【産婦人科医監修】いきみ逃しの呼吸法と出産時のいきみ方は?テニスボールが役に立つ?
子宮口が全開大になるまでは、いきみたくてもいきんではいけないつらい状態が続き、いきみ逃しが必要になります。子宮口の裂傷などを避けるために、いきみ逃しはとても大切です。陣痛が始まってから慌てないために、事前にいきみ逃しについて学んでおきましょう。いきみ逃しのやり方といきみ方のコツを産婦人科医監修で解説します。
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この記事の監修
目次
いきみ逃しとは?なぜ逃がすの?
分娩は大きく三段階にわかれます。分娩第1期は陣痛が10分間隔になってから子宮口が全開大になるまで、分娩第2期とは子宮口全開大から赤ちゃんが出てくるまで、分娩第3期とは赤ちゃんが出てきてから胎盤が出てくるまでのあいだをさします。
分娩第1期が終わりに近づいてくると、陣痛は2分間隔程度に縮まり、子宮口は7~8cm近くまで開いています。痛みが強くなり、赤ちゃんも下りてくるので、肛門付近に力が入り便意のような「いきみ感」を自然と感じることがあるでしょう。
しかし子宮口が全開になるまでは、自然のいきみ感のままいきむのはリスクがあり、なるべく身体の力を抜く必要があります。これを「いきみ逃し」とよびます。いきみ逃しには大切な意味があります。まだママの子宮も赤ちゃんも準備ができていない状態で無理にいきむと、子宮口が傷ついたり、大量出血を起こしたりする可能性があるためです。
また、赤ちゃんに十分な酸素が行き届かなくなることもあります。子宮口が全開大(10cm)になれば、助産師や医師から「いきんで」という合図があるはずです。そのときまではさまざまな方法でいきみ逃しをする必要があります。
いきみ逃しの方法は?呼吸法がポイント?
呼吸法に集中する
呼吸法は分娩時のリラックスや陣痛の緩和、いきみ逃しに効果があるといわれています。「ヒッ、ヒッ、フー」の呼吸で有名なラマーズ法では、胸式呼吸が基本になります。鼻から息を吸って、口から「ヒッヒッ」と短く二回吐いた後、「フーー」と長く吐きます。これでもいきみが逃せないようなら、「フーー」の後に「ウン」と小さく声を出していきみを逃すと良いとされています。
ヨガや禅を取り入れた分娩法であるソフロロジー式分娩でも、呼吸法はポイントになります。ソフロロジーでは腹式呼吸が基本になり「ゆっくり吐くこと」のみに集中します。いきみ感が出てきたら、おへその下を軽く圧迫しながら、肺を空っぽにするほどゆっくり力強く吐きます。痛みが落ち着いたら全身を脱力させてリラックスすると良いでしょう。
姿勢を楽にする
痛みやいきみを逃しやすい姿勢はママによって違うようです。四つん這いや横向き、あぐらで座った状態など、楽な姿勢を捜してみましょう。いきみ逃しには身体の力を抜くのも有効なことがあります。いきみを感じると、手すりやベッドをぎゅっと握ってしまうこともありますが、手に何も持たない状態のほうが、力が弱まる場合もあるようです。また、背中を少し反らせるといきみ感が抜けていくこともありますよ。
肛門を押す
陣痛の波にあわせて肛門付近をグーッと押されることで、いきみ感が楽になることもあります。握りこぶしでも良いですが、テニスボールやゴルフボールなどを使うと、適度な硬さが出るかもしれません。痛みが強いときにママが自分で肛門を押すのは難しいこともあるので、助産師やパートナーの力も借りてみましょう。押す力の強さや、押されたい場所などをはっきり伝えて、母体に負担がかからないようにしたいものですね。
腰や尾てい骨を押す・さする
