【産婦人科医監修】妊娠後期のお腹の張り・痛みがきたら、すぐやるべきことは?胎動との関係は?
妊娠後期は頻繁にお腹が張る時期です。たいていは生理現象で、しばらく安静にすれば心配いりません。ときには赤ちゃんの元気な胎動をお腹の張りとして感じることもあります。しかし、お腹の張りがトラブルの兆候の場合もあり、特に痛みや出血を伴うと注意が必要です。お腹の張りの原因と対処法のほか、すぐに病院に行きたいケースを解説します。
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目次
妊娠後期のお腹の張りとは
妊娠後期(妊娠28週以降)は妊娠中を通して最もお腹が張りやすい時期ですが、たいていは出産の準備のための生理的な現象だといわれています。
妊娠中のお腹の張りは、子宮の収縮によって起こることが多いです。赤ちゃんを包む子宮は筋肉でできており、普段はやわらかいのですが、何らかの刺激を受けたときなどにギュッと収縮して硬くなります。子宮が収縮すると、子宮周辺の部位も影響を受け、お腹が張っている感覚が出るのです。
また、子宮自体が大きくなる感覚や、子宮を支える靭帯(じんたい)が子宮の増大によって引っ張られる感覚をお腹の張りとして感じることもあります。
お腹の張りの感じ方は「お腹がピキッと張り裂けそう」「お腹が石のようにカチカチになる」など個人差があります。
妊娠後期のお腹の張りの原因
長時間同じ姿勢
座りっぱなしや立ちっぱなしなど、長時間同じ姿勢が続くと、お腹が張りやすくなるといわれています。同じ姿勢が続くことで血流が悪くなり、子宮の収縮が増えるからです。
働いている妊婦さんは、ずっと同じ姿勢でデスクワークをしたり、立ち仕事をしたりしなければならない場面もあるかもしれません。しかし、特に妊娠後期はこまめに休憩を取らせてもらうようにしましょう。
夜間・就寝時
妊娠後期のお腹の張りは、夜間の就寝時に感じやすいという妊婦さんが多いようです。これは、日中の疲れが夜になってあらわれ、子宮が収縮しやすくなることが考えられます。また、昼間は活動しているためお腹の張りに気が付きにくかったのが、夜に横になると気になるということもあるでしょう。
仰向けで寝ると、お腹の皮膚が引っ張られたように伸びることから、お腹の張りとして感じやすいようです。仰向け寝は、大きなお腹が臓器や血管を圧迫して、寝ているあいだに息苦しさや吐き気を感じることもあります。そのため、妊娠後期にお腹が張るときは、横向きで寝たり抱き枕を抱いたりして楽な姿勢をとると良いでしょう。
運動
適度な運動は妊娠中の急激な体重増加を抑えるだけでなく、出産に向けての体力アップのためにも大切です。ただし、過度な運動はお腹の張りの原因になるため注意しましょう。
妊娠中期から後期にかけては、「歩くとお腹が張る」という妊婦さんも多いようです。軽いウォーキングであっても、くれぐれも無理はせず、お腹の張りや疲れを感じたら途中でやめましょう。
ストレス
妊娠後期は、妊娠初期から活発に分泌されていたエストロゲンとプロゲステロンの分泌量がさらに増加します。そのため、ホルモンバランスが急激に乱れ、イライラしやすくなるといわれています。また、家事や仕事が思うようにできない焦りや、出産・子育てに対する不安なども感じやすいでしょう。こうしたストレスは、血行不良を引き起こして子宮を収縮させ、お腹の張りの原因になることがあります。
妊娠中にストレスを感じるのは仕方のないことですので、できる限りストレスをためこまないように心がけましょう。趣味に没頭したり、誰かに話を聞いてもらったりと、自分なりのストレス発散法を見つけてくださいね。
お腹の締めつけ
妊娠後期の大きなお腹を支えるのに役立つ骨盤ベルトや腹帯。しかし、これらの便利なアイテムが妊娠後期にお腹が張る原因となっていることがあります。
お腹の張りを感じる方の多くは、骨盤ベルトや腹帯をきつく巻いてしまっている可能性があります。不必要に締めつけてしまったり、強く巻きつけてしまったりするのは要注意です。また、レギンスやパンツなどボトムスのウエストもきつすぎないか確認してみましょう。
冷え
身体が冷えると、子宮の血流が悪くなり、お腹の張りを感じやすくなるといわれています。足のむくみや腰痛の原因になることもあるため、特に腰周りはなるべく冷やさないようにしましょう。冷房が効いた場所に長居するときはブランケットを持ち歩くなど、妊娠中は冷え対策を心がけたいものです。
