赤ちゃんの成長に大切な栄養素「鉄」を摂って、赤ちゃんの鉄欠乏性貧血を防ごう!【パパ小児科医コラムvol.11】
生後6ヶ月を過ぎた赤ちゃんは身体の中の鉄が不足しやすくなることを知っていますか。鉄が不足すると鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。パパ小児科医の加納友環(ぱぱしょー)先生に、離乳食で赤ちゃんに鉄を補わなければいけない理由と、鉄欠乏性貧血の症状や治療について教えていただきました。
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赤ちゃんを育てている中で、「うちの子はちゃんと育っているのだろうか?」という漠然とした不安を感じる人は多いのではないでしょうか。
「体重が増えていれば大丈夫かな」となんとなく感じている人は多いと思いますし、乳児健診や病院の診察でもそのように言われることが多いものです。
赤ちゃんが順調に成長するためには、もちろん体重が増えていることは大前提ですが、栄養素として「鉄」が見過ごされがちです。鉄が足りなくなると、赤ちゃんは鉄欠乏性貧血を引き起こします。貧血というと生理や妊娠など大人の女性のイメージがあるかもしれませんが、実は子どもにもよく見られるものです。
赤ちゃんは生後6ヶ月頃から鉄が不足しやすい
イラスト:ヤマハチ
生まれてすぐの赤ちゃんの身体の中には、お腹の中でママからもらった鉄のストック(=貯蔵鉄)があるので、鉄欠乏性貧血は起こりにくいものです。しかし生後6ヶ月になるとそのストックを使い果たし、鉄が足りなくなってきます。母乳やミルクには鉄が少なく授乳だけでは赤ちゃんに必要な鉄が足りないため、離乳食で補っていかなければなりません。
離乳食は食べることの練習と、母乳やミルクでは十分に得られない栄養素を補っていくことが目的なのです。
赤ちゃんがスムーズに食べてくれれば問題は生じにくいのですが、離乳食を食べない、偏食があるなどで十分に鉄を補充できない場合があります。
離乳食で鉄を十分に補えていない赤ちゃんの場合、生後6ヶ月ほどから鉄が欠乏し、特に9~10ヶ月健診の頃には貧血(=離乳期貧血)を発症している子によく出会います。
赤ちゃんの鉄欠乏性貧血の症状は?
イラスト:ヤマハチ
赤ちゃんが貧血になると、どのような症状があるでしょうか。
貧血は酸素を運ぶ赤血球の数が減ることを意味します。赤血球の中で酸素を運搬するのがヘモグロビンという蛋白質で、その原材料が鉄です。鉄の欠乏により酸素を運ぶ機能が低下することが問題となります。
大人の場合、貧血になると全身がだるかったり、階段で息切れしたり、動悸がしたりといったことが起こります。
これらの症状を赤ちゃんは自ら訴えることはできませんので、なんとなく元気がない、不機嫌になる、夜泣きをするといった症状しか表には出てきません。
酸素不足で活動することは、ギアチェンジをせずに坂道を自転車で登るようなもので、赤ちゃんの身体にとても負担の大きいものです。
赤ちゃんが酸素不足の状態で大泣きすると、脳が酸欠になり痙攣することがあります(憤怒痙攣)。また、イライラしたり眠りにくくなったりといったことも起こります。
なにより酸素不足が成長過程の赤ちゃんの発達に影響をおよぼす場合があるため、早めに気づいて対策を取ることが大切です。
赤ちゃんの鉄欠乏性貧血の診断は?