痛みが強い部分を押したりさすったりすることで、いきみ感が軽減することもあります。陣痛のときは、やさしくさするよりも、局部を強くググッと押すほうが効果的な場合もあるようです。パートナーがそばにいるときは、マッサージをお願いしてみましょう。助産師のやり方をお手本に、ママの呼吸や陣痛のピークにあわせて押してもらうと良いでしょう。人の手のぬくもりや気遣いにホッとして、リラックスできる可能性もありますよ。
楽しいことを考える
いきみ逃しには、全身のリラックスがとても大切です。身体が緊張していると、子宮の筋肉も硬くなってしまうことがあります。心と身体をリラックスさせるために、楽しいことを考えて痛みから気をまぎらわせるのも良いでしょう。
赤ちゃんと出会えたときのことを考えたり、大きくなったらどこに行って何をしたいかを考えたりしても良いですね。陣痛の合間には、パートナーとおしゃべりするのも気分転換になるかもしれません。ポジティブにお産に臨むと、お産自体の満足度も高くなるといわれています。
いきみ逃しでのテニスボールの使い方
産院で用意されていたり、助産師から渡されたりすることもあるテニスボール。いきみ逃しの代表的なグッズともいえます。テニスボールがなければ、ゴルフボールや握りこぶしでも代用可能です。適度な硬さと、握りやすい大きさがポイントといえるでしょう。
陣痛時、ボールで背中や腰をコロコロすることで痛みが楽になることもあります。いきみ感が強くなってきたときは、陣痛のタイミングにあわせて、ぐっと肛門付近をテニスボールで圧迫してもらうと、いきみ逃しの効果があるといわれています。赤ちゃんを押し戻すように、強い力で押し当てる必要がありますから、ママがひとりで使うのは難しいかもしれません。可能であれば、助産師やパートナーにサポートしてもらいましょう。
なかにはお尻を押されることを不快に思うママもいます。また肛門付近を強く圧迫するため、痔の症状があるときは痛みが強くなることもあります。いきみ逃しの方法は人それぞれですから、自分にあわないと感じたときは無理をせず、マッサージやツボ押しなどに変えてもらいましょう。
出産時のいきみ方のコツ
子宮口が全開大になり、赤ちゃんの頭が会陰から出たり引っ込んだりし始めると、助産師から「いきんで良いですよ」という合図があります。今まで我慢していたいきみ感を開放しましょう。あごをひき、足をしっかり開きながら、自分のおへそを覗き込むような感じで、肛門を突き上げるようにいきみます。
なるべく身体をリラックスさせ、酸素を赤ちゃんに行き届かせることができるように、呼吸は吐くことに集中してみましょう。ラマーズ法では深呼吸をした後、息を大きく吸い込んで息の続くかぎりいきみます。声はなるべく出さないほうが、身体が弛緩しやすいこともあります。「いきむのをやめて」といわれたら「ハッハッハッ」と短く浅い短息呼吸を繰り返すと良いといわれています。
ソフロロジー式分娩ではゆったりと力強く息を吐きながら、いきみもゆっくり加えます。息を少しずつもらしながら、赤ちゃんが出ようとする力を助けるように力を加え、痛みが治まったら全身を脱力させます。助産師の合図をしっかり聞きながら、いきみのタイミングを整えましょう。
つらい陣痛やいきみ逃しを乗り切るために
リラックス方法を見つける
いきみ逃しだけではなく、お産全体を通して重要なのはリラックスすることです。上手にリラックスすると、余計な力が抜けて筋肉の緊張がほぐれ、赤ちゃんがスムーズに下りてきたり、ママの身体が疲れにくかったり、産後の回復が早かったりという可能性もあります。
リラックス方法はママによって変わります。本を読んだりゲームをしたり、普段通りの行動をするとリラックスできるママもいますし、夫やパートナーとおしゃべりをすると気持ちが楽になるママもいます。アロマや音楽、軽いストレッチを試してみても良いでしょう。自分にあったリラックス方法を見つけて、必要なグッズを用意しておくと安心ですね。
イメージトレーニングをする
