【小児科医監修】胎児性アルコール症候群はいつわかる?顔に特徴が出る?診断基準と対策
妊娠中の飲酒にはさまざまなリスクがありますが、その中でも代表的なものが「胎児性アルコール症候群」です。妊娠中はアルコールの摂取を控えるように指導されるのが原則ですが、実際に胎児にどのような影響を与えるのでしょうか。胎児性アルコール症候群の症状や確率、エコー検査でわかるのかどうか、診断の方法、対策について解説します。
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目次
「アルコール」は女性にとっても身近な存在に
お酒は男性に限らず一部の女性にとっても身近な嗜好品のひとつかもしれません。飲み会や晩酌など、さまざまな場面でお酒を飲む機会がある女性もいるのではないでしょうか。
平成27年に厚生労働省がとりまとめた「国民健康・栄養調査」では、女性全体の8.1%が1日当たり20g以上の純アルコールを摂取しているという結果が発表されました。(※1)20gの純アルコールは「生活習慣病のリスクを高める量」として計算されており、清酒1合分、ビールの中瓶1本分、ワイン2杯分に相当する量です。また2008年に行われた全国調査では、20代の女性の飲酒割合が同年代の男性の飲酒割合を上回ったという報告もあります。(※2)
女性にとっても身近になりつつあるアルコールですが、タバコやカフェインと同様に妊娠中には控えるべきだといわれています。医師や周囲の人から控えるように指導されたことがある妊婦さんも多いかもしれませんね。どのようなリスクがあるのでしょうか。
胎児性アルコール症候群(FAS)とは?
妊娠中の飲酒は必ずしも母体や胎児に深刻な影響をおよぼすわけではありませんが、流産や死産の原因になることがあるほか、生まれてくる赤ちゃんにさまざまな影響を与えることがあります。
胎盤を通じて届いたアルコールが分解されず、赤ちゃんの体内に残ることがあるためです。飲酒していた妊婦さんから生まれた赤ちゃんにみられる症候群を「胎児性アルコール症候群(FAS: Fetal Alcohol Syndrome)」と呼びます。どのような症状や特徴があるのか、みていきましょう。
低体重や特徴的な顔貌(がんぼう)、脳障害といった症状
胎児性アルコール症候群の特徴としてよく知られているのは、子宮内での胎児の成長が遅く、出生時に低体重だったり、特徴的な顔つきで生まれてきたりする点です。胎児性アルコール症候群の顔つきとしてあげられるのは、唇が薄い、鼻が低い、顎が小さい、目が小さい、顔が平ら(彫が浅い)といった特徴です。
このほか、通常よりも小さな頭位で生まれる(小頭症)、耳が聞こえにくい(難聴)、直立歩行が難しいといった中枢神経にかかわる症状・障害もみられます。
胎児性アルコール症候群の症状すべてに当てはまるわけではなくても、行動や認知に異常がみられるために「アルコール関連神経発達障害」と診断されたり、心臓、腎臓、骨、聴覚に異常があるために「アルコール関連先天異常」と診断されたりするケースもあるようです。
発達障害やうつ病、成人後の影響も
近年では、出生直後にみられる症状や障害だけでなく、発達障害(ADHD)やうつ病、成人後にあらわれる影響など、幅広い影響が懸念されています。
このように飲酒による影響はさまざまであることから、母親のアルコール摂取によって起こる出生障害全体を「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD:Fetal Alcohol Spectrum Disorders)」という総称で呼ぶこともあります。
胎児性アルコール症候群はいつわかる?エコー写真で検査・診断可能?