性行為
妊娠中の性行為は、妊娠の経過に問題がなければ可能という見解が多いようです。しかし、性行為の刺激や寒さからくる冷えなどによって、子宮の収縮を促してしまう恐れがあるので注意が必要です。
深く挿入すると、腟の奥にある子宮頸部が刺激されることで、反射的に子宮収縮が起こるため、できるだけ浅く挿入するようにします。また、乳頭を刺激しすぎると、子宮収縮作用のあるオキシトシンというホルモンが分泌され、お腹の張りにつながることがあるので気をつけましょう。
コンドームを着用しないで性行為をすることがお腹の張りの原因になっているケースも考えられます。精液にはプロスタグランジンという子宮を収縮させる作用もあるホルモンが含まれているからです。
また、妊娠中は腟の自浄作用が低下し、細菌感染しやすくなっています。精液から雑菌が入ることで腟炎になると、赤ちゃんを包む「絨毛膜」や「羊膜」に感染が波及し、「絨毛膜羊膜炎」になりかねません。絨毛膜羊膜炎は子宮収縮を引き起こし、お腹の張りがあらわれることがあり、病状が進行すると切迫早産や早産にいたる可能性もあります。
便秘
妊婦さんの7~8割が悩むといわれる便秘も、妊娠後期にお腹が張る原因となっているかもしれません。妊娠中は、プロゲステロンという妊娠を維持させる働きがあるホルモンの分泌量が増えるのですが、このプロゲステロンには腸の動きを鈍らせる作用があります。また、大きくなった子宮による腸の圧迫、運動不足といった要因で便秘になりやすくなります。
特に妊娠後期は胎児が大きくなり、腸の圧迫が強くなるため、急に便秘になったと思う方も多いようです。便秘がちになると、悪玉菌が増えて腸内環境が悪くなり、腸内ガスがたまりやすくなります。これがお腹の張りや痛みの原因になる場合があります。水分補給や軽い運動で腸の働きを助けるなどして、症状を改善しましょう。
妊娠後期のお腹の張りと胎動の関係は?
妊娠後期の28~31週頃は、羊水の量が増え、お腹の赤ちゃんが最も激しく動く時期なので、胎動を感じることも多くなるでしょう。胎動の感じ方には個人差がありますが、赤ちゃんが手足を伸ばすなど胎動が激しいときには、お腹が張ったように感じたり、痛みを感じたりする場合があります。
お腹の張りと激しい胎動が同時にあるときは、しばらく安静にして、自然に治まるのを待ってみましょう。胎動が激しいのは、基本的には赤ちゃんが元気に動いている証拠です。胎動が原因になって早産になることはありませんので、過度に不安にならないでくださいね。
妊娠9ヶ月頃になると、出産に向けて赤ちゃんが下りてきて、ママの骨盤に頭が固定されるようになります。そのため、赤ちゃんが自由に動きにくくなり、胎動の回数も減ります。
ただし、胎動が少ない・弱いのに加えて、お腹の張りや痛みが頻繁にあったり、出血がみられたりする場合は、切迫早産といったトラブルの可能性もあります。気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。
妊娠後期のお腹の張りの対処法
妊娠後期はお腹の張りが頻繁に起こりますが、多くは生理的な現象で、安静にしていれば治まることがほとんどです。お腹の張りや違和感を覚えたら、まずは椅子やソファに座り、楽な姿勢をとってゆっくりしてください。横になって休めるとなお良いでしょう。冷えやストレスが原因のこともあるので、ブランケットでお腹を温めたり、ホットドリンクを飲んだりして、身体と心をリラックスさせるようにします。
車を運転中であれば、安全な場所に駐車し、できればシートを倒すなどして休んでください。仕事中の場合には、お腹の張りを周りの人に話して休憩させてもらいましょう。仕事中のお腹の張りは、精神的なストレスが原因の場合もあるので、目を閉じて深呼吸するなどして、心を落ち着かせてくださいね。
また、妊娠後期のお腹の張りには、動きっぱなしや立ちっぱなしが良くありません。特に外出中はこまめに休み、歩きすぎないことが大切です。
しばらく休息すれば張りが治まるようであれば、たいていは心配ないとされています。ただし、トラブルのサインの場合もあるため、お腹の張り以外の症状がないかどうかなどをしっかりとチェックしてくださいね。
妊娠後期のお腹の張りで痛みや出血を伴う場合は?