赤ちゃんの貧血の診断は血液検査により行います。赤血球、ヘモグロビン、鉄、貯蔵鉄などを調べるものです。同時に、鉄欠乏以外の貧血の原因がないかも区別します。(貧血は必ずしも鉄欠乏だけではありません)
貧血になると、下まぶたの裏の目の粘膜の色が白っぽくなることが特徴ですが、これだけでは診断できません。血液を調べないとわからないのです。赤ちゃんの偏食や食の細さが気になったり、顔が青白い、いつも不機嫌など貧血の特徴が見られたりしたら、病院で相談してみてください。
赤ちゃんが貧血を起こしていなくても、その前段階の「鉄欠乏」という状態になっている場合もあります。こちらも発達に影響をおよぼす可能性があり、鉄の補充が必要です。
赤ちゃんの鉄欠乏性貧血の治療・予防法は?
イラスト:ヤマハチ
鉄を多く含む食べ物を摂る
赤ちゃんの身体の中に鉄が不足していることがわかったら、まずは鉄分の多い食事で補うことになります。では、具体的にどのような食事が良いのでしょうか?
鉄は赤身の肉や魚に多く含まれます。たとえばマグロや牛肉などです。
ほうれん草にも鉄が多く含まれますが、植物性の食物は動物性の食品比べて鉄が身体の中に吸収されにくいという難点があります。ただビタミンCは体内への鉄の吸収に必要なため、緑黄色野菜も一緒にバランスよく食べることが重要です。
豆類や焼きのりにも鉄が含まれますので、上手に組合せてみてください。
牛乳は健康に良いものですが、鉄の吸収を阻害します。たとえば1日600mL以上の牛乳を毎日飲むなど、牛乳を過剰に摂取することは避けたほうが良いでしょう。
ひじきは鉄が多いイメージがあるかもしれませんが、それほどでもありません。昔は干しひじきを製造するときに鉄鍋を使用していたので鉄の含有量が多かったのですが、現在はステンレス鍋で加工されるため含まれる鉄が少なくなっています。
ここから考えると、鉄製の調理器具を使うのもひとつの手です。お料理に鉄鍋や鉄のフライパンなど鉄製の調理器具を使うことで、離乳食に含まれる鉄を少し補充することができます。
鉄を補充したベビーフードを取り入れる
ベビーフードにもあらかじめ鉄強化したものがありますが、対象が生後9ヶ月以降のものがほとんどです。海外では生後6ヶ月からの鉄補充が推奨されていて、海外のベビーフードには鉄が添加されています。日本には鉄を添加したベビーフードで低月齢から食べられるものはないので、現状では海外のライスシリアルなどを利用すると良いでしょう。
鉄剤の補充による治療を受ける
しかし離乳食期の赤ちゃんや偏食する子どもにとっては、食事で鉄を補うことは簡単ではありません。食事で十分でない場合にはお薬として鉄剤の補充が必要で、シロップのお薬を病院で処方してもらいましょう。
この場合、鉄の補充を開始してすぐに症状は改善しないので、治療に時間が必要と思ってください。
赤ちゃんの身体の中に鉄が補充されて、貧血が改善してくると、だんだん貯蔵鉄がたまってきます。
治療をやめるとまた貧血になるので、ストックつまり貯蔵鉄がしっかりたまってくるまで定期的に血液検査を確認しながら数ヶ月かけて治療していきます。
現在のところ、これらの鉄補充の治療によって成長や発達が改善するというエビデンスがないため、鉄欠乏は予防していくことがとても重要です。
赤ちゃんの鉄不足を日常的に予防しよう
イラスト:ヤマハチ
貧血は風邪とは異なり、一見すると具合が悪いようには見えないため見過ごされやすい病気です。
しかし症状を訴えることのできない赤ちゃんは、知らないうちにしんどさを感じているかもしれません。成長に影響をおよぼす可能性もあります。赤ちゃんは鉄欠乏になりやすいことを前提として、日常的に予防していくことが大切だと思います。
パパ小児科医(ぱぱしょー)先生の過去のコラム
著者:加納友環(ぱぱしょー)
二児(2歳、4歳)の父で小児科専門医。
TwitterやInstagramを中心に子育て当事者の立場から、また医療者の立場から子育てに役立つ情報を発信しています。