胎児性アルコール症候群はいつわかるのでしょうか。妊婦健診で撮影するエコー写真からわかるのかどうか、わかるとすればどのような特徴がみられるのか気になる人がいるかもしれません。
アルコールの影響がいつわかるかは、胎児(赤ちゃん)それぞれの状況によって異なります。エコー写真では胎児の発育状況をみることができるので、胎児性アルコール症候群の特徴のひとつである子宮内での発育の遅れや低体重についてはわかるかもしれません。
しかし、発育の遅れは必ずしもアルコールの影響とは限らず、顔つきの特徴や中枢神経系の障害といった要素がわかって初めて「胎児性アルコール症候群」と診断されるため、確定診断は簡単ではないことが多いでしょう。出生後にさまざまな検査をしてようやく判明する場合もあるかもしれません。厚生労働省のサイトでは、以下の診断基準があげられています。
引用元:www.e-healthnet.mhlw.go.jp1.妊娠中の母親の飲酒
2.特徴的な顔貌
3.出生時低体重・栄養とは関係ない体重減少、身長と釣り合わない低体重などの栄養障害
4.出生時の頭囲が小さい・小脳低形成・難聴・直線歩行困難などの脳の障害
胎児性アルコール症候群を発症する確率と飲酒量
発症する確率は全妊婦の0.1~0.2%程度
胎児性アルコール症候群になる頻度・確率は民族や国によって異なりますが、おおむね0.01~0.02%(1万人に1~2人)程度であるといわれています。決して高い数字ではないようにみえるかもしれませんが、飲酒していない妊婦さんも含んでいるので、一概に多い・少ないと判断するのは難しい数値ですね。飲酒した妊婦さんの中での発症率や飲酒量別の発症率といった詳しいデータは不明です。
妊娠中は少量であっても飲酒は避ける
胎児性アルコール症候群は妊娠中の母親の飲酒が原因です。妊娠中にこのくらいの量のアルコールを摂取すると発症する、逆にこのくらいなら発症しない、というような明確な基準はありません。少量の飲酒でも発症した例があるため、「少しだけだから大丈夫」と安心できるわけではなさそうです。
また飲酒の時期についても、この時期だから大丈夫、というような具体的な目安はありません。一般的に妊娠初期はさまざまな器官が形成される時期であるため、アルコールの影響による特徴的な顔貌や奇形が起こりやすいと考えられています。
一方で、妊娠中期~後期は発育の遅れや中枢神経にかかわる障害が生じやすいといわれています。このように、妊娠中であればどの時期であっても何らかのリスクが考えられるため、時期にかかわらず油断しないようにしたいですね。
胎児性アルコール症候群の治療法はあるの?
妊娠中の飲酒によって赤ちゃんが胎児性アルコール症候群を発症した場合、残念ながら現時点では治療法がありません。子どもが大きくなるにつれて顔つきの特徴が目立たなくなったり、精神疾患の特定の症状を薬によって一定程度抑えることができたりするケースは考えられるようです。
しかし根本的に治すことはできないというのが現状です。そのため、発症しないように対策を徹底することがもっとも大切になります。
胎児性アルコール症候群の対策は?妊娠超初期の場合は?
妊娠中は飲酒しないのが一番
胎児性アルコール症候群を発症しないようにするためには、「飲酒をしない」ことに尽きます。妊娠中はどの時期であっても、少量であっても、飲酒を控えましょう。
妊娠超初期の時期でも飲酒は控える
妊娠中は飲酒を控えるべきだとわかっていても、妊娠が判明していない妊娠超初期の段階で、たまたまお酒を飲んでしまったという人もいるのではないでしょうか。妊娠超初期のアルコール摂取は胎児の奇形などにはほとんど影響しないとする説もあるようですが、安全性が確立しているわけではなく、特に妊娠を希望している場合は、その時期の飲酒を控えるほうが良いことに変わりはありません。
しかし、飲酒をしたからといって必ずしも胎児性アルコール症候群になるわけではないため、心配しすぎる必要はないでしょう。妊娠判明後から飲酒を控えるように努めてください。大量に飲酒してしまい不安な場合は、念のため医師に相談しておくと安心できるかもしれませんよ。
アルコール摂取を控えて安心できる妊婦生活を
妊娠中のアルコール摂取を控えることは、流産や生まれてくる赤ちゃんの病気・障害のリスクを下げることにつながるのはもちろんのこと、「赤ちゃんに何かあったらどうしよう」という不安やストレスを避けることにもつながるかもしれません。できるだけ安心して妊婦生活を送るためにも、飲酒は避けるようにしたいですね。
とはいえ、もともと飲酒習慣があったり、飲酒がストレス発散や友人との大切なコミュニケーションの一環になっていたりして、簡単には禁酒できないと感じている人もいることでしょう。
禁酒は最初のうちは少し大変かもしれません。妊活を始めるタイミングからは、お酒の席を控える、ノンアルコールカクテルを飲むようにするなど、自分にあった方法を試していきましょう。できれば周囲の協力も得られると心強いですね。どうしても難しい場合は、ひとりで悩まずに医師に相談してみましょう。
※この記事は2024年2月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。