち、出産の際に子宮から分離するのが「脱落膜」です。脱落膜はもともと子宮内膜だったものが、受精卵の着床により肥大化・増殖し、脱落膜へと変化したものです。
脱落膜は受精卵が着床した基底部位の「基底脱落膜(きていだつらくまく)」と、受精卵が子宮内膜に潜り込み、再び表面を覆った際に形成される「被包脱落膜(ひほうだつらくまく)」、子宮腔の内側を覆う「壁側脱落膜(へきそくだつらくまく)」に分類されます。
被包脱落膜は胎児が大きくなるにしたがい、壁側脱落膜に接近していきます。その後ふたつの膜は接合し、壁側脱落膜となり卵膜を構成する要素となります。したがって、3層からなる卵膜は、羊膜と絨毛膜からなる胎児側の組織と、脱落膜からなる母体側の組織が合わさって形成されていることがわかります。
卵膜と胎盤の関係
卵膜を構成する絨毛膜と脱落膜の一部は、赤ちゃんとママをつないで栄養や酸素のやり取りを行う「胎盤」を形成します。胎盤は円盤状をした組織で、胎児の臍帯(さいたい)とつながっています。円盤状の形状を作っているのが、絨毛膜有毛部と基底脱落膜です。胎盤と胎児をつなぐ臍帯は、絨毛膜の内側を覆う羊膜で表面が覆われた状態になります。
基底脱落膜はもともと、子宮内膜だったものです。受精卵が着床した場所を基盤に胎盤が形成され、胎児の成長に合わせて卵膜は大きくふくらんでいきます。イメージとしては、プレゼントの包装などで使用される気泡緩衝材の「プチプチ」の形状が近いかもしれません。空気が入った袋が付着している面が基底脱落膜、袋が卵膜として想像してみると、イメージが浮かぶのではないでしょうか。
胎盤に厚みがあるのは、絨毛膜有毛部と基底脱落膜のあいだに、母体の血液で満たされた「絨毛間腔」という狭い空間があるからです。この空間に、絨毛膜から「絨毛幹」と呼ばれる突起が基底脱落膜に向けて伸びています。基底脱落膜からは、絨毛幹の中には、胎児から伸びる毛細血管が走り、絨毛上皮を介して母体からの栄養を吸収しています。
卵膜剥離で陣痛を促すことも
卵膜剥離(らんまくはくり)は、臨月に入ってからの内診で行われることもある、分娩誘発方法のひとつです。俗に「内診ぐりぐり」と表現されることもあります。
日本助産学会が編集する「エビデンスに基づく助産ガイドライン―妊娠期・分娩期2016(※1)」では、イギリスのNational Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)が発表する「分娩誘発ガイドライン」に基づき、子宮頸管が未成熟な場合の分娩において、卵膜剥離が妊娠42週以降の妊娠や、薬剤による分娩誘発を減らすという効果を示しています。
卵膜剥離は医師や助産師が行うもので、看護師や専門の資格がない人が行うものではありません。出血や子宮収縮をともなうものなので、経過をしっかり管理することが大切です。
卵膜に関連する妊娠・出産トラブル
卵膜はママと赤ちゃん両方にとって大切な組織ですが、卵膜に関連する妊娠・出産トラブルも存在します。代表的なトラブルである「卵膜付着」「卵膜遺残」「絨毛膜羊膜炎」について確認していきましょう。どれも起こる頻度は決して高くないので、心配しすぎる必要はありませんが、定期的に妊婦健診を受ける、気になる症状があるときはすぐに病院に連絡する、といった対策をしておきたいですね。
卵膜付着
「卵膜付着(らんまくふちゃく)」は、臍帯や胎盤の形成時期に生じる異常です。正常な臍帯は必要な酸素や栄養を赤ちゃんに運ぶ臍静脈(さいじょうみゃく)と、不要な二酸化炭素や老廃物を母体に運ぶ2本の臍動脈(さいどうみゃく)、3本の血管を包むワルトン膠質(こうしつ)で構成されています。通常は、赤ちゃんのおへそと胎盤の中央付近で結ばれています。
しかし、まれにワルトン膠質が存在せず、血管がむき出しとなったまま胎盤と離れた卵膜に付着してしまうことがあります。これを「卵膜付着」と言います。全妊娠中の1~2%の頻度で出現しますが、双胎妊娠(双子を妊娠すること)ではその確率がアップします。
卵膜付着が起こっても、妊娠中は無自覚なことがあり、胎児は問題なく発育することもまれではありません。しかし、卵膜付着では血管が圧迫され血流障害が生じやすく、胎児の発育不全や心拍異常につながるケースがみられます。
また、血管が内子宮口近くにあるときは、破水の際に血管が断裂するリスクも想定されます。そのため、妊婦健診のエコー検査で卵膜付着が確認された場合は、帝王切開による分娩が選択されます。
卵膜遺残
分娩後、胎盤や卵膜などの胎児付属物は身体の外に排出され子宮収縮が始まります。しかし、なんらかの原因で卵膜や胎盤が子宮内に残ってしまうことがあります。このような状態を「卵膜遺残(らんまくいざん)」や「胎盤遺残(たいばんいざん)」と言います。
卵膜・胎盤遺残は子宮収縮のさまたげとなり、産褥4日以上の血性悪露が続く原因となります。内診で子宮収縮不良や不正出血が認められ、エコー検査で遺残が確認された場合は、子宮収縮材を用いた治療を行います。
遺残が起こる原因はいくつかありますが、癒着胎盤だったり子宮内感染が引き起こされていたりすると、卵膜遺残となる可能性が高くなります。産後の経過に注意したいですね。
絨毛膜羊膜炎
腟から侵入した細菌が絨毛膜や羊膜にまで到達し、細菌感染を引き起こした状態が「絨毛膜羊膜炎」です。絨毛膜羊膜炎にかかると母体の発熱や胎児の頻脈、腟分泌物の悪臭などの症状があらわれます。一方で、絨毛膜羊膜炎を発症していても無症状な場合も多く、早産の傾向があらわれて初めて感染が疑われる場合もあります。
絨毛膜羊膜炎を発症すると、流産や早産、胎児死亡を誘発する可能性があります。また、分娩時の産道感染で、新生児結膜炎や肺炎を起こすこともあるため、検査により感染の有無をしっかり確認しておくことが大切です。
絨毛膜羊膜炎の原因となる細菌のひとつに、クラミジアがあげられます。絨毛膜羊膜炎の原因となる細菌のひとつに、クラミジアがあげられます。日本産科婦人科学会がまとめた「産科診療ガイドライン2014」では、妊娠30週頃までにクラミジア検査を受けることを推奨しています。
卵膜は赤ちゃんを守る大切な組織
卵膜を構成する3つの層は、子宮内膜に受精卵が着床してから形成が始まります。赤ちゃんを外の世界の刺激から守るため、必要な機能を備えながら進化していく様子は、まさに生命の神秘といえますね。
卵膜の形成においてはママが直接手を加えることはできませんが、必要な検査や定期健診をしっかりと受けることが、卵膜の機能を維持することにつながります。赤ちゃんを守る大切な組織だからこそ、定期的な妊婦健診を通じてすこやかな妊娠を目指したいですね。