陣痛
妊娠後期にお腹が張るのは、大半が出産に向けた準備のための子宮収縮が原因です。特に出産が間近になると、「前駆陣痛」という不規則な子宮収縮が起こります。これは本陣痛のリハーサルのようなもので、お腹の張りや生理痛のような痛みを伴います。子宮収縮の間隔や強さには規則性がなくバラバラですが、陣痛周期が10~15分間隔または1時間に6回以上と、ある程度規則的になったら本格的な陣痛です。
いつ赤ちゃんが生まれても良い時期になると、前駆陣痛でお腹の張りと痛みが同時に起こるのは珍しいことではありません。しかし、お腹がカチカチに張った状態のままで治まらなかったり、痛みが激しかったり、出血がみられたりすると、なんらかのトラブルの可能性もあります。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)とは、お腹の中に赤ちゃんがいる状態で胎盤が剥がれ、子宮壁から出血してしまうことです。赤ちゃんへの栄養や酸素の供給が止まるほか、母体も大量出血する恐れがあり、最悪の場合、母子の命に関わります。
軽症の場合は自覚症状がほとんど出ず、早期発見が困難ですが、軽い下腹部痛やお腹の張り、少量の不正出血がみられることがあります。症状が重くなると、動けないほど激しい腹痛に襲われ、お腹がカチカチに硬くなります。
常位胎盤早期剥離を発症する確率は妊娠全体の0.5~1.3%と低いですが、妊娠高血圧症候群や絨毛膜羊膜炎を発症しているとリスクが高まるといわれています。
切迫早産
切迫早産とは、妊娠22週以降から37週未満に早産の兆候がみられることを言います。子宮口が開いたり、子宮頸管が短くなったり、子宮収縮が頻繁になったりして、早産しそうになった状態です。赤ちゃんがお腹の中で十分に成長しないまま生まれてしまうと、障害が残るなどのリスクがあるため、安静にしたり治療を受けたりしながら妊娠の継続を図ります。
切迫早産は、規則的なお腹の張りの他、下腹部痛や背中の痛み、不正出血といった症状がみられる場合があります。破水することもありますが、尿もれと勘違いしてしまう人も多いようです。
切迫早産の大半は絨毛膜羊膜炎などの感染症が原因だと考えられています。その他、子宮筋腫などで子宮に問題がある場合や、多胎妊娠のときにも切迫早産のリスクが高まります。
妊娠後期のお腹の張りですぐに病院に行くケースは?
妊娠後期のお腹の張りは問題がない場合がほとんどですが、「長時間安静にしても治まらない」「いつもと違う張りを感じる」といったときは病院に相談しましょう。また、お腹の張りに腹痛や出血を伴う場合もすぐに病院に連絡してください。
妊娠37週未満の妊婦さんでは、1時間に5回以上の頻度でお腹の張りを感じる場合や、お腹の張りの間隔が規則的な上に短くなっていく場合、切迫早産の可能性もあるので要注意です。
なお、受診の際は以下の点を医師に伝えると、診断がスムーズに進みます。気になる症状はメモをしておくと良いでしょう。
□お腹の張りの持続時間はどれくらいか
□1時間に何回お腹の張りがあったか
□いつもの張りと違う点があるか
□出血や痛みはあるか
□胎動はあるか
お腹の張りはトラブルのサインの可能性も
いよいよ出産が近づくと、しょっちゅうお腹が張るようになりますが、場合によっては切迫早産や常位胎盤早期剥離といったトラブルのサインの可能性もあります。お腹の張りの他に出血や痛みといった症状があらわれていないか普段からよく確認しましょう。
ただ、お腹の張りを気にしすぎると、ストレスがたまって逆にお腹が張りやすくなってしまいます。それを防ぐためにも、気になることがあればすぐに病院に相談して、心配ごとをできる限り減らしましょう。心も身体ものんびりできる時間をたくさん増やせると良いですね。
※この記事は2024年7月時点の情報をもとに作成しています。掲載した時点以降に情報が変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。