お産本番に不安に襲われたり、パニックになったりしないように、普段から分娩のイメージトレーニングをしておいても良いでしょう。ポジティブなお産を目指す「ソフロロジー式分娩」では、音楽を聴きながらイメージトレーニングを毎日行います。赤ちゃんのことを考えながら、赤ちゃんに語りかけることで、豊かな母性が育まれるといわれています。
陣痛のことや妊娠中の体型変化などをあるがままに受け止めて、自分の頭の中の心地良いイメージや楽しい思い出を重ねていきます。イメージトレーニングを毎日行っていれば、陣痛が始まってから無意識にリラックスできるかもしれません。
呼吸法や弛緩法を練習しておく
呼吸法や弛緩法はいきみ逃しに有効といわれていますが、痛みが強いときに自然と行うのは難しいこともあります。普段から練習しておくことで自信がつきますし、本番でも実力を発揮できるかもしれません。呼吸法はラマーズ法やソフロロジーなどさまざまな方法がありますが、自分にあったものを選びましょう。産院に聞いて、取り入れている分娩方式を聞いておいても良いですね。
弛緩法の練習は、身体が緊張した状態と、弛緩した状態の区別を覚えることで、緊張した部分から意識的に力を抜くことを目的としています。普段から身体の部位ごとに、力を入れて脱力するという動作を繰り返しておけば、いざというときに緊張でガチガチに固まった部分をほぐすことができるかもしれません。
夫やパートナー、助産師さんと連携する
お産はひとりで頑張るものではありません。夫やパートナー、助産師など、周りの人たちの協力を得ることで、安産に導かれる可能性があります。痛む場所のマッサージや肛門の圧迫など、自分だけではできないことを手伝ってもらいましょう。
夫やパートナーには遠慮なくしてほしいことを伝え、助産師には状況に応じたアドバイスをもらうと良いでしょう。とくにお産のプロフェッショナルである助産師は、誰よりも心強い味方です。指示をよく聞いて、呼吸やいきむタイミングをあわせれば、安産につながるかもしれませんよ。
いきみ逃し・いきみ方に関する体験談
筆者はほとんど分娩に関する予備知識なしでお産に臨みました。「いきみ逃し」はもちろん、出産時に自然といきみたくなることさえ知らないままでした。詳しく知るのが怖かったという理由もあります。そのため、助産師さんから「いきまないで」といわれたときは、少しパニックになりました。
陣痛のピーク時は「こんなにいきみたいのに、いきんじゃダメなんて物理的に無理でしょう」という気持ちでいっぱいでしたね。陣痛も苦しいものでしたが、いきみ逃しのほうが筆者にとってはつらいと感じました。
子宮が開くまで絶対に我慢できないと思っていましたが、助産師さんのアドバイスどおり姿勢を変え、呼吸を整えることで、なんとか維持することができました。赤ちゃんが外に出ているときは意識がもうろうとしていましたが、遠くから聞こえる助産師さんの声にあわせてひたすらいきんで弛緩してを繰り返していると、そのうち嘘のように楽になりました。結果的に安産になりましたよ。
筆者の場合、呼吸法やいきみ逃しなどの知識はきちんとつけておいたほうが、むしろリラックスして臨めたかもしれません。でも、事前知識がなくても、助産師さんのアドバイスをしっかり聞けば勢いでなんとかなることもあるようです。
上手ないきみ逃し・いきみ方で出産の山場を乗り越えよう
子宮口が全開大になるまでの「いきみ逃し」と、全開大になってから赤ちゃんを産みだすための「いきみ」はどちらもとても大切です。身体が緊張すると、痛みが増したりうまくいきみが逃せなかったりすることもありますから、リラックスして臨めると良いですね。呼吸法などを練習し、パートナーや助産師の協力を得ることで、前向きにお産を乗り切ることができるかもしれません。自分の力を信じて、もうひとがんばりしてみましょう。