出産費用の「無償化」はどう進む?厚労省審議会で議論されたポイントをわかりやすく解説

2025年12月4日に行われた第206回社会保障審議会・医療保険部会では、出産に対する支援の強化について大きく議論されました。昨今は出産育児一時金が増額される一方で、出産費用そのものも上昇しています。「最終的に妊婦さんが自己負担ゼロで出産できる仕組みをどう作るか?」をテーマに議論された内容を整理してご紹介します。

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目次

  1. こども未来戦略加速化プランが前進
  2. 出産費用の支援をどう見直す?給付方式の在り方
  3. 出産費用はいくらに設定される?給付内容の考え方
  4. どこまで公的に負担する?
  5. 今後の見直しは続く
  6. 新制度への見直しについて今後の議論を見守ろう
  7. あわせて読みたい

こども未来戦略加速化プランが前進

2023年(令和5年)12月に閣議決定された「こども未来戦略~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」では、3年間の期間内で集中的に取り組む施策が「こども・子育て支援加速化プラン(加速化プラン)」として示されました。

加速化プランには、妊娠・出産に関する経済的負担の軽減策が盛り込まれています。具体的な案として掲げられたのが、妊娠期からの切れ目ない支援、出産費用の見える化と保険適用などです。

方針
具体的な施策
出産費用の見える化の推進全国出産施設に関する情報提供サイト「出産ナビ」の立ち上げ
出産に関する支援強化についての検討2026年度を目途とした出産費用の保険適用の導入
無痛分娩についての支援の在り方の検討麻酔を実施する医師の確保など、妊婦が安全・安心に出産できる環境整備

今回話題となっている第206回社会保障審議会・医療保険部会においては「医療保険制度における出産に対する支援の強化」についての検討が進められ、出産費用を無償化するために、現在は分娩施設ごとに異なる分娩費用に全国一律の「公定価格」を導入し、その全額を公的医療保険でまかなうという案が示されています。2026年度をめどに制度設計を進め、2027年度以降の実施となる予定です。

この提案にいたるまで、これまでの社会保障審議会医療保険部会でどのように議論がなされてきたのか、その内容をみていきましょう。

出産費用の支援をどう見直す?給付方式の在り方

年々上昇する出産費用に対する指摘

出産の際に支給される「出産育児一時金」は、分娩費用や出産前後の健診費用などを助成することを目的として1994年(平成6年)に創設されたものです。当初の支給額は30万円でした。その後、分娩費用の上昇にともない出産育児一時金の内容も幾度か見直され、現在は全国一律で原則50万円が支給されています。

しかし、出産育児一時金を引き上げても、出産費用自体が増加していくため、実際には出産費用の負担軽減につながらないという現状があります。出産費用の増加をめぐっては、その内訳が見えづらくなっていることから、妊婦の納得感が得にくい点も指摘されています。

議論のポイント

●出産育児一時金を引き上げてもすぐに出産費用が上がり実質的な負担の軽減につながらない
●出産費用の内訳が見えづらく、出産費用が増加することに対して妊婦側の納得感が得にくい

出産育児一時金から公的医療保険適用の「現物給付」へ

出産育児一時金の現行制度は、窓口で出産費用を立て替えた後に「償還払い(払い戻し)」を受けるというものです。それを「直接支払制度」を利用して、一時的な立て替えが不要な仕組みにしています。審議会では、形式上でも一時負担が発生する仕組みや制度のわかりにくさが指摘されています。

また、小規模な産院や助産院は直接支払制度に対応していないケースもあるため、経済的な負担感はぬぐえません。こうした背景から、「一時的に負担をすることがないシンプルな制度にすべき」「出産育児一時金による現金給付ではなく、現物給付に切り替えるべきでは?」という意見が多く出されました。

現物給付とは、妊婦が費用を支払わずに出産でき、必要分を国や保険から医療機関へ直接支払う仕組みのことです。「自己負担ゼロの出産」をめざす方向性として注目されています。

議論のポイント

●出産育児一時金の制度上、妊婦が一時的に立て替える仕組みになっており、経済的負担感が消えない
●一時的に負担をすることがないシンプルな制度、妊婦にとってわかりやすい仕組みにするという観点から現物給付にすべき

産科施設経営に配慮した制度設計

地域の産科施設は、地域で求められる役割や妊婦のニーズに応じて、経営上のまざまな工夫を図っています。審議会では、こうした経営上の自由度を確保することについて緩やかな評価の仕組みが必要という意見が出ました。

また、分娩時に必要な対応は、妊婦や胎児の状況、分娩の経過によって異なるため、一つひとつに価格を定めるのではなく、シンプルに考える案が示されました。たとえば「1件の出産に対して施設へ一定額を支払う」「より手厚いケアを行う施設には評価を加える」などです。

新しい制度の導入にあたっては、病院経営が圧迫されないよう、柔軟な制度設計を求める声が上がっています。

議論のポイント

●経営上の自由度を確保する評価の仕組み、手厚いケアを提供する施設を高く評価する仕組みを検討すべき
●病院経営ができることを前提として、ひとつの出産に対して一定額を払うようなシンプルな制度にする

出産費用はいくらに設定される?給付内容の考え方

公的医療保険の適用をふまえた「公定価格」の導入

審議会で次に議論されたのは、給付の中身をどのようにするのかという点です。現在、出産費用は地域差・施設差が大きいという実情があります。公的医療保険を適用するには、出産費用が生む場所によって左右される事態は避けなければなりません。

そこで、多くの委員が「保険診療と同じように全国一律であるべき」「全国一律の公定価格にするべき」という考えを示しました。

議論のポイント

●全国どこで産んでも一定の費用で出産できる公平性
●保険適用にする以上、国民皆保険の理念に沿って統一すべき
●妊産婦の負担を増やさないため、標準的な費用を高い水準で設定すべき

地域差の吸収と医療体制の維持がカギ

地方では小規模な産科施設が相次いで撤退しており、「1つ閉院するだけで出産できる場所がなくなる」という地域も存在しています。出産費用を全国一律にする場合、地方の周産期医療体制を維持するために地域事情を踏まえた費用設定にする必要があります。

特に、分娩数自体が減少している過疎地域は、分娩実績による評価だけではなく体制維持にかかわるコストをまかなうための配慮が求められています。

また、出産費用を公的医療保険の適用にすることで、財源に関する課題も浮上しています。「保険料負担者の納得感」や「保険料財源以外の解決策」に対する考え方も示されています。給付の内容については、妊婦の負担を減らしつつ、全国の分娩施設が持続できる仕組みづくりと医療保険制度の運用が大きなテーマです。

議論のポイント

●小規模な一次施設のコストを丁寧に反映する必要
●地域医療体制を壊さないためにも、十分な財源が必要
●保険料だけでまかなうのが難しければ、税財源の活用も検討すべき

どこまで公的に負担する?

「標準的なケース」の範囲をどう考えるか

出産費用には保険診療が適用になる軽微な医療行為、助産師などによる分娩時や入院中のケア、産後エステやお祝い膳などサービスが含まれています。「出産費用の無償化」といっても、財源には限りがあります。どこまでが公的負担の対象になるのか、「標準的なケース」に含まれる範囲は重要な論点です。

標準的なケース=妊娠・出産に不可欠な医療とケア

出産にいたるまでの分娩の経過は一人ひとり異なり、妊婦が100人いれば100通りのお産があると考えるのが一般的です。そのため「標準的なケース」の検討は慎重に進められています。

議論の中では、ママの選択にかかわらず提供されるものを標準的なケースに含めるという意見が多くあがりました。具体的には「母子の安全を確保するための医療的な行為」や、「妊産婦の不安を軽減し、安心・安全な分娩に導く助産師によるケア」などを含みます。

一方で、個室料やお祝い膳、写真撮影、エステなどの「アメニティ」はママの意見が反映される「選択的なサービス」にあたるため、保険給付の対象に含めない方向が妥当とされました。

議論のポイント

●妊娠・出産に必要な医療行為や、母子の安全を守る助産ケアは公的に負担すべき
●分娩介助、入院中の育児指導、突発的な医療対応に備える人員・設備は標準的ケースに含める
●現在医療保険が適用されている軽微な医療行為について、妊婦の自己負担をどうするかは別途検討が必要

無痛分娩の扱いは慎重に

出産方法の選択肢のひとつとして注目されている無痛分娩ですが、保険給付の対象とするかについてはまだ議論が必要なようです。その理由として、実施している施設数に地域差があること、リスクやメリット・デメリットがあることなどがあげられます。麻酔科医が不足しているという現状もあることから、まずは安全体制を整えることが優先し、保険適用の議論は慎重に進めるべきとの意見が多く出されています。

今後の見直しは続く

12月4日に行われた第206回社会保障審議会医療保険部会の議論は、10月23日の第201回の議論をもとに行われ、負担感をゼロにする仕組みづくり、手厚い人員体制やハイリスク妊婦の受け入れ体制を整備する施設への評価、公的負担の範囲、出産育児一時金の余剰分に対する考え方などの課題が多面的に扱われました。

そして、少子化の進行や物価上昇を見据え、「給付水準は今後も柔軟に見直す仕組みが必要」 という点も共有されています。

第206回社会保障審議会医療保険部会の要点
●妊婦の自己負担ゼロをめざす仕組みをどう作るか
●医療機関の経営・人員体制をどう支え、評価するか
●費用設定をどう決め、どこまで公的負担とするか
●出産育児一時金の余剰分に対する扱いをどのように考えるか

12月12日には207回目の社会保障審議会医療保険部会が開催されています。この回では「医療保険制度の観点からの支援の在り方」や「新たな給付体系への移行時期」などで意見が交わされ、第206回の議論をさらに深めています。

新制度への見直しについて今後の議論を見守ろう

出産費用の公的負担をどのように拡充するかは、すべての妊婦・家族に関わる大きなテーマです。 現金給付の一時金方式では限界が見えてきたことから、国として「出産費用の現物給付化」「自己負担ゼロに近づける仕組み」が本格的に検討され始めています。

今後の制度設計では、妊婦の安心、医療体制の維持、自治体や保険者の財政バランスをどう両立させるかがカギになります。どこかに偏るのではなく、将来的に安心・安全な出産ができる仕組みづくりに期待が集まっています。

※この記事は2025年12